第6話

落合おちあい雪羅せつら side








 このゲームでのデッドエンド数は、その多くが主人公勢のキャライベントに集約される。


 道中の雑魚敵や使い回しの罠などは言うまでもなく、『肉吸い』のような特殊敵や『火迺要慎ひのようじん』のような特殊クソアイテムでの死を全て足した数よりも多いのだ。


 そして、この『怪異ホラーより恐ろしいホラーな私はオキライ?』の世界ではデッドエンド数は死亡率進行難易度に直結し、数多のプレイヤーを苦しめたものだ。


 いや〜、あれは参ったね。なにせ最初のキャライベントですら本職真っ青のストーカーっぷりでスルーさせてくれないんだから。


 アイツはゲーム序盤の低レベルでは並のアイテムを揃えた程度では、とても勝てやしない。


 さりとて強アイテムや能力は中々手に入らないし、時限イベントでもあるためレベルを適正まで上げる時間など存在しない。


 アイツへの攻略は前知識がないと不可能に近いだろう。初見では味方の1〜2人が殺られるのはテンプレお馴染みだった。


 ここに俺や主人公勢が来てからもう2〜3日は経っただろう。そろそろイベントが発生する頃合いだ。


 だから、だから───




「見てくれ二人共! 火迺要慎さっきの呪符、ここのやたら頑丈な壁を溶かせたんだ! どうだい? 凄いだろう」



「あ、アタクシのウォーハンマーで壊せなかった壁を一撃ですの!? パネェですわね……」



「あら? ここの建物、柱は鉄骨ではなく人骨を使ってるんですね。どうして崩れないのでしょう?」



「なんか思ってた反応と違うんだが……まぁ、いいか」




 だから、早く主人公勢こいつらを殺してくれ!


 超人イヤーが拾ってくる音に対して切に願う。


 第一のキャライベントの特性上、主人公勢の皆殺しは叶わないが、それでもこの世界から退場させる事は出来る。


 え? 自分で排除すればいいって?


 冗談はよしてくれ。クレイジー・サイコ・レズビアン主人公ロリ先生異能使いバカお嬢様野生児の三拍子揃ったパーティーに不意打ちなんてしても、どーせ失敗して返り討ちにあうのが分かりきってるだろ?


 皆まで言わせないでくれよ。ハッハッハッ。




「グギャ!?」



「グゴオェッ」



「ミギャッ!」




 そんな一人芝居を『餓鬼がき』の群を相手にしながらやっていた。


 いや待ってくれ、別にこれはナメプとかではなく、本当に余裕があるんだ。我が新武装である『破魔札(下)』のお陰でな!


 『下』と侮るなかれ。


 この武器は序盤では最強クラスの性能を誇る。


 ゲーム時代、この武器が使えたコマンドは【霊撃】【守護】の二つで現在は【守護】で結界を張りながら、『木の棒』と【霊撃】でチマチマ攻撃しているのだ。


 ステータスが見えないこの世界で精神力MPを消費する魔術や霊術への依存は危険かと思ったが、意外と大丈夫だった。


 使うたびに体の中のナニかが減ってる気がするが、すぐに全快するのだ。おそらくコレも俺の高スペックな肉体転生特典の内なのだろう。


 そして、そんな俺が全力で先に進んでるのに、あんな楽しそうにしながら追従してくる(してない)主人公勢はやっぱりヤバイ。




「ゴオォォォォォォォォッ!」




 耐久値の減った【守護】を張り直し、半ば作業的に『餓鬼雑魚』を屠っていると彼等の親玉『餓鬼王』が現れた為、一気に気が引き締まる。


 それこそ、我が仇敵である主人公勢を気にしてられないほどに。


 コイツは餓鬼の名を冠しているが、その脅威度は通常の『餓鬼』と比較にならないのだ。


 なんとなく嫌な予感がしたため横に転がれば、一足飛びに距離を詰めた『餓鬼王』が突進してきた。


 間一髪、俺自身は無事だったものの、張り直した【守護】は掠っただけで砕かれている。『餓鬼』に十数発の攻撃を受けても問題なかったというのにだ。




「やっぱ、ロリ先生が使わないとゲーム時代と同じスペックにはならねぇな」




 主人公勢それぞれの武器適正を特化型とするなら、俺は万能型の器用貧乏だ。こうなるのは必然だったのだろう。 


 まぁ、それは元より承知の上だ。


 それに勝てない訳でもない。せいぜい、時間を掛けて嬲り殺しにしてやろう。


 そうして俺は突貫の返礼をすべく、『破魔札(下)』を構えた。

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