おおぎり
やまもりやもり🦎甘酸っぱエロ系ラブコメ🌷
おとうさんはおしまい! 第一話
「ねぇねぇ、あなたは誰? どうしてお父さんのベッドで寝てるの?」
眠い頭に響いてくるのは娘の恵梨香の声だ。
お父さんは明け方まで執筆してたんだから眠くてしょうがないんだけど、わざわざ起こしてくれた娘にはもちろんそんなことは言えない。
ようやく開けた目の前からは、恵梨香のかわいらしい顔がのぞき込んでいた。
黒髪ロングの娘は眉を寄せて首を傾げ、その顔には困惑した表情が浮かんでいる。
「おはよう。恵梨香」
「だからあなたは誰?」
中学二年生になったばかりのこの自分の娘は、幼いながらも時折亡くなった母親に似た表情を見せ、思わずドキッとしてしまうこともあるのだけれど、今は不思議そうな顔でじっとこちらをじっと見つめている
どうしたんだろう、ちょっと不安になってきた。
「どうした恵梨香。ひょっとして記憶喪失になったとか? 分かるか、お父さんだよ!」
「えー、何言ってるの?」
「お父さんのことわからないか?」
大変だ。娘が記憶喪失になったのかもしれない。
「いや、お父さんはわかるけど、だからあなたは誰なの?」
「え?」
恐る恐る両手を目の前に上げてみる。子供のような白い手のひらが目に映る。
「恵梨香、ちょっと鏡を持ってきてくれ」
「えーっとちょっと待って」
自分の娘が目の前に掲げる折り畳み化粧鏡に映る自分の顔は、どうみても40代の顔ではなかった。というか男ですらなかった。
そこに映っているのはおかっぱ頭の女の子の顔だ。
あ、でも娘に似ててちょっとかわいいかも。
いや、そういうことじゃなくて。
「どういうことだよ!」
慌てて布団を撥ね退けると、ベッドから降りて立ち上がる。
パジャマのズボンがパンツごと床へとずり落ちた。
そして中学二年生の娘が自分より背が高く見える。
「鏡! 鏡、かがみ、かがみ!」
玄関わきに走って姿見で自分の身体を見てみた。
そこに映っていたのは、どうみても小学校高学年ぐらいの女の子の姿だ。
寝巻代わりに来ていたTシャツがだぼっと自分の小さな身体を隠し、細い子供の生足が下に覗いている。
「恵梨香大変だ。お父さん、女の子になっちゃったよ」
「すごい! お父さん」
隣に立っている娘の恵梨香は、なぜだかうれしそうな顔をしていた。
「なんでうれしそうなの?」
「だって私、妹が欲しかったから」
「妹じゃなくてお父さんなんだけど……」
・・・
「どうしよう恵梨香」
「んー、とりあえず、服を着た方がいいんじゃない?」
そう言われてもう一度鏡を見ると、鏡の中の自分は男物の大きなTシャツを一枚被っただけの姿で、なんというか、危険だ。
うっかりすると児ポ法に引っかかってしまう。
「でもお父さん、女の子の服なんて持ってないよ」
「じゃあ私の昔着てた服をあげるから。こっちに来て」
嬉しそうな恵梨香に手を引かれて娘の部屋に入り込んだ。
そういえばこの部屋に入るのって数年ぶりだよな。
「はい、じゃあこれ」
恵梨香はてきぱきとタンスから服を取り出してきた。
小さな子供用のTシャツに、ショートパンツ。それから、女児用のパンツ。
「えーっとこれ着るの?」
「着ないの?」
「着ます」
そうだよね、着ないとだよね。
「お父さん、ブラはどうする?」
「え?」
「ちょっとじっとしてて」
娘がTシャツの上から胸の上に手を当ててきた。
「まだ大丈夫かな」
「それはよかった」
まだここでブラジャー(しかも女児用)を付ける勇気はない。
とりあえず着替えを受け取って自分の部屋で着てみた。
いろいろ勇気がなかったので下半身がどうなっているのかはまだ見ていない。
「どうかな、恵梨香」
「うん、かわいいよ。お父さん」
「えへへ」
なんて答えたらいいのか返答に困り、つい娘に愛想笑いをしてしまう。
「そういえばお父さん、さっき編集の人から電話があって」
「あーそうなんだ、なんだって?」
うちの娘、いろいろ順応が早いな。
「原稿受け取りと次の打ち合わせにもうじき来るって」
「そうなんだ……って、ちょっと待てよこの格好で会うのかよ!」
「いいんじゃない、かわいいよお父さん」
ニッコリとする娘。
「いやいやいや、この格好で人に会ったら、おとうさんはおしまいだよ」
ぴんぽーん、ぴんぽーん
インターフォンが軽やかに音を立てる。
そして玄関先から編集者の声が聞こえてきた。
「〇〇〇〇〇〇〇先生! 居留守を使っても駄目ですからね!」
(第一話ここまで。次回、娘と一緒にお・ふ・ろ、に続く)
――――――――――――――――――――
始まりましたこのエッセイですが、説明文にありますように「長編の第一話だけ書いて読者の反応を見てみる」という趣旨となります。なので続くと書いてありますが第二話には続きません。ご了承ください。
さてこの第1回目の第一話、タイトルは「おとうさんはおしまい!」です。
こちらはX(twitter)の創作系スペースでの某まぁじんこぉるさんの「知り合いに『おにまいっぽいTSラブコメを書いてほしい』と言われた」という発言が発端となっています。
いやね、普通何十年か生きていても「おにまいっぽいTSラブコメを書いてほしい」とか言われることってないじゃないですか。どんな人生送ってるんですかね。私としてはその人生を小説化してもらいたいです。
では第2回でお会いしましょう。
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