君と僕の見えない世界で見た世界
ところわか
第1話 天気のいい日に干したぬいぐるみのにおいの色
『お兄さんは何色に見えるの?』
『緑と濃い青がぐちゃぐちゃしてる。カッコいい色だよ』
『そうなの?緑好きだからなんか嬉しいなぁ。あ、そうそう。今日はこれをプレゼントしようと思ってきたんだ。はい、どうぞ』
『…くれるの?』
『もちろん!この前好きって言ってたから。開けてみて?』
『可愛い…!これ、見たことない色だよ!』
『気に入って貰えてよかった…実はね、君に少しお願いがあるんだ』
『お願い…?これプレゼントしてくれる代わりにお願いを聞いてってこと?』
『ふはっ、流石賢いね。お兄さんも一緒に来てもらっていいから、行こうか』
『うん!』
「おは~!」
「おはよ」
「なぁこれ見てよ、昨日地元の奴らと行ってきたんだけどさ、もうめちゃくちゃ綺麗なんだよ!朝と夜で色が全然違っててさ。凄くね?」
「えぇ、めっちゃ綺麗じゃん!私達も連れて行ってよっ」
「おうおう。何か、季節によって色も変わるらしいし冬になったら行こうぜ!ダイも行くだろ?」
「行く行く。けどお前冬になる頃には忘れてるだろ?」
「んなことねぇわ!」
昨日遊びに行った場所の良さを熱弁している黒岩ハルト。大学に入って約2か月。俺、白井ダイキは、この賑やかなクラスメイトのハルトと、蒼井ナホ、緑川ユウカの4人で大学での時間を過ごすことが多くなっていた。先ほど見た写真は、確かに綺麗な色だったんだろう。だが、俺にはにはそれが分からない。残念ながら。
俺の目は生まれながらに色の区別がつかない、色盲。症状の程度は個人差があるらしいが、俺の場合は白黒の濃淡でしか色を判断することが出来ない。さほど気にしてはいないし、日常生活も普通にできる。周りに気づかれることの方が珍しい程に、普通なのだ。色覚補正メガネというものが今の時代は手に入る。だが、小さいころの俺はそれが体に合わず、なおかつ見た目の派手さからからかわれることも少なからずあった。幼い俺には我慢することが出来ず、それ以降使うことはなくなった。もちろん、最後にメガネを通して見た色の記憶なんて何処かへ行ってしまった。
「ここじゃないんだけどさ、来週どっか行きたくね?」
「え、いいじゃん行こうよ!」
ハルトとユウカによって淡々と話は進んでいき、日曜日にドライブに行くことが決まった。
「ねぇ、私カノンちゃん誘いたい!」
「私も今それ言おうと思ったのに、」
藍染カノン。彼女もクラスメイトの1人だ。スラリとした手足に綺麗に整った顔。後々分かったことなのだが、頭もキレるらしい。俺たちの間で彼女は高嶺の花的存在であり、ユウカやナホのように皆が仲良くなりたがっている。容姿だけでなく性格まで素晴らしいと来た彼女は、クラス全体が気になる存在へとなっていた。
「ねぇカノンちゃん!」
「…んぇ私?」
まさか自分が呼ばれるとは、と言う表情でこちらへ来た。
「日曜日にドライブに行こうって話になってるんだけど、カノンちゃんも一緒に行かない?」
「ド、ライブ…?私も入っちゃっていいの…?」
「もちろん!」
「ナホとユウカ、藍染さんと仲良くなりたいってずっと言ってたんだよ」
「ちょっ、ハルトは黙ってて…!」
ユウカが余計なことを言うなとでも言うようにハルトの肩をバシバシと叩く。告白をする訳でもないのに、と俺は吹き出して笑ってしまった。
「予定確認してみるね…!空いてたら、一緒に行ってもいい…?」
「うんっ、分かったら教えてね!」
女子2人は彼女とお近づきなられるとルンルンだったが、結局日曜日、どうしても外せない用事があったみたいで一緒に行くことはできなかった。
「昨日誘ってもらったのに行けなくてごめんね…」
「全然いいよ!次もまた誘うから一緒に行こうね?」
「ありがとうっ…」
ほっとした彼女の笑顔は、殺傷能力が強かったのか周囲にいた人全員が心臓を撃ち抜かれかけていた。
「ダイキ」
「…うぉ⁉びっくりさせんなよ帰ってんなら言えって、」
「すまんすまん」
夜、家のリビングでのんびりテレビを見ていると、いつ帰ったのかわからない父親が真後ろに立っていた。
「ほらこれ、来週から来て良いですよだってさ。場所はそこに書いてあるから、学校終わったらそのまま行けよ~」
渡された資料に書かれているのは、ある会社の住所だった。
【株式会社MUGEN】
ここは、俺がアルバイトをすることになった会社だ。
親の職業に憧れるのはよくある話で、俺もその例にあった。父親はアパレル会社勤務のファッションクリエイターだ。業務内容はデザイナーと違うが、幼いころ事務所に連れて行ってもらったときにふと目に入った洋服たちの絵に憧れてしまったのだ。白黒しか判断できない俺にとって、デザイン画に色なんか関係なかった。線。しなやかで、紙越しに伝わる躍動感がたまらなく好きだった。
それでも幼いながらにデザイナーには色が必要な仕事であると早くに気づいてしまい、将来の夢から一生の趣味へと変換した、誰にも話したことない夢だった。
大学に進学してから将来の夢があるのかと親に尋ねられた時、幼いころの話を何の違和感もなく話していた。ファッションデザイナーという夢をあきらめてから、夢なんか特に考えたことなんかなかったが、そのことだけは忘れていなかった。そうしたら親父が、
「この間知り合った仕事関係の人に、すごい人がいるんだよ!」
と、妙にノリノリになって。次の日にはその人に話をつけて帰ってきた。将来の仕事にしなくてもいいからとりあえず行ってみろ、お前の為になる事が絶対あるから。なんてカッコいいこと言ってくれちゃって。
「…なんか、ありがとうな」
「何言ってんだ。子供の将来を応援すんのが親の役目なんだよ。それに、幼いお前が俺たちの仕事に興味持ってくれていた事が嬉しかったんだよ」
普段から温厚でよく笑う親父だが、この時ばかりは本当に嬉しそうで楽しそうだった。
『株式会社MUGEN』
俺の新しいバイト先は、アパレル会社だ。
「なぁダイさ、サークル入る気ねぇの?」
「サークル?うん、全くないな。多分俺に向いてない。どっちかっていうとバイトしてぇもん」
「大学生活だぞ⁉卒業したら嫌でも働かないといけないのに、今から働き詰めかよ」
「本当だよね。私卒業したくないから院まで行く気だよ」
「私はダイ派かな。早くお金貯めていい部屋に一人暮らししたいもん。カノンちゃんはサークル入ってるの?」
朝一、大学に集まった俺たちは、ナホとユウカの要望に応じて藍染さんの近くに座った。
「私?私も…働きたい派かな。一応サークルとかは入らないつもりだったし、白井くんと同じで向いてない気がするからさっ」
「そっかぁ。お金を稼ぐって大変…」
ハルトとユウカは就職がよっぽどいやらしく、まだ1回生だというのに既に項垂れていた。
「そういえばカノンちゃんってなんのバイトしてるの?」
「アパレル関係の仕事だよ。服好きだからさっ」
「えぇそうなんだ!どこどこ?行ってみたい!」
「んとね、在庫管理…?っていうのかな、完全裏方の仕事なんだよね、だからほとんどお店に行くことないの」
「そんなアルバイトあるんだ⁉でもカノンちゃん毎日びっくりするくらいお洒落だから言われて納得だねっ」
「んぇ…?あ、ありがとう、」
自分の服を褒められたことが恥ずかしかったのか、はにかんでお礼を言う彼女に周りにいた人間誰もがボソッと「可愛い…」と呟いていた。俺が今日から行くことになったバイト先もアパレル会社っていうことで、俺は勝手に藍染さんに親近感を覚えていた。
「あ、ダイ。今日俺駅前の百貨店行くんだけど一緒に行かねぇ?」
「今日か…残念ながらバイトなんだよな。」
「やめたんじゃなかったのかよ!」
「新しいところ。その百貨店俺も行きたいからまた今度誘ってよ」
高校卒業する少し前から始めた飲食店のバイト。半年ほどしか働いていなかったからか、新しいバイトが楽しみなのだからか、未練なくあっさりやめてきてしまった。早く今日の授業が終わらないかとソワソワしている。
「…ガチここ?」
今俺の目の前には豪邸が広がっている。大学終わりに親父に渡された紙に書いてあった場所に来たのだが…。株式会社とか言うからオフィスビルとかかと思うじゃん?なぜか豪邸に行きついたんだけど。表札のように小さく『株式会社MUGEN』と書いてあるから間違いではないだろうが。恐る恐るエントランスに入ると、色んな服装の人が働いていた。どこへ行けば良いのか分からずキョロキョロしていると、
「ご用件をお伺いいたしましょうか?」
背の高い整った顔の男の人に声をかけられた。この人、めちゃくちゃスーツ似合うなぁ…。
「あ、あの、今日からこちらでアルバイト…」
「あぁ!白井君ですね、お待ちしておりました。ご案内しますね。」
「あ、はい、」
どうやら僕のことを待っていてくれたらしい。宇瑠間と名乗ったこの人に案内されたのは、いくつかある扉の中でも一際大きな扉の前。
「失礼します。カノン様、アルバイトの方をお連れしました」
雇い主の人はカノン様っていうのか……ん?
「あ、もうそんな時間でしたか」
「…えっ、藍染さん⁉」
扉を開けた先には、さっきまで大学で顔を合わせていた藍染さんがいた。普段と服装こそ違うが、確かに彼女だ。
「…白井君?えっ、アルバイトって白井君だったんだ!」
「お二人とも、お知り合いだったんですか?」
「大学が一緒で…。白井さんの息子さんだってことしか知らなくて、下の名前までは聞いてなかったから…えぇびっくり!」
アルバイトできたのが俺だったことに心底驚いているようだが、俺は他にも色々驚いている。というか混乱している…。
「…あの、イマイチ状況が分かってないんだけど、えっと、藍染さんで間違いないよね…?」
「うん合ってるよ!ごめんね意味わかんないよね、取り敢えず座って?」
「あ、はい…」
普段大学ではショート丈のスカートやパンツを着ている藍染さんが今はオーバーサイズのパンツスーツ姿で、めちゃくちゃカッコいいんだけど。
「改めまして私は、こういうものです」
差し出された名刺に書かれていた文字に俺は驚愕した。
「…代表取締役⁉え、ここの社長なの?」
「父から継いだから、肩書だけみたいなもんだけどね」
「そんなことありませんよ。カノン様は実力も経営者としても、皆が納得しております」
宇瑠間さんは藍染さんが謙遜したことが不服だったのか、怪訝な顔をしてその言葉を否定した。
「宇瑠間は私の執事なの」
「よろしくお願いします。何か分からない事など御座いましたら、なんでもお聞きください」
「よ、よろしくお願いします、」
現実で執事さんを見る機会なんてないと思っていたけど、まさかこんなところで、しかも主が大学のクラスメイトだなんて…どれだけ寝ても夢で見られない内容だ。
「親父が凄い人がいるんだとしか聞かされてなかったから、まさか藍染さんがいるとは…」
「うん、私も凄いびっくり!…でも、嫌じゃない?同級生がやってる会社で働くなんて。白井さんに私の年齢伝えたことなかったから知らないのは当然のことなんだけど…」
雇い主が同年代や年下というのは社会人になればよくある事。でもそれが18歳同士ともなると、少し気にしてしまうようだ。
「そんなこと気にしないよ。俺ここに来るのめっちゃ楽しみにしてたんだよ。だから、ぜひお願いします」
「…本当?良かったぁ。…お父様からちょこっと聞いてたんだけど、色盲、なんだってね?」
「うん、白黒しか見えてないみたい。特に生活に支障はないんだけどね」
俺がそう言うと、白黒ねぇ…と何やら考え込んだ藍染さん。不思議に思っていると、不意に何事もなかったかのように笑顔に戻った。
「仕事内容は、書類整理とか私の遠出に付き合ってもらったり、付き人みたいな感じになると思うんだけど、大丈夫かな?」
藍染さんの遠出に付き合うという点においては少し質問をしたかったが、付き人の延長だろうなと自己完結した。
「全然大丈夫です。何でもやらせてもらいます」
「んふっ、いいね!」
そこからシフトの話や、大まかな仕事の流れ、会社についての話を聞き終えた俺は、藍染さんが本当にしっかり社長という仕事をしていることに感心しきってしまっていた。心なしか、大学にいる時よりもテンションが高く感じて、それも新鮮で面白かった。
「早速なんだけど、白井君いつから来られそう?」
「いつでも大丈夫です。前のバイト辞めたから、明日からで…」
「本当⁉じゃあ明日からお願いしちゃおっかなっ」
明日からでも大丈夫です。と言い終える前に、興奮気味の藍染さんに答えられた。
「あと、これは私からのお願いなんだけど…」
「お願い?」
「あのね、出来れば仕事中敬語は止めて欲しいなぁって思ってて。ここで働いてくれている人たちみんな、社長だからってすっごい堅苦しいの。それが社会の当たり前なのかもしれないけど…。それほど社長って感じでもないから。それに、私大学生の人が来るって聞いてすっごい楽しみにしてたの!だから、ね?」
…これは、いいのか?ん~…
「…ん、了解」
「ありがとう!あともう1つ。学校ではバイト先が一緒ってことだけにして、このこと内緒にしててほしいの。大学くらいは普通に過ごしたいから…」
「もちろん、大丈夫だよ」
みんなの普通が普通ではない。ということは聞いたことあったが、こんな身近にそれを感じている人が居たとは思わなかった。
「改めて、これからよろしくね」
こうして俺は、クラスメイトの藍染カノンさんの下で、アルバイトとして働くことになり、刺激のある日々を過ごすことになっていく。
「ダイ帰んないの?」
「帰るけど、このままバイト行く。…藍染さん、」
少し離れた所にいた藍染さんに手を振って終わったよと合図を送る。講義が終わっても中々動かない俺を不思議に思ったハルトが声を掛けてきたが…
「…え、なにダイどういうこと⁉カノンちゃんとどういう関係なの⁉」
「抜け駆けしたな、」
隣にナホとユウカが居たというのに藍染さんに声を掛けてしまったがため、すごい剣幕で攻め立てられている。そういや2人は彼女のファンのようなものだった…。これでもかという程肩を揺さぶられている。
「違う違う落ち着け痛ぇ…!新しいバイト先がたまたま一緒だったんだよ、」
「そうなの、だからシフト同じ日は一緒に行こうって話になったの」
藍染さんに助け舟を出してもらって、ようやく納得した2人。…これ、藍染さんの彼氏にでも出会ってしまったらこの2人は大変なことになるんじゃないか、と変な心配をしてしまう。
「めっちゃ偶然じゃん!てことはダイもアパレル?お前も服好きだもんな」
「まぁね。ってことでまた明日…」
「ストップ!」
これ以上女子2人に詮索される前に退散しようとしたが、俺じゃなくて藍染さんのほうがナホに止められた。
「な、なんかあった?」
「うん。カノンちゃん明日から講義被る日一緒にお昼食べよ?」
離すまいと両手を握って懇願している姿はまるでプロポーズだ。後ろでハルトはその必死な姿に大爆笑している。
「ダメ?」
「だ、ダメじゃないよ!むしろ、私がみんなの輪に入っていいのかなって…」
「いいじゃんいいじゃん!明日から5人飯だなっ」
お昼を一緒に食べることになって大喜びの女子2人を置いて、俺たちは大学を出た。
「なんか、最近みんなと仲良くなれてすっごい嬉しいんだよね」
「あの2人、ずっと藍染さんと仲良くなりたいって言ってたんだよ。あの喜び方を見てわかる通りに…てかさ、これ駅と反対方向だけどいいの?」
何も考えずに藍染さんについてきていたけど、駅からどんどん離れている。
「大丈夫!ここに来たかったの。お待たせしました」
「…んぇ、宇瑠間さん⁉」
人気の少ないコンビニの駐車場に止まる1台の黒い車からしっかりスーツを着こなした宇瑠間さんが出てきた。
「お2人ともお疲れ様です。乗ってください」
「あ、お願いします…」
後部座席に2人で乗り込むと、滑らかな運転で車が動き出した。この座席、ふっかふかなんだけど…初めてこんな車乗った。
「授業終わるタイミング同じときは、宇瑠間が一緒に乗っけてくれるから。あんまり学校に近いと誰かに見られてたりするかもしれないから、あのコンビニに迎えに来てもらってるの」
「あぁ…なるほど。ありがとうございます」
「いえいえ」
20分程で会社にはついた。門をくぐって現れる大小2つの建物。大きいほうが株式会社MUGENで、小さいほうは藍染さんや宇瑠間さん達使用人の人が住んでいるのだとか。宇瑠間さんが車を戻している間に、昨日いた仕事部屋まで連れて行ってもらう。この広いお屋敷のような会社の中はまださすがに迷子になる。
「じゃあ、今日からよろしくね!」
「よろしくお願いします。」
「基本的に仕事はこの部屋ですることが多いから、1人で来るときは直接ここに来てもらえれば大丈夫。で、入るときは必ずこれをつけてね」
渡されたのは、ストラップのついた名札。
「今日は基本的な書類整理を教えるね。この作業に関しては尽きることないから、暇があればやって欲しいの。」
たくさんある紙の束から数冊を取り出し、細かい説明をしてもらう。俺たちは経営学部なのだが、藍染さん通う必要ないんじゃないか?と思ってしまう。書類整理と聞くと、数字ばっかり見ると思っていたが、これが中々面白かった。記事の特徴や在庫データ、会社で取り扱っている装飾品の種類、店舗においてある数などと、興味深い。とっくに諦めていた夢ではあったけど、服への関心は捨てきれてなかったんだなぁと思わされた。コツコツと作業を進める俺の前では、藍染さんがパソコンをカタカタ叩いては資料を見て。という完全な仕事モードに入っていた。大学で見る姿とはかけ離れすぎていて、関心と尊敬の心で見とれてしまった。
「…何か分からないところあった?」
「え、あ、ううん。藍染さんすげぇなって思って見てた」
「そんなことないよ?やればみんな出来ちゃうことだし」
この発言だけ聞いていると、彼女が大学生であるという事が信じられなくなる。その後もびっくりするほどの集中力でパソコンと向き合っていた。たまに電話で対応する姿は本物の社長そのもの。俺が次の作業を聞いてもすぐ的確な指示をしてくれる。
…なんだこの子は。とても同い年には思えない。
「失礼いたします。すみません、もう少し早く来るつもりだったのですが電話が続いてしまいまして…」
車で別れてからまだ姿を見ていなかった宇瑠間さん。手には数冊のファイルを持っていた。
「お疲れ様です。こちらは全然大丈夫ですよ!白井君、仕事覚えが早くてすっごい助かっています。」
「そのようですね。どうでしょう、だいぶ時間もたちましたし、今日はこの辺にいたしませんか?」
作業中は必至で気づかなかったが、始めてからもう3時間がたっていた。
「本当だ…。よしっ、今日はこの辺にしておこっか!白井君、今週お休み2回しかないけどいいの?私達からすると凄い助かるんだけど…」
「全然問題ないよ。こんな仕事させてもらえる機会他にないし、ファッション関係のデータ見てるの結構楽しかったからさ、藍染さんが良ければ働かせてほしいです。」
本音だった。普通の生活をしていれば目にしない事ばかりで、この数時間で色んな所が刺激された。働かせてほしいというと、なぜか2人が固まってしまった。
「白井君、」
「な、なに?」
「…最っ高だね。同年代の人がこの仕事に興味を持ってくれてすっごい嬉しい!」
いきなりの至近距離で堅い握手をされ少々戸惑ったが、改めて彼女が凄い美人だというを感じた…俺、大学の藍染さんのファンに殺されないかな。
「そんな嬉しいこと言われたら私めちゃくちゃ働かせちゃうけど良い?あ、もちろん法には触れないから安心して?」
「ふはっ、うん大丈夫。よろしくお願いします。」
ここまで歓迎されてしまうと、俺まで嬉しくなってしまう。テンションの高い藍染さんは大学では見られないが、ナホとユウカが友達になりたがっていたのがよく分かった。これは根っからのいい人だな。
そして、その株式会社MUGENの社長は今俺たちの目の前でうどんをすすっている。
「カノンちゃんも食堂で食べてたんだね、勝手にお弁当とか持ってきてそうなイメージつけてたからさ」
「そう?せっかくの大学生活だから、色んな事楽しみたいなぁって思って絶対食堂かカフェで食べてるよっ」
「分かる!今を思う存分楽しまないとね?」
今までは授業前に少し会話をするくらいの関係だった藍染さんと沢山話せる環境になったことが嬉しいのか、女子2人は質問攻めになっている。
「カノンちゃん彼氏いるの?」
「いないよ!いたこともないなぁ」
その言葉にその場にいた全員が驚きの声を上げた。
「へっ、そんなに意外だった?」
「うんめちゃくちゃ。大学入ってからも告白されたでしょ?」
「ん~…して貰ったことはあるけど。多分私に恋愛は向いてないんだよね。今はこの生活が楽しいしっ。」
藍染さんが恋愛に向いているかどうかは今の俺に判断はまだできないけれど、会社の経営に大学、それに加えて恋愛ともなるとさすがに時間が足らないだろう。
「…カノンちゃんってすべてが大人だよね。考え方が今の大学生じゃない」
「だよなぁ…なんか彼女欲しいとか口癖のように言ってるのが恥ずかしくなるよ、」
「えぇなんで!」
人当たりのいい藍染さんはあっという間に俺ら4人と仲良くなった。そして、そんな彼女と一緒に働くことが結構楽しくて、気付ば半月ほどが経っていた。
「お疲れ様白井君。今日はちょっとハードだったでしょ?」
「…ちょっとね。でも面白かったよ?」
ハードだったでしょ?と聞いてくれてはいるが、確実に彼女の方が忙しそうにしていた。何回もスタッフの人に呼ばれて出て行ったり、確認を取りに来る人が次から次へと現れ。ほとんど部屋に居らず走り回っていた。
「忙しい理由は何だったの?」
「今週末に、ブランドの撮影が入っているの。それで最終確認とか調整が多くて。あ、白井君今週の土曜日シフトはいってたよね?その日が撮影だから、頑張ってね!」
「…状況はよくわからないけど頑張ります」
撮影の現場を見る機会なんか滅多にないことで、話を聞いてからずっとワクワクしている。遠足前に寝られなくなる小学生の気持ちなのかもしれない。
土曜日朝8時。俺は会社の前に立っていた。今日はブランドの撮影という事で、ここではなくスタジオまで移動するのだそうだ。という訳で、藍染さんを待っている。
「おはよう白井君!ごめんねお待たせっ」
「おはよ…え⁉呼んでくれたら取りに行ったよ⁉」
両手に大荷物を抱えて門まで来た彼女の手から大半のものを受け取ったが、これかなりの重量だよ?よくここまで持ってきたね?
「あっありがとう!」
しばらくして宇瑠間さんの車が到着して、俺たちはスタジオへと向かった。
「この前説明した通り、今日はスタジオでブランドの撮影です。スタッフの人結構いるけど、皆いい人たちだから心配しなくて大丈夫だよ」
「分かった」
緊張しなくても大丈夫だよ。とは言われたけど…
「…これは緊張するよ?」
スタジオにつくや否や、
「白井君、私今から挨拶して回ってくるからそこのテーブルで作業始めててくれる?」
と言って、宇瑠間さんを連れて行ってしまった。まさか宇瑠間さんまで一緒に行くとは思わず、初めての場所で少々焦っている。作業自体は事前に言われていたからどうってことないけれど、これは人見知りじゃない俺でも人見知りする。
「…見かけない顔ね?」
「んなぁっ…。お、おはようございます」
持ってきた資料などをテーブルに並べていると、後ろから綺麗なマダムに声を掛けられた。
「ふふっ、ごめんなさい驚かせて。もしかしてカノン様のところのアルバイトの方かしら?」
「あ、そうです。白井と申します…」
「白井君ね。私はカメラを担当している胡桃沢と言います。まぁでも、年の近い方が入られたとは聞いていたけど、若いわねっ。肌の張りが違うわっ」
「そ、うですか?藍染さんとは大学が同じで」
「あらそうなの⁉カノン様、同じくらいの年齢の人が来てくれるんですって凄い喜んでらしたのよ。しかもこんなに好青年でカッコいい子なんて、カノン様が羨ましいわっ」
なぜかべた褒めされて、妙に居心地が悪くなった頃、さっきまで2人くっ着いて挨拶してまわっていた藍染さんと宇瑠間さんが戻ってきた。
「おはようございます胡桃沢さん!今回もよろしくお願いします」
「おはようございます!こちらこそよろしくお願いします。それにしてもカノン様、こんなにもイケメンで柔らかい雰囲気の方が入ってこられたなんて、羨ましいですわ!宇瑠間も凄いカッコいいけど、ちょっとお堅いところがありますからね?」
「…胡桃沢さん、それ私本人の居る所で言わないでくださいよ、」
苦笑いをした宇瑠間さんに軽く謝りながら、胡桃沢さんは持ち場へと戻っていった。
「荷物ありがとうね。あと15分位したら撮影始めるから、頑張ってね!」
「私も近くで作業いたしますので、分からない事があればお聞きください」
仕事自体難しい事は少ないが、ただただ忙しかった。作業の合間に藍染さんの方を盗み見してたんだけど、
「ちょっと修正します」
「あと少し照明明るくなりますか?」
などと、データを見ながらテキパキと指示を出している。いつも仕事している時とはまた一味違う姿で、すんごいカッコいい。
「白井君お疲れ様!お昼休憩しよっか」
「え、もうそんな時間?」
集中していたからか、知らない間に13時を過ぎていた。
「めちゃくちゃ忙しそうだね」
「まぁね。でも楽しいよ?それに!白井君来てくれてるからすっごく助かってるしっ。私今から外に食べに行くんだけど、一緒に行かない?いつも行くパスタ屋さんがあるんだけど」
「いいね、俺も行く」
「じゃあ行こっか!宇瑠間、ちょっと外出てきますね」
「…大丈夫ですかカノン様、」
「大丈夫です!白井君と一緒に行くので」
そう言って俺の腕をグイっと引っ張った。…大丈夫ですか。って言うのはどういう意味なのでしょうか?社長って、そんなに生活が危険になるような立場なのか。
「そうですか、それなら安心です。白井君、お願いしますね」
「あ、はい」
お願いされたはいいが、何をお願いされたのかが分かっていない、。
「…社長って危険なの?」
堪らず隣を歩く藍染さんに訊ねた。
「え?…あぁ、さっきの宇瑠間の事かな?あの人は…ちょっと、というかかなりの過保護なだけだよ?私の生活はいたって安全だし!」
ここだよ!と話を終わらせるかのように、藍染さんは目的地を指さした。いかにも隠れ家ですと言わんばかりにビルの奥まった所にあるパスタ屋さん。
「こんにちは」
「あ、カノンさん!お待ちしてましたよ。あれ、お連れの方ですか?珍しいですねっ」
「どうも…」
コンソメのいい香りとともに俺たちを迎え入れてくれたのは、ダンディーな男性だった。
「すみません少し遅くなってしまって…」
「全然大丈夫ですよ!今落ち着いたところだったので丁度良かったです。さ、どうぞどうぞ」
案内されたカウンター席に2人並んで座る。何でも、藍染さんは小さい頃からこのお店の常連なのだそう。赤木と名乗った店主さんが話しかけたことがきっかけで仲良くなったのだとか。
「で、こちらは白井君です。今私と一緒に働いてくれています」
「白井です、」
「よろしくお願いします。白井君は何か苦手なものとかありますか?カノンさんはここに来るといつもお任せで作らせてもらってるんだけど」
「では僕もそれでお願いします。特に苦手なものとかもないので大丈夫です。」
「かしこまりました」
レストランのドラマにでも出てきそうな雰囲気を醸し出している赤木さんの後ろ姿がかっこよすぎて、思わず男の俺でも見惚れてしまう。
「赤木さんの作る料理は、とってもカラフルな味がして本当に美味しいの!」
「…カラフルな味?彩が綺麗ってこと?」
「それもそうなんだけど、1つの料理の中に色んな味の色が隠れてるんだよね」
カラフルな味?と首をかしげていると、振り向いた赤木さんが優しく笑った。
「あっはは、白井君が難しい顔をしていますよ?まぁ、私も初めて言われたときは同じ反応をしましたね」
疑問は全く解決せず、今度は眉間にしわを寄せ始めたころに、ホカホカと湯気を立てたスープとパスタが運ばれてきた。
「お待たせしました」
「ありがとうございます!いただきます」
「いただきます」
…確かに、めちゃくちゃ美味しい。彩の良し悪しはよくわからないけれど、とにかく美味しい。
「白井君の目が輝いてるっ。美味しいでしょ?」
「うんめっちゃ美味い」
「ありがとうございます。…カノンさん、今日の色はどうでしょう?」
「相変わらずカラフルですねっ。でも今日は茜色の味が強い感じがします!それから味も、相変わらず美味しいですっ」
俺の頭の中に再び疑問が浮かんできている。今日の色とはいったいなんだ?料理の彩を聞いている訳ではなさそうだし…
「白井君は彼女の色の見え方についてはもう聞いていますか?」
「…凄い色覚の持ち主だという事は聞いてます」
「あれ、詳しく言ってなかったっけ⁉ごめんね、てっきり話したと思っちゃってた…。まぁ、それは追々ね!今は料理を楽しもうっ」
上手くはぐらかされはしたが、それよりもパスタが美味しすぎてどうでもよくなってしまっていた。一瞬で食べ終わってしまって少し名残惜しくなった頃に、少しだけ気になっていたことを訊ねてみた。
「藍染さんはいつも1人で来てるの?昔から来てるって言ってたけど」
「あそこのスタジオで撮影があるときは必ず来てるよ!最初は宇瑠間のお父さんと来たの。宇瑠間が高校を卒業するまでは彼が家の執事をしてくれてたから。高校に上がる頃からは1人で来るようになって。そこで赤木さんに声を掛けられたの。
「その頃はあまり経営が上手くいってなく手ですね…その日もカノンさんしかお客さんが居なかったもので。何度か話をしてると、ふわぁっと…ね?そのおかげでお店が安定して、今こうして忙しくさせてもらってるんです。」
「ふわっと?…なんですかそれ、」
「ふわっとはふわっとだよ。話したいのは山々なんだけど、そろそろ戻らないとなんだよね」
ずっと絶妙なタイミングで話が途切れてしまうが、確かに戻らないといけなかったので、俺たちはお店を後にした。スタジオに戻ると、宇瑠間さんが待っていたかのようにすぐさま駆け寄ってきた。
「お帰りなさいませ。白井君、何もなかったですか?」
「へっ…?あ、いや何も」
「だから大丈夫だって言ってるじゃないですか…」
かなりの過保護だと言っていたが、執事の人ってみんなこんな感じなのか?藍染さんははその過保護に少々不満があるようだったが、主に何かあったらと気が気でないのだろうから、しょうがないのだろう。
再開された撮影は、相変わらず忙しくて。俺は作業の合間にまた藍染さんを盗み見ては感心し、また作業をしていれば彼女が差し入れでお菓子を持ってきてくれたりと、気の使い方まで神業だった。
「以上で本日の撮影すべて終了です、お疲れ様でした!」
終わった…。今日1日長くて早かった。撤収をするために持ってきた大量の荷物を戻していく。帰っていくスタッフさんに挨拶をしながら片付けていると、気づけばスタジオには数人しか残っていなかった。ただ、その数人の中に藍染さんと宇瑠間さんの姿が見当たらない。おいて帰られたことは流石に無いと思うが、2人が居ないと帰ることが出来ないのは事実だ。
3階建てのこの建物。1階はエントランス、2階が撮影スタジオ、3階が多目的スペースのようになっている。下から順番に探し回って、2人の声が微かに聞こえたのが3階のバルコニーの方からだった。
「藍染さ…」
少し離れた所から声を掛けようとしたが、俺はその言葉を飲み込んだ。俺の知っている2人の会話じゃなかったから。
「…もう無理。頭がクラクラする」
「今日はいつもより人多かったからな。大丈夫か?家まで持ちそう?」
「うん大丈夫。でも帰ったらデータ見ときたい」
「ダメだ今日はすぐに寝ろ。明日も何かとする事あるんだから。早く帰るぞ」
いつもお互いに敬語を使っている2人。その姿しか見たことのない俺からすると、この状況が信じられない。今が素の2人なのだとしたら、俺はあまり見ない方が良いのかもしれない。そう思って、静かにスタジオへ戻り、帰る準備ができたと藍染さんに電話をした。
「白井君ごめんお待たせ!片付けありがとう。遅くなっちゃったし、家まで送るね」
「あ、ありがとう」
バルコニーで聞いた疲労の混じった声とは打って変わって、いつも通りの彼女。宇瑠間さんに関してもそうだ。砕けた口調はみじんも感じられない紳士的な執事に戻っている。さっきの2人は見間違えだったのかと思う程に。
撮影から1週間が経ち、藍染さんの仕事もひと段落着いたところだった。
「ねぇ白井君」
「ん?」
「突然なんだけど、一緒に出掛けてくれない?」
「全然いいけど…どこに?」
「文房具屋さん」
…文房具屋?それなら大学の中でも買えるのに。と思っていたが、全く違った。宇瑠間さんの車で行くという事なのだが、
「2時間⁉そんなに遠くまで行くの⁉文房具屋さんに行くのに⁉」
俺には理解のできないほどのこだわりがあるのか…?だが、これはもはや仕事ではない気がするのだけも。
「初日に言ってたでしょ?主な仕事は、書類整理とか、私の遠出に付き合ってもらうって」
「あぁ、そういえば…。それが、文房具屋さんに行くこと?」
「そう!私の憩いの場に行くの。面白いから、アルバイトの人が来るって分かった時に絶対に一緒に行こうって決めてたの」
文房具屋さんでそこまで面白いことがあるのだろうかとい心配になったが、彼女がそこまで言うなら、と楽しみにすることに。途中で何度か休憩をはさみながらの移動は、こんなので時給をもらってもいいのかと疑う程に快適だった。
「着きました、お疲れ様です」
「ありがとうございます」
降りた場所は、栄えているとは言えない普通の住宅街だった。宇瑠間さんは車で待機しているという事だったので、2人で道に降りた。道にはちらほらと住民らしき人が歩いている。…藍染さんは本当にここへ来たかったのだろうか?
「えっとね…ここだ!えぇ凄い民家だね…行こっか」
「えっ、普通の家じゃないよね⁉」
彼女の携帯だけを頼りにここへ来たが、あまりにもお店と言うオーラのない民家だ。本当に入っていいのかと躊躇している俺とは対照的に、藍染さんは迷うことなくチャイムを鳴らした。
「大丈夫。ここからは商売の色が流れてるから、きっと開いてるよ」
「商売の色?え…?」
本当に色々理解が追い付いていない。頭の中にはてなマークが10個ほど浮かんだところで、家の中から初老の男性が出て来た。
「こんにちは。もしかして、お客さんですかな?」
「はい、色鉛筆を探しに来ました」
「それはそれは、良く見つけてくださいました。ささっ、どうぞ」
玄関を入り左に曲がると、本当に文房具屋さんだった…木製の引き出しが敷き詰められこじんまりとしたこの部屋は、おばあちゃんの家のようなにおいがする。それにしても、もっとマイナーな文房具を探しに来たのかと思いきや、まさかの色鉛筆。俺にはまだ、藍染さんの頭の中が理解しきれていないみたい…
「ここを知られているという事は、何か事業をされているのですか?」
「えぇ、ちょっとしたアパレル会社を。こちらは一緒に働いてくれているお仲間ですっ」
「どうも…」
「まぁなんと、お2人ともお若いのに凄いですな。えぇっと、色鉛筆でしたね。うちで扱っている色鉛筆は今のところ300程です」
「300…⁉」
あまりの多さに思わず声を上げてい待った。2色の世界で暮らしている俺からすれば、ありえないほどの数だ。そのすべてがこの沢山の引き出しの中におさめられているそうで…
「こちらがサンプルたちと、紙に書いたときに見える色の出方です。ちなみに私のお勧めは072番です。私はそこらへんで作業してますので、ごゆっくりしていってください」
「ありがとうございます!」
渡された木箱の中には、大量の鉛筆が入っていた。色んな白黒の濃淡が見えるあたり、本当に300種類はあるようだ。そして、1本ずつに番号と、名前が付けられていた。
「店主さんおすすめの072番は…これだ!わぁ確かに綺麗な色…ねぇみて、『涙の溜まった瞳の色』だってさ。うん、わかる」
「…涙?それ、色の名前?」
「そうだよ!」
俺が今まで聞いてきた色鉛筆は、赤・青・黄・緑。と言うような単発的な名前だったのだが…なんだか、小説のタイトルのような響きだ。
「色鉛筆はね、色を見るためだけの物じゃないの。その名前を聞いて、この色を作った人はどんな気持ちでこの名前を付けたんだろうって考えると、すごく感慨深いものがあるの。例えばこれっ。『カエルの鳴き声』これ聞いてどう思う?」
「ふはっ、これも名前なんだ。…ん~、カエルって緑だよね?ウシガエルみたいな鳴き声だったら、黒に近い緑とか…?」
ほとんど憶測。あの野太い鳴き声を思い出すと、黒く濁った鳴き声のような気がしただけで。でも彼女は予想外にも、俺の考えを肯定した。
「そう、そういう事なの!実際この色は、黄緑とオレンジを混ぜた色なんだけど、こういう色鉛筆の名前って、沢山想像ができる所が面白いところなの!名前を聞いて色を見て納得して、私だったらこの色こんな名前つけるのになぁとか、この名前だったらこんな色もあるよねとか、考えるのが楽しいのっ」
色鉛筆について熱弁する藍染さんは、仕事の時よりも10倍増しで楽しそうで、目がキラキラしている。他にも色鉛筆と名前を照らし合わせて独り言なのか話しかけられているのか分からないくらいに色々想像していた。
「…あ、ごめんね?私ばっかり話して」
「ううん。見ててめっちゃ面白いからどんどん続けて?」
俺がそういうと、恥ずかしくなったのか口にチャックをしていた。
「…あ、これ!白井君の色だ!あぁ、うんそうだね、すごい納得」
「俺の色?」
「そう、私に見えている白井君のオーラの色。私、人から出ているオーラの色が見えるの。この色鉛筆の名前見てみて?」
オーラが見える人と言うのは聞いたことあったが、こんな身近にいたとは…親父が言ってた凄い色彩感覚と言うのは、オーラの話だったのか。
「えっと…『天気のいい日に干したぬいぐるみのにおいの色』?これ色じゃなくてにおいの説明じゃない?」
「そこも含めて楽しまないと!この色みて白井君だ!と思ったら、こんなにぴったりな名前でびっくりだよっ。すみません、これください」
彼女は、俺のオーラの色とやらの色鉛筆の他に、10本ほどをもって店主の下へ買いに行った。ついでに店主の連絡先まで持って帰ってくるという驚きのコミュニケーション能力だ。
「お待たせっ。付き合ってくれてありがとう!それから…はいこれっ」
外に出ると、色鉛筆を1本渡された。書いてある名前は、『天気のいい日に干したぬいぐるみのにおいの色』
「貰って良いの?」
「うん!白井君はオレンジっぽいオーラをしてるから、暖色系に強い文房具屋さんを探してたの。見つかるかなぁってちょっとだけ期待してたんだけ、大当たりだった!」
黒と白のちょうど中間の濃淡をした色鉛筆は、オレンジ色らしい。俺は、この面白い名前をした色鉛筆を一生ペンケースの中に入れることになる。
「おかえりなさいませ。いいものは見つかりましたか?」
「はい!満足です」
宇瑠間さんが近くまで迎えに来てくれて、再び快適な旅が始まった。
「白井君、びっくりしたんじゃないですか?」
「まぁ、そうですね。色鉛筆の種類の多さにも驚きましたけど、1番は藍染さんのマシンガントークが凄く面白かったです」
「あははっ、そうですよね。色鉛筆の収集は、カノン様の趣味なんです。仕事が落ち着いたタイミングをみて、こんな風に沢山の種類を持ち合わせている文房具屋さんに出向いているのです。今までは私が同行していたのですが、これからは白井君についてもらうことになると思います」
「趣味なんだ…。でも、良いんですか?俺ただ藍染さん見て一緒に楽しんでるだけなんですけど…」
「いいのいいのっ。1人じゃ寂しいし、楽しんでもらえる人が居るのは嬉しいから!…でも、私の持ってる収納庫見られたら流石に引かれる…」
なんと、藍染さんの部屋とは別で、色鉛筆専用の部屋があるらしい。そこには今日行った文房具屋さんとは比にならないほどの量の色鉛筆がおさめられているらしい。
「今度見せてね」
「…ひかないと約束できるのであれば」
こうして、初めての彼女の不思議な趣味のお供は終了した。
「あの、今日絶対私いらなかったですよね?あの人嘘ついてるのまるわかりでしたよね?多分目を瞑っていても嘘見破ること出来ますよね?」
「それはそうなんだけど…そんな哀れな目で見ないで⁉俺の担当じゃなかったんだけど、証拠を突き付けても知らないで突き通されるから、決定打の為に連れて来てくれって言われたんだよ…ごめんね?」
「まぁ、良いんですけど…テスト開けの身体に鞭打ったんですから、約束はお高いですよ~?」
「いつの間にそんなちゃっかりとしちゃったの…?もちろん、恥じないレベルの物ご用意させてもらいます」
「ふふっ、やった~」
「あぁ…今日は君の過保護なお兄さんにどんな顔されるかな…」
「良い顔の時ないじゃないですか。頑張ってください」
「…はい」
「ねぇ遊びに行きたい!」
「わかる」
大学の学食で、ナホとハルトが叫んでいた。ここ数日、テストや講義が立て続いていて遊べていなかったこともあり、皆息抜きを欲していたのである。
「そろそろ5人で遊びに行かね?」
「行く行きたい!カノンちゃんいつ空いてる?」
「えっとね…今週日曜日だったら17時まで空いてるよ!」
藍染さんの予定が空いているという事は、俺もシフトが入っていないので俺も参加できる。他のメンバーもその日は空いているようなので、ドライブしながら色んなところによることになった。テストの頑張りが報われる時が来た…とハルトは喜んでいたし、藍染さんは日曜日を思い切り楽しむために今のうちにできる限りの仕事を進めると意気込んでいた。そしてその日の夜、俺は初めて藍染さんが宇瑠間さんに声を上げているところを見ることになる。
「失礼いたします。カノン様、今連絡がありまして、日曜日に予定していた打ち合わせを18時から13時に変更できないかという事なのですが、いかがなさいますか?特にその日は予定もございませんし、問題ないかと思いますが…」
「…ダメですよ問題大ありなんですけど⁉」
「な、にか御座いましたでしょうか、」
睨めっこをしていたパソコンから勢いよく顔を上げて捲し立てたため、流石の宇瑠間さんもたじろいでいた。
「日曜日、僕も含めて大学の友達数人でドライブに行く予定なんですよ」
2人の様子を見て咄嗟に口をはさんでしまったが…これは流石に仕事を優先しないといけないだろうな。
「そうだったんですか、それは外せないですね。では変更無しで調整しておきます」
「えっ、良いんですか?」
てっきりダメなものだと思っていたため、少々拍子抜けした。あっさりと許可した宇瑠間さんの表情は心なしか嬉しそうに見えた。
「もちろんです。学生生活や友人関係は大切にしないといけませんから。それに、白井君が一緒なら安心して許可できます」
まだここで働き始めて3カ月程だが、なぜか宇瑠間さんは俺をめちゃくちゃ信用してくれている。いや、うれしい話なんだけど。藍染さんが外食する時も「白井君が一緒なら大丈夫ですね」と毎度言われるくらい。
日曜日の朝、俺たちは大学の近くでレンタカーをし、ハルトの運転でドライブをスタートした。相変わらず女子2人は藍染さんにメロメロで。普段の藍染さんはショート丈のスカートやパンツだが、今日は初めて見るワンピース姿で、そのギャップにやられたのだろう。
「カノンちゃんが今日も可愛い…」
「そんなことないけど…ありがとう!でも2人の方が可愛いと思うよ?私、そういう服着たことないから似合うのが羨ましいっ」
「 …ねぇダイ、悩殺ってこういうことを言うのね」
「ふはっ、なんだよそれ。ところでさ、藍染さんは免許持ってたりするの?ハルトとナホは持ってんだけど…」
「免許持ってるよ!たまに運転もするしっ」
運転までできるとは意外だった。自分で運転する必要なんてないだろうし、何より過保護すぎるあの宇瑠間さんが嫌がりそう。5人中3人が免許持ちという事が分かったので、今日はこの3人でドライブをしてくれるようだ。
「もうすぐサービスエリア着くぞ~」
「やった!結構おなか減ってきた…」
ここで軽く昼食をとって、高速を降りた先でお目当てのカフェに行くことになっている。サービスエリアには小さなお店が色々と出ていて、各々食べたいものが異なることから個人行動となった。食の好みが合う俺と藍染さんは、結局同じお店に行くことになった。
「…私こうやって友達とどっか行くの初めてでさ、どうすればいいか分からなかったから、白井君と同じでちょっと安心した」
「そんなに緊張しなくていいのに!俺もほかの3人も、藍染さんに頼りにされたら喜んで着いていくって」
今日は朝から少々緊張していたらしい。俺と2人になった後もまだ若干ぎこちなかったが、美味しそうな食べ物を手にして、少し気が和らいだようだ。集合場所まで戻ろうと歩いていると、少し離れた所から、1人の女性に声を掛けられた。
「…あら、藍染さん?」
その女性に見覚えがあったが、俺より遥かに彼女のことを覚えているであろう藍染さんが、何故か思い出せていなかった。
「えっと、」
「…藍染さん、この前の雑誌の編集の人じゃない?」
「あっ…ありがとっ。紫乃さん!すみません今日コンタクトしてなくて気づくの遅くなっちゃいました、」
決して忘れていたわけではないようだ。俺が忘れていた名前を憶えていたくらいだし、気のせいだろうと思った。でも、その時から俺の中に少しずつ疑問が出てきていた。
「ごめんなさい今日お休みでしたか?あっ、君前の打ち合わせの時も…?」
「はい、白井です」
「そうだ白井君だっ!お2人でお出かけですか?」
「今日は知り合い数人で少し遠出をしていまして。まさかこんなところで紫乃さんにお会いするなんて…」
「私もびっくりです!…すみませんオフの時に話しかけてしまって。では、楽しんできてくださいね?」
「全然大丈夫ですよ!ありがとうございます」
紫乃さんは仕事の途中だったようで、カメラマンらしき人たちに合流しにいっていた。
「ありがとう白井君」
「あ、ううん大丈夫だよ。気を抜いている時に知り合いに会ったらびっくりするよね~」
「そうだよね…戻ろっか?」
少しの沈黙の後、ぎこちなかった表情の藍染さんはいつもの笑顔に戻った。集合場所に戻る彼女の背中が俺にはひどく小さく見えた。まるで何かを失ったかのように、何かが折れてしまったように。
「2人とも早く~!食べるよ~」
「全く同じもの持ってんの?」
「白井君と食べ物の好みが似てるみたいなの」
「…またダイに抜け駆けされた気分なんだけど」
「なんでだよ」
その後、特に藍染さんにおかしな点はなく、終始本当に楽しそうだった。緊張なんてとっくのとっくに消え去っていたみたいで、会話に入る数も増えていた。やっぱり、俺が感じたさっきの違和感は気のせいだったんだ。楽しかったからなのか、この日藍染さんが探るような目で俺を見ていたことに気づかなかった。
「今日は誘ってくれてありがとう!すっごい楽しかった!」
「俺らも楽しかったよ!じゃあまた学校でな~」
夕方大学の方面まで戻ってきた俺たちは、朝と同じ場所で解散した。
「こんなに楽しいお出かけ、初めてしたかも…」
「またみんなで遊びに行かないとだねっ」
宇瑠間さんが迎えに来てくれている場所まで向かう途中、心底嬉しそうにそう言っていた。そして、藍染さんの嬉しそうな姿を見ると、よくわからない母性本能のようなものが出てくることに気づいた。いつものコンビについて、俺たちが来たことに気づいた宇瑠間さんが車から出て来てくれた。笑顔の藍染さんを見て、彼は安心したような嬉しそうな微笑みをしていた。
「お2人ともおかえりなさいませ。乗ってください」
「ありがとうございます」
「白井君ごめんね、直接仕事みたいになっちゃって。今日はうちの店舗に行くんだけど、15分位で着くからね」
「了解」
車が行きついたのは、大きなショッピングモール。1年ほど前にできた大型店で、俺も気になっていたところだったから、思わぬところで行くことになり、テンションが上がる。裏口は通らず正面から入り、2階にあったその店舗は、俺が仕事中に見てきた服がたくさん並べられていて、本当に藍染さんの店なんだなぁと実感させられた。
「あっカノン様お疲れ様です、お待ちしていました。…今日ワンピースなんですか⁉えぇ可愛い!」
「お疲れ様です…あの、苦しいですよ」
店長らしき女性に揉みくちゃにされている藍染さん。仕事の時はこんな格好していることないから、従業員の人からしたらレアなのだろうが…自分の孫なのかと疑うレベルの可愛がり方だ。
「今日は友達と出かけていたもので…」
「そうだったんですか⁉すみません打ち合わせの時間早めて欲しいとか言ってしまって…あっ、もしかしてこちらが噂のバイト君ですか?」
「噂…かどうかは分からないですが、アルバイトの白井です。」
「私と同い年の人が入ったってことが今までなかったから、色んなところで話題になってたんだよね。ちょっとした有名人だよ」
知らないところで顔もばれずまま勝手に有名になっていたんだが…。まぁでも、彼女と同い年の人となれば今まで中学生や高校生だったのだから、俺が初でもおかしくはないな。
「有名人の白井君ね、私はこの店舗の店長で、黄瀬と申します。よろしくね?宇瑠間さんと白井君の椅子バックヤードに用意しているので、そちらで作業していただいて大丈夫ですよ!」
「ありがとうございます。行きましょうか白井君」
「あっはい」
「カノン様はこれから店内の配置や模様替えをされるので、その間にこの店舗のデータの照らし合わせなどを行います。白井君はこちらをお願いします」
「分かりました」
店について数分でバックヤードへ来たため、未だ状況が分かっていなかったが、宇瑠間さんに説明を受けていると、店の方から楽しそうな声が聞こえてきた。黄瀬さんと藍染さんはかなり仲がよさそう。こじんまりとしたバックヤードで宇瑠間さんと2人きりになり、若干の気まずさを覚えたが、ふと彼の方から話しかけてくれた。
「…カノン様、今日は楽しんでおられましたか?」
「へっ…?」
「カノン様が友人と遊ぶなど滅多に、と言うより今までなかったものですから、少々気になりまして」
「あぁ…。凄い楽しんでくれていましたよ。色々食べたり、途中で運転も交代してくれて…」
「運転したんですか…⁉」
下を向いて作業したまま話をしていたのに急に顔を上げるもんだからギョッとしてしまった。そこまで驚く要素があったのか…?
「運転してましたよ、?え、免許持ってましたけど…」
「…身分証明の為に免許は持っていますけど、何かあったら困るので私が助手席に乗るとき以外は運転を許可していないんですよ…全くあのお嬢様は、」
過保護な執事さんは、頭を抱えてうなっていた。彼女の運転は宇瑠間さんが心配するまでもなく安全で心地のいいものだったが、彼の心配はそういう事ではないのだろう。
「まぁでも…楽しんでいたのであればよかったです。カノン様は、もう少し日々を仕事以外で楽しむ努力も必要なので、良ければまた誘って頂けるとありがたいです」
「もちろんです。そこに心配はいりませんよ。これでデータはオッケーです」
「ありがとうございます。もうじき向こうも終わるかと思いますので、表の方に出ましょうか」
持って帰る書類やファイルをまとめて店内へと戻った。藍染さんと黄瀬さんは相変わらず楽しそうに服を見ながら話している。…本当に服が好きなんだろうな。遠目から見てもわかるくらい、服を持っている彼女の目はキラキラと光が宿っている。
「白井君は、カノン様の色の見え方についてもうお聞きになりましたか?」
「追々話すね!って言われて、この間の色鉛筆収集の時にオーラが見えると聞きました。それで、僕のオーラと同じ色の色鉛筆をもらって…って感じですね」
「なるほど…オーラ以外にも色々とカノン様の色の見え方があるので、今度のシフトの時間にでも伝えるようにカノン様に言っておきますね。楽しみにしててください」
宇瑠間さんはそう言って微笑んでいた。色の見え方の話は、そんなに興味深いのか…いや俺にとっては未知な話だから楽しみなのだけど。
「お疲れ様!必要なものはそろった?」
「うん、大丈夫だよ」
「じゃあ会社も戻ろうか。黄瀬さん、またご飯行きましょうね」
「えぇ是非!白井君、仕事頑張ってね」
「ありがとうございます」
俺は黄瀬さんに激励され、店を後にした。…ワンピース姿の美女と黒スーツのイケメン。この2人とファミリー層の多いショッピングモールの中を歩くのはちょっと異質感があって周りの視線が気になった。アパレル関係のお店の前を歩くと、藍染さんは視線を止めて歩くスピードが遅くなる。どこまでも好奇心の塊なのかもしれない。途中で買ってもらったコーヒーを片手に車に乗り込んだ。
「今日はさっきの書類たちをまとめて終わりになるかなぁ。白井君は明日何限目から講義とってるの?」
「明日は1限からだよ…初めに時間割を作った自分に月曜日の朝はキツイぞって毎週教えてやりたくなるうんだよね」
「あははっ、そうだね。月曜日はきついよね。じゃあささっと終わらせて、早めに帰ろう!」
彼女にとっては、土曜日も日曜日も平日も関係ないはずなのに、こんなにも俺に気を使って貰ってしまい、ありがたい反面すごく申し訳なくなる。何度生まれ変われば彼女のようになれるのか、ここ最近よく考えることだ。友達である前に、1人の人間として彼女に憧れ始めていた。
仕事が終わり、帰る頃にはもう今日感じた彼女への違和感は消え去っていた。
白井君が仕事を終え帰った後、カノンは今日あったことを楽しそうに話してくれた。
「パフェがパフェじゃなかったの。あれはもはやアートだったね。それに色んな色してたの!食べてたらコロコロ色が変わって…とにかく楽しかった!」
「ふはっ、良かったな。たまにはリフレッシュも必要だって分かった?」
「うん凄く」
「それならいい。それよりカノン?」
「ん?どうしたの?」
「今日運転したんだってな?」
そういうと明らかに目を泳がせ、何も言わずに部屋を出ていこうとする。
「おいおい勝手に出ていくな!さっき白井君から聞いたから、無言貫き通しても意味ないぞ?俺言ってるよね、勝手に俺のいないところで運転するなって」
「…だって、リョウ君に言ったら絶対ダメって言われるもん。最近忙しくて運転で来てなかったし…」
昔から変わらない、反省している時にするむくれ顔。この顔に、俺はうんと弱い。これをされるとなんでもしょうがないって許してしまう。
「…まぁ、楽しかったみたいだし、今日はしょうがないな」
「本当っ?ありがとう!」
俺がテーブルを拭き終えるのを見計らって、背中に飛び乗ってきた。嬉しいことがあると毎度こうなるので、驚きながらも受け止めることが出来る。これも、昔から変わっていない。変わったのは、カノンの身長が伸びたことだな。
「はいはい分かったから。ほら、明日も学校だろ?仕事もそれなりにあるし早く風呂入って寝ろ~」
「はぁい」
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