恋 to 愛~俺が恋したお隣さんの愛する人は俺以外~

虎娘

第1話 お隣さん その①

 ピンポーン――

 ある日の夕方、玄関のインターホンが鳴った。


和希かずき、ちょっと出てくれない?」

「えぇ~母ちゃんが出てよぉ」

「今手が離せないの、見たらわかるでしょうが!」

「はあぁ……めんどくせぇ」


 渋々、俺はリビングに備え付けられたインターホン画面を見た。

 画面映っていたのは……、大きな欠伸をする女の人の姿だった。


――え?なに……今……この人、盛大な欠伸したよね……。ってか、1階のオートロック画面じゃないってことは、このマンション内の人ってことか……。


「和希~、誰?」


 母親の声に対し、俺は正直に見たまんまの事を伝えた。


「でっけぇ欠伸をした女の人……」

「は?なにそれ……」

「だ、か、らぁ」

「わかったわかった。何でもいいからとにかく出て」

「へいへい」


 玄関先へと向かい、ゆっくりと扉を開けた。


「どちら様ですか?」


 俺の目の前に立っていたのは、茶髪ショートボブ姿にまん丸眼鏡を掛け、グレーのスウェットを着た女の人だった。


「初めまして、こんにちは。隣に越してきた、内海と申します。よければこれ、使って下さい」


 そう言い、内海さんが俺に差し出したのは、サランラップとアルミホイルのセットだった。


「え?……ラップとアルミホイル?」

「普通だったら洗剤……とかだと思うんですけど、洗剤って好みがあると思うんです。使わない物を貰うより、使える物を貰った方がいいかな、と思ってこれにしました」


 にこりと微笑む彼女から目が離せず、俺はしばらく見つめていた。


――なんでだろ……俺、この人から目が離せない……。


「あの……、やっぱり要りませんでしたか?」

「え?あぁ……そんなことないです。ありがとうございます。母に渡しておきます」

「はい、よろしくお願いします」


 丁寧にビニール袋に包装されたサランラップとアルミホイルを受け取り、隣の部屋へと戻って行く彼女の後ろ姿を見届け、俺は玄関の扉を閉めた。


リビングへ戻ると、キッチンで忙しなく夕飯の準備をする母が話し掛けてきた。


「どなただったの?」

「隣に引っ越して来た人だって。これ貰った」


 先ほど受け取った物を母へ見せると、一瞬驚いた表情をしたが、すぐにいつもの穏やかな表情になった。


「どんな人だった?」

「う~ん……年上かな……悪くない人だったよ」

「まぁ、今時はあんまりご近所付き合いなんてしないからね……。こうして挨拶だけで終わりでしょう。……長いこと空き部屋だったから、このまま誰も住まないかと思ってたわ」

「へぇ~」

「さぁて、もうじき夕飯ができるから、部屋で寝てる祐希ゆうきを起こしてきて」


 ラップとアルミホイルを受け取った母は、一旦ダイニングテーブルのカウンターへと置き、夕飯の支度を進めた。


「母ちゃんは人使いが荒い……」

「なんか言った?」

「……なんにも」


 俺は渋々、母に依頼された任務を実行するためにリビングを出た。

 『祐希's room』、と書かれたプラカードがぶら下げられているドアの前でノックをしながら声を掛けた。


「祐~、寝てんなら起きろ!飯だぞ、め~し~!」

「…… ……」


 予想していた通り無音。

 俺は大きく溜息を漏らし、双子の弟である彼の部屋へと入ることにした。

 電気は消しているものの、テレビは点けっぱなし、ベッドのあちこちに漫画が散乱している中、器用にベッドにもたれかかるようにして寝ている弟の姿があった。


――いっつも思うけど、よくそんな姿勢で寝れるな……。俺には真似できねぇ……。


 整理整頓能力はあるようだが、スイッチが入らないと片付けないため、こうして散らかっていようが平然と過ごせる弟の姿を見て、呆れるように溜息をこぼした。


「祐っ!起きろっ!」

「ん~ふわぁ……和……どした?」

「夕飯だってよ」

「ん……わかった」


 もそもそと動こうとするも、また寝そうになっている彼を俺は放置し、部屋を後にした。


「一応声かけたよ」


 食事をテーブルに並べる母に告げ、俺も支度に加わった。


「同じ双子でも、性格が全然違うって面白いわね」

「そりゃそうでしょうが。人には個性ってもんがあるんだから……」

「それもそうね」


 母と顔を見合わせ、思わず笑っていると、起きたてほやほやの祐希がリビングへと入って来た。


「……今日の夕飯なに?」

「今日はビーフシチュー」

「ん。……俺は何すればいい?」

「とりあえず、顔を洗って目を覚ましてきな!」

「うっす」


 こうして俺たちの夕餉が始まった。




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