第11話
道端のベンチに腰掛け、私は思いを巡らせた。
「もう、決断の日まで10日切ってるんだよね」間違いなく今までで一番濃い一ヶ月だった。時間が過ぎるのはあっという間だなぁ。
「5月28日が例の日で、今が5月19日。一秒も無駄にはできん」禅太が呟いた。
「私、決めたことがあるんだ」禅太が私の顔を見て、首を傾げる。
「何じゃ?」
「5月28日、みんなで遊園地に行く。みんなってのは、本当にみんな。禅太も、累ちゃんも、駿も、ユリカも、たっちゃんも、あの詐欺グループの5人組も。私、全部話そうと思ってる」
「具体的には、何を?」禅太が真剣な眼差しをこちらへ向ける。
「禅太が妖ってこと、禅太との出会いで私は人生を変えようと思ったこと。28日に私は人生をやり直すかどうか決めること。この一ヶ月を充実させてくれたみんなに事実を話さないでいるのは、私が嫌なんだ」
数秒置いて禅太が口を開いた。
「どんな決断であろうと、我はお主の意志を尊重する。ただ、一つ約束してほしい」
禅太は私の手を握った。禅太の方から触れてきたのは初めてなので驚いたが、私は何も言わず次の言葉を待った。
「幸せになってほしい。来世を生きるにしても、今世を生きるにしても。まぁ、具体的に言うと・・消極的に生きるのを、舞にはやめてほしいんじゃ」禅太が私を見つめながら言った。
「うん・・・・」
「舞はこの一ヶ月、今までに比べて幸せだったはずじゃ。でも、幸せになったのはお主だけじゃなく、周りの人もなんじゃ。お主が旅行や帰省に誘うことで、周りの人も幸せになった。当然、我もお主に幸せにしてもらった」照れくさそうに禅太が言った。
「本当に?」
「本当じゃ。お主には、人を幸せにする力がある。お主が幸せだと、自然と周りも幸せになる。稀有な存在じゃ。正直、我はお主にこれからも生きていてほしい。ってのは・・聞かなかったことにしてくれ」
禅太が遠くを見つめた。
「嬉しいなぁ。初めてそんなこと言われたよ」
「とりあえず、今のことに集中じゃな。お主の貴重な時間を使うのは勿体ないから、警察とのやり取りは我が・・」
「駄目。私もやる」
「どうしてじゃ?」禅太は不思議そうに言う。
「ちょっと気になる部分があるの」
翌日、再び警察署に呼び出された私は、昨日と同じ面談室に案内された。室内はひんやりとした空気に包まれている。禅太はまた、私の隣に静かに座っていた。
警察官が書類を手に入室し、席に着くと、落ち着いた声で話し始めた。
「舞さん、昨日の件について新しい情報が入りました。遺体の状況が比較的良かったこともあり、異例の速さで身元が確認されました」
私は警察官の言葉を待った。
「被害者の名前は、山本義信さんです」
その名前をを聞いた瞬間、私の心が大きく揺れた。山田義信・・それは私が小学生の頃に担任だった先生の名前だ。私の頭の中で、思い出が鮮明に蘇り、息をするのが少し苦しくなった。
「山田先生・・?」私の口から自然にその名前が漏れた。
警察官が私の反応に気づき、少し驚いた表情でこちらを見た。「彼のことをご存知ですか?」
私は一瞬答えに詰まったが、小さく頷いた。「はい、山田先生は・・私が小学校に通っていた頃の担任の先生でした。まさか、そんな・・」
その事実が信じられず、頭が真っ白になった。あの優しく穏やかな先生が、こんな形でまた私の人生に現れるなんて想像もしていなかった。
警察官は書類に目を戻しながら、続けて説明を始めた。「彼が舞さんの担任だったとは。こちらでは把握しておりませんでした。彼の遺体が発見されたのは、公園近くの茂みの中でした。死因は鋭利な刃物による刺傷で、出血多量によるものであると確認されています」
私は冷静になろうとしたが、胸の中がかき乱されるような感覚を抑えきれなかった。なぜ、山田先生がこんな目に合わなければならなかったのか。
「さらに、彼の所持品の中には、何かを伝えようとしたかのようなメモが見つかりましたが、残念ながら雨で文字が滲んでしまっており、ほとんど判読不能な状態です。今、その内容の解析を進めていますが、解読は難航しています」
禅太が穏やかに口を開いた。
「そのメモには、何か情報が含まれているかもしれないと。他に、彼が狙われた理由について分かっていることはありますか?」
警察官はその質問に対し、慎重に答えた。
「現時点では、彼が最近何者かに脅迫されていた可能性があるという情報を得ていますが、その詳細や相手についてはまだ確認が取れていません」
私は無意識に拳を握りしめていた。山田先生がなにか重大な事に巻き込まれていたのかもしれないという事実が、私の心をさらに重くした。
「舞さん、山田先生についてなにか思い出すことがあれば、ぜひ教えて下さい。特に最近連絡を取っていたことがあれば、それを含めてお話いただけると助かります」
私はゆっくりと首を振った。「いいえ、ずっと会っていませんでした。先生はずっと教師をしていたと思いますが、卒業してからは連絡を取っていませんでした」
警察官は頷き、私に理解を示すような表情を浮かべた。「わかりました。もしなにか思い出したことがあれば、すぐに連絡してください。今後も捜査を続けていきます」
面談が終わり、禅太とともに警察署を後にすると、外の生暖かい空気が肌に触れた。
私はすぐに小学時代の卒業アルバムを実家で探し、手に取った。
「山田先生・・」
私たちが遊ぶ姿を、いつも笑顔で見守ってくれていた先生。私もみんなも、山田先生が大好きだった。
どうしても納得がいかない。どうして先生が殺されたのか。
「どうしたの、懐かしいもの取り出して・・」母が微笑みながら話しかけてきた。
「なんか急に見たくなってさ」
事件のことはしばらく隠しておこうと思った。
「みんな、大きくなったねぇ」写真を眺めながら母が呟いた。
「ほんとにね」
その日の夜、私は駿たちに連絡をした。山田先生が被害者であることを伝えると、すぐに駆けつけると全員が言ったが、私は慌てないよう諭した。
26日に、また四人が揃う。またそこで警察と話そうと思っている。
「我も捜査に協力する」禅太が突然立ち上がって言った。
「いやいや出来ないでしょ・・」私が言うと、禅太は「数百年生きている我に解決できない問題などない。そして、時間は有限じゃ」と決意の目をして言った。
「好きにしなよ・・私にはもう何も出来ない・・」気力を失い私は家で寝ていた。
*
舞が落ち込んでいる。こういう時こそ我が頑張らなくてはならない。
人間のために頑張るのは正直馬鹿馬鹿しく感じるが、舞には恩があるので返したいと思う。
警察署を訪ね、我は警察に相談することにした。
「捜査に我も協力したいんじゃが・・できるか?」敬語では舐められると思い、普段の口調で言ったが、「それは難しいです」と断られた。
「頼む。一刻も早く事件を解決したいんじゃ」
警察の表情はさらに険しくなった。
「それは我々も同じ思いですが・・子供に出来ることは・・」
「子供じゃない」
「冗談を言っている場合ではないのですが・・」
我は姿を大人に変えた。
「はっ!?」警察の顔が一気に青ざめた。
「これでも駄目か?」
「し、しかし・・一般の方ですので・・」我は「これが一般の人間に見えるか?」と尋ねた。
「いえ・・・・」
「なあ、頼む。我はあの子を救いたいんじゃ」
必死に訴え続け、警察の同伴のもと、捜査に参加することが許された。
勝手な行動はするなとしつこく言われたが。
我は警察の同伴のもと、事件の捜査に加わることが許された。捜査の一環で、我は警察官とともに山田先生がよく通っていたという古びた喫茶店に向かった。そこは山田先生が週に一度は訪れていたら場所で、もしかしたら何か手がかりが残されているかもしれない。
喫茶店の店主は年配の男子で、警察の質問には協力的だった。しかし、話を聞くうちに、我はなにか違和感を覚えた。店主が何かを隠しているような、そんな感覚があった。
「店主さん、先生が誰かとここで会っていたことはないか?」我が問いかけると、店主は一瞬、言葉をつまらせた。やはり何かを隠している。
警察官が追加の質問をするが、店主は曖昧な返事ばかり。これ以上の情報は引き出せそうにない。そこで、我は一旦警察と共に店を出た。
外に出た我は、警察官たちに別の場所を探るよう提案し、捜査を任せることにした。「一度ここは任せる。別の視点からの捜査を続ける必要がある」彼らが了承したのを見届けると、我はすぐに別行動に移った。
我は例の詐欺グループの事務所に全速力で向かい、五人を連れて舞の地元の街の裏通りにやってきた。
大人の姿の我を見て警戒していたが、普段の姿にすると五人は安心した。
「何かあったのですか?」リーダー格の裕誠が言った。
「堅苦しい敬語はやめてくれ。気味が悪い」
我は事件の全貌を話した。
「今、捜査が行き詰まっておる。じゃが、店主が何かを隠していることは明白じゃ。その隠している情報をなんとかして引き出す」
「了解だ、任せてくれ」裕誠は自信満々に言い放ち、仲間たちと共に再び喫茶店へ向かった。彼らは店主と話をするどころか、その店の周辺に潜む者たちや裏社会の情報源を一つ一つ洗い出すことに長けている。
警察が戻ってくるとのことだったので我は五人を一旦離れさせ、一人で調査を始めた。
現場をよく見回すと、床の隙間に、誰も気づかないような小さな紙片が挟まっていた。我はそれを拾い上げ、広げてみた。
そこには、暗号めいたメモが書かれていた。人間には解読できない古い文字だが、我にとってはおなじみのものだった。
「これは・・」我は呟き、メモの内容を一瞬で理解した。
その時、警察官の一人が「なにか見つけたのか?」と近づいてきたが、我はすぐにメモを隠した。
「特になにもない。もう少し捜査を続けたいだけだ」と答え、自分の推理をさらに深めることにした。
メモの内容は、とある住所と『200』という文字だった。
我は店主を問い詰めてみることにした。
「お主、このメモに見覚えはあるか?」暗号の書かれた面を見せた。
「何だこれは?何も知らない」店主が答える。
我は警察に、紙に書いてある住所を伝えた。
「これ・・鶴亀公園の住所ですね」警察が呟いた。
「ビンゴじゃな。それで鶴亀公園にやってきた山田をお前かその知り合いが殺したんじゃろ」
店主は慌てて否定してきた。
「待ってくれ!俺は何も知らない!」
「さっきから我は思っていたんじゃ。遺体付近に落ちていた証拠品の包丁と、お主が先程から使っている包丁が完全に一致している」
「はっ・・!?」店主の顔が一気に青ざめる。
「気づきませんでした・・」警察が言った。
「正直に言え。お前がやったんだろ?」
その瞬間、裕誠が店のドアを開けた。
「裏が取れた。やっぱり店主は反社会的勢力の一人だ。知り合いに尋ねたところ、名前が出てきた」
よし。裏社会に精通しているこいつらだからこそできたことだ。
「あ」裕誠は警察の姿を確認し、慌て始めた。
「知り合いに反社会的勢力・・・・?」警察が言った。我は「我に詐欺電話をかけてきた男じゃ。下手すぎて被害は出ていないし、もうしていないから今は気にしないでくれ」と擁護した。
裕誠は「そんで、こいつは喫茶店の店主として客と親交を深めながら、反社として得た金を貸すことで暴利を貪っているそうだ」と語った。
「もうお前に逃げ場はないが、どうする?」我がさらに追い詰めると、店主は包丁を持って暴れ始めた。
「俺じゃない!!いいか!俺はやってない!!!」
我はすぐに包丁を落とさせて羽交い締めにし、警察が拘束した。
「細かい話は署で聞かせてもらおうか」
パトカーに乗り、店主は警察署へ連行されていった。
その後、事件が一段落し、我と裕誠は額の汗を拭いながら、安堵の表情を浮かべていた。
警察署に連行された店主は、間違いなく事件の鍵を握っていたが、これで捜査は一歩前進したと言えるだろう。
「こんな形で店主が反社会的勢力と繋がってるとはな」裕誠が言った。
「お主らのおかげで解決できた。ありがとう」
「まあ、俺たちは裏社会の情報には詳しいからな。知り合いも多いし・・」裕誠が言いながら、少しほっとした様子で額の汗を払った。
「そういえば今度、舞が今度の28日、みんなで遊園地に行きたいと言っておった」
「みんなで?」裕誠が不思議そうに聞いた。「ああ。彼女の幼馴染や親友、世話になった人を集めて行きたいらしい」
「待て、俺らが混じったら迷惑だろ・・遠慮しとくよ」裕誠は言った。
「問題ない。きっとみんな受け入れてくれる。・・あと、大事な日なんじゃ。必ず来てほしい。我からの頼みじゃ」
「禅太さんがそこまで言うなら行くけどよ・・まぁ、わかった。予定を開けておく」
その後解散し、我は舞の実家へ戻った。
部屋に入ると、舞は熟睡していた。
「・・疲れておるんじゃな」今はゆっくり休ませてあげよう。
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