第32話「決戦Ⅱ/名もなき何もかも」

【前回までのあらすじ】

 覚悟を決め、信念を再装填しセンチネルの群れを薙ぎ払うカザネとカナタは、バイクごとツルギモリ本社タワービルへと突入する。

 待ち構えるは更なるセンチネル、そして残留思念集合体——ムガ。

 デッキという盾からカードという剣を引き抜き、煮えたぎるアドレナリンを制御しながら、札闘士の二人は決戦の決闘場へと赴くのであった——。


 ◇


 ——爆炎、硝煙、瓦礫たち。

 見渡す限りの地獄絵図。どうしてこんなになっちゃった?


 ……現実逃避をしても仕方がない。ここはツルギモリ本社タワービル内部。

 私とカナタが突入した時既に——内部では激闘が繰り広げられていた。


 ——センチネルの群れと戦っていたのは、


「これって——」

剣守カイリあの男、限定的とは言え既に札伐闘技の技術を実用化していたか」


「抜かりないな」と続けながら、カナタはデッキから再びセンチネルを召喚する。

 それは全身に武装を装着するためのハードポイントと磁石内蔵のサルベージアームが存在する人型兵器であった。


「——『GAゴールデンアームズ-アダスター・ストライカー』を召喚。

 効果により、手札を一枚捨て札にし——その後任意で捨て札の『GAゴールデンアームズ』をこのカードに武装として装備する——俺は今捨てた『GAゴールデンアームズ-レインランス』を装備する」


 サルベージアームによって回収されたのは、無数の槍。先端には高周波ブレードが装着されている。


「これにより、アダスター・ストライカーのAPは500上昇。さらに、相手センチネルの数×100APが上昇し——相手センチネル全てに攻撃ができる」


------------

GAゴールデンアームズ-アダスター・ストライカー』

 AP1500 → 2000 → 2002000

------------


「に、にひゃくまん!?!?!?」


 思わず声出た。じゃあ何、今この周辺にまだ20000体もセンチネルがいるってこと!??


「思ったより多いな。だが敵センチネルが減れば減るほどAPは下降する。一種の残数カウントにはなるだろう」

「冷静ね!」

「いや、そうでもないぞ」

「あ! これ逆に昂ってんのね!? 流石にわかるようになってきたわよ!!!」


 カナタ、あまり表情に出さないだけでおそらくかなりのバトルジャンキーだもんね……!


「待て! お前たち何しに来た!」


 ——と。武装社員たちが私たちにもセンチネルという名の銃口を向けてきた。

 ……まあそりゃそうよね。ただでさえ大混乱の最中なのに、いきなり札闘士がバイクで突っ込んできたんだもの。警戒して当然ってもんよね。


「あ! 待ってください! 私たちこれでも元凶を倒しに来たんです! いや信じられっかって思うのもわかるんですけど!」

「最悪の場合、俺のヴォイドフレームで拘束する」

「それはマジの最終手段だからね!」

「信じたいが迂闊にこれ以上進ませるわけにもいかないんだよ!」


 悲痛な叫びと共にこちらにも部隊の一部を接近させるツルギモリ武装社員たち。——くっ、やるしかないっての!?


 ——その時だった。

 エントラスルーム中央の階段——その上から聴き覚えのある男の声が響いた。


「——待て。が保証する。

 彼らは敵ではない、おれの生徒だ」


「——沖田先生」


 その名は沖田シゲミツ。私たちの学校の教員にして、願いを持たない異色の札闘士。そして——


「神崎と月峰。お前たちがおれを信じないのは構わない。……だが、少なくともおれは利己的な願いを持たぬ虚ろな器にすぎない。おれ以外の願望エゴに応えようとする反響エコーにすぎない。

 ——カイリのことは把握している。ゆえに今こうして陣頭指揮を行うこととなったわけだが——この場を離れられないおれの代わりに、残骸ムガとやら?」


 沖田先生は、何かよくわからない影のようなセンチネルたちに指示を出しながら、私たちに問いかける。

 ——即座にカナタが前へ進み出る。


「当然だ。どの道、札伐闘技をこの破綻状態で放置するのは誰よりカザネが我慢ならないだろうからな。俺はカザネを助けるだけだ」

「カナタ——」

「カザネ。こうは言ったが、実際のところお前はどうだ? この状況、お前はどうしたい?」


 沖田先生のみならず、カナタからも問いを投げられる。

 ——でもさ。そう何度も言うことじゃないでしょ。リフレインはもうしまくった。何度も何度も自問自答しまくった。

 だからとっくに答えは出てるのよ。


「何度も言わせないでって。

 ——このクソ儀式を全部ぶっ潰す。ただそれだけよ」


「ああ。愚問だったな」

「——ふむ。承知した」


 二人は言うや否や、即座に戦闘を本格的に再開した。


「行くぞカザネ。再びバイクで突き抜ける——!」

「わはは! こんな時しかできないもんね! ぶっ込むわよ!!」


 そして私たちは再度バイクで爆進した。芸都の危機を前に、私らは道交法を追い越した。


 ◇


 階段——というか正確にはエスカレーターを駆け上がるカナタのバイク。私のデザイアブレイドたちとカナタのGAゴールデンアームズたちが道中の敵センチネルを薙ぎ払う。

 連絡が既に行っているのか、道中で遭遇した武装社員たちは私たちの突撃をサポートしてくれて、そしてムガがいるらしいエリアへの道を順々に案内してくれた。

 そして——


 ——最上階。

 三六〇度全ての壁展望ガラス張りとなっている社長室——その中央柱に連なるエレベーターへ乗り込んだ私たちは、決戦前の打ち合わせをしていた。


「——で、どっちが戦う?」

「カナタ、やっぱ戦いたい?」


 私の問いにカナタは「当然」と頷く。

 バトルジャンキーなことバレバレ。早く戦いたいの確定って感じ。もしかしたらカナタはそういう時代に生まれた方が居心地がいい人なのかもしれない。良いとか悪いとかではなく、ただそういう性分の人だってそりゃいるのだろうから。その上で彼は可能な限り抑えて生きてきたんだろう。だから、チャンスがあれば命のやり取りをしたくてたまらない——そういうことなんだと思う。


 なのに、なのに——

 不器用なりの優しさなんだろう。物騒な性格のくせに、そういうところはちょっと可愛いんだよね。やめてほしい、決戦前にそういうの。


「でも訊いてくれたんだ」

「ああ。カザネの覚悟を聞いた以上、それを無視することはできない」

「——そ。じゃあ、」


 ——だったら私の気持ちはわかるだろう。いや、わかっているからこそ、今一度覚悟を問うてくれたのか。

 やっぱ矛盾してるよカナタ。誰よりも殺し合いたいんだろうに、なのに気遣いと優しさが二律背反してる。そんなんじゃどん詰まりになっちゃうよ。やっぱ危なっかしいよ。一人でどっかで死んじゃうよ? 私、そういうのは嫌だな。カナタ、名前みたいに遥か彼方に行ってしまいそうだもん。ほっとけないよ。


 ——などと。どうも私も状況が状況ゆえにかまあまあ感極まっているみたい。

 次の言葉を紡ぐその一瞬の間に、よくもまあここまで述懐できたものだ。


 まあその、兎にも角にも。あれだけ啖呵を切った以上、そして、アリカやカレン、社長の死——いや、を見届けたからには——私は今度こそ、明確に、この戦いの元凶に対して——


「私があいつムガを、殺してくるね」


 ——殺意をぶつけないといけなかった。


 これが私の覚悟。

 確かな願いを持って挑むこととなったこの戦いへのレクイエムを、私がぶつける。それがきっと、私がやりたいこと。世の理不尽への怒り。理由なんて忘れたけれど、たぶんこのクソ儀式よりも前から、私はそういう精神構造だったんだろう。社会への怒りが、たぶん湧き出やすい人間なのだ。


 こういうのもロックなのかな。わかんないけど、でもそんな私だからカードデッキと出会ったんだろう。そういう運命だったのだ。


 剥き出しの感情をデッキに乗せて、私はいつも吠えていた。いつからそうなのかは今はどうでもいいか。少なくともこのクソ儀式に対しての怒りは、私の中で正しいと思えるのだから。

 この感情を剣として元凶にぶちかます。——どうあれ、もうその決断は済ませていた。


「——そうか。なら、このカードを使ってくれ」

「え? ——って、これ!」


 急にカナタから差し出されたカードは、確かに切り札足り得るカードだった。けどこれって——


「——これ、私が使って良いの?」

「勝って返してくれればそれで良い。勝てるさ、カザネならな」


 いい笑顔で、カナタは言いきった。

 私は顔が熱くなった。夏まだなんですけど!


「——……〜〜!

 ——っていうかっ! 私これ使えるの?! 人のカードってデッキに入れられるの!??」


「ムガ——というか吉良が剣守カイリにやったことを思えば、拒否しなければ使えるだろうな」


「だとして! それってカナタの心のカケラが私のデッキに入ってくるってことじゃない? なんか、なんか、良いのかな!?」

「俺を受け入れてくれたカザネなら大丈夫だよ」


 またしてもこの男は堂々と言いきって見せた。

 もう顔真っ赤ってレベルじゃない。梅干しみたいになってない?


「——すけべ。

 後で覚えてなさいよ」

「——?

 ……それにしても、、か。良いな、その言い方。その調子で勝つんだぞ」

「うっさい、当たり前だってのっ!」


 言っててなんだか可笑しくなってきた。ちょうど良い塩梅で緊張がほぐれていく。

 この先に待つのは最悪の元凶。だというのに、私は案外落ち着いていた。

 カナタのカードが入ったデッキのおかげかもしれない。また変化が見えたけれど、これで今度こそ私の心は決まったのだろう。


 おーーーーーーーーーーーーーーーーん。

 天を衝く塔を駆け上がる機械音が次第に収まっていく。そして——


 ——エレベーターが、最上階への到達を示す音を鳴らす。


 荘厳なベルの音。重苦しいドアの駆動音。


 開いた先には芸都の夜景。パノラマビューのその中心にて、元凶たるムガが臨戦態勢で待ち構えていた。


「——来たか。素晴らしい、だがどこにもないこの感動は、私の心のどこから出ているのだろうな?」


 尚も意味不明のポエムを撒き散らすムガに対して、私は既に手札を構え——走り出す!


「どうでもいいこと口走ってんなら、先攻は貰うわよ——……!」

「残念だが! ハハハ! 私はそこまで甘くはないさ——っ!

 浸蝕結界——『逆巻く深淵-リバースパイラル・アビスホール-』…………ッ!!」


 瞬間、展望窓が弾け飛び——芸都中に黒い柱が聳り立つ!

 更には——天井すら溶け落ちて、上空に真黒の孔が穿たれる!


「さあ始めようか月峰カザネ!

 私の始まりにして——驚天のフィナーレを!」


「「——札伐闘技フダディエイト——!!」」


 ——そして、決闘が始まった。

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