第9話
またしても「普通の人生」から遠ざかってしまった私である。
半グレ詐欺グループの上に立つって・・私は一体何をしているんだ?
「楽しいから良いんだけどさ」
「お主も中々のワルじゃな」
「禅太の方がよっぽど悪いでしょ。あんな非人道的な発想がすぐに出てくるの、はっきり言って異常だよ」
「我は人間ではないからな。同じ基準で考えてもらっては困る」
都合の良いときだけ妖であることを強調してくるよね・・
家に帰ってくると、ふと我に返った。
「待って、冷静に考えてやばくない??捕まらないよね、私たち・・」
「捕まるわけないじゃろ。もし警察沙汰になっても先に詐欺をしたのはあの男らじゃから我らは被害者ヅラをかませる」
自慢げに親指を立ててきた。発言の内容は全く誇れるものじゃないと思うのだが。
「しかも、捕まったところでお主は『やり直す』んじゃろ?」
「まだわかんないよ・・」
「段々と揺らいできているようじゃな。まぁその気持ちもわからなくはない、28日までじっくりと考えておくといい」
だらだらと過ごす時間も大切だと気づき、14・15日は家で自堕落な生活を送った。
昼の2時に起床し、コーラを飲みながらテレビで好きな映画を見る。
正直、これだけで人生って幸せなんだよね・・頑張って昇進して、給料を増やす・・とかって遠回りなのかもしれないと思った。
まぁ、仕事をやめた私に言う資格はないんだけどさ。
16日は朝7時に起きた。早起きは三文の徳・・ではなく、予定時間に間に合わせるにはこの時間に起きるしかなかっただけだ。
今日からみんなで地元に帰る。ずっと楽しみにしていた3日間だ。
駿、たっちゃん、ユリカ、そして私の四人が揃うのは実に9年ぶりである。
一時間ほど電車に揺られた後、歩いて集合場所に向かった。
「じゃ、ここから禅太は好きに過ごしてていいよ。たまには妖っぽい暮らしに戻っても良いんじゃない?」
「そうじゃな。では、また3日後に」
「はーい」
集合場所には既に駿とユリカが立っていた。
「久しぶり~!」
手を振りながら走っていくと、ユリカはすぐさまスマホをポケットにしまった。
「舞!会いたかったよ~」
私の方に勢いよく飛びついてきたので、危うく後ろに倒れそうになった。
「なんかすごいテンション高いね、珍しい・・」
「ちょっと、うちがノリ悪い人みたいな言い方しないでよ」
「ユリカ、意外とめちゃくちゃ楽しみにしてたみたいだよ」
駿が茶化すように言った。
「ちょっと、それは内緒にしといてよ」
「まあまあ、楽しみにしてたのはみんなお互い様でしょ」
適当になだめておいた。
「何より、晴れてよかったね」
「ほんとにそう。しかも5月ってちょうど過ごしやすいタイミングだし、舞、ナイスだよ」
ユリカが親指を立てて言った。
「それで、たっちゃんはまだ来ないの?」
「十分くらい遅れます、だってさ」
ラインを確認した駿が言った。
「ほんと相変わらずだね・・」
呆れ顔だったが、ユリカはどこか嬉しそうだった。
そして、9時10分になると、小太りで汗だくの男が走ってきた。
「ごめん、遅くなった!」
「たっちゃん!!!」
あの頃のたっちゃんをそのまま大きくしたような姿で、全体像を見ただけで嬉しくなってしまった。
「いやー、電車乗り遅れちゃってさ」
「にしても汗だく過ぎないか?お前」
駿の口調も昔に戻ってきている。やっぱり好きだな、この三人。
「最初に行くのは?」
「やっぱり秘密基地っしょ」
ユリカが即答した。
「鶴亀公園だっけ」
スマホのナビを確認しようとしたら、たっちゃんが「そんなもの必要ないよ」と言って歩き出した。
「覚えてるの?」
「僕、この辺の地理には昔から詳しいんだよ。基本、どんな場所もわかる」
初めてたっちゃんが頼もしく感じた。
「案内よろしく~」
しばらく歩いたところで、一度たっちゃんが立ち止まった。
「あれ?」
「ん?」
不穏な空気が流れた。
「あれ、ここじゃなかったっけ・・」
たっちゃんが頭をポリポリと搔きながら言う。
これ、やったな。
「だから、タツキに任せるのは不安だったんだよ・・」
駿がペットボトルの水を飲み干して言った。
「じゃ、もうナビ使お」
調べてみると、たっちゃんは完全に逆方向へ歩いていたことがわかった。
「あっちじゃん!!!」
「まじか、ごめん」
たっちゃんがしょんぼりする。
元々は徒歩10分だったところが、徒歩20分になってしまった。
ただ、そんなことがあっても笑顔が絶えなかったのは、間違いなくこの四人で居るからだ。
「ようやく着いた・・」
9年ぶりに訪れる、私たちだけの秘密基地。
川沿いを進んでいき、ある一本の木の前で私たちは立ち止まった。
「この赤いテープ・・」
木に貼り付けられているテープが、秘密基地の目印だった。
「ずっと残ってたんだな・・」
駿が指先でテープをなぞる。
「奥行ってみよっか」
ユリカが先陣を切って歩いていく。
「見て!!!」
不自然に枝がかき集められている場所や、深めの穴などが複数箇所にあった。
「なんだかんだうちらも利口な子どもだったからね・・漫画とかは無いや」
ユリカが寂しそうに言う。
「親にバレたらたまったもんじゃなかったしな。公園を汚すようなことはしなかった」
「まぁ、形に残るものだけが思い出ってわけでもないからね。十分懐かしい記憶は思い出せたなぁ・・」
ユリカが土をすくい上げて言った。
「そうだね~・・」
たっちゃんが近くのベンチに目を移すと、少し不思議そうな表情をしていた。
「あのベンチに乗ってるのってハンカチ?」
「ああ、普通のハンカチ・・」
そう答える途中で駿の顔が険しくなった。
「どうしたの?」
ゆっくりと駿がベンチに近づいていくので、私たちも状況が理解できないまま背中を追った。
「血付いてるよな・・これ」
「ほんとだ」
「でも、血くらいなら大した事ないんじゃない?鼻血出ただけとか」
ユリカが自分に言い聞かせるように言った。
「うーん・・」
たっちゃんは周りを見渡したあと、一気に青ざめた顔になった。
「おい、あれ・・」
たっちゃんが指を指した方向を見ると、近くの茂みから靴が片方だけ私たちの方を覗いていた。
一気に鳥肌が立つ。
「偶然にしちゃあ、出来すぎてるよな・・」
駿が震えた声で言った。
「どうする?警察呼ぶ・・?」
「そ、そうだね・・」
私が110に電話をかけ、暫く待つと警察が近くに来ているのが見えた。
「ここです!」
ユリカが手を上げて警察に知らせる。
「血のついたハンカチと、片方の靴を発見したということで間違いないですか?」
「はい、これと・・あれです」
駿が指を指す。
「触ってはいないですか?」
「はい、私たちは触ってません」
二人の警察官が2分ほど話し込む。
「証拠品として、一度この靴とハンカチは持ち帰らせていただきます。また後日、周辺の調査や鑑定を行い、事件性の有無などについて伝えます」
私たちは息を呑み、無言で頷いた。
「では、一度ここは立入禁止とさせていただきます」
「はい!」
私たちは公園を離れ、近くのコンビニの駐車場に座り込んだ。
「なんか大変なことに巻き込まれちゃったみたいだね・・」
こういうイレギュラーは望んでいなかった。
「どうする・・?」
たっちゃんが肩をガクッと落とした。
「多分だけどしばらくの間、ここにいないといけないよね・・第一発見者ってわけだし」
「そうなったら、私がここに残るよ。みんな学校とか仕事とかで忙しいだろうし」
そして、私だけが残ればいくらでも禅太の手を借りられる。
「そんな、申し訳ないよ・・」
「大丈夫。私、覚悟決まってるから」
今までで一番の目力で皆の目を見つめた。
「ありがとう」
「無理はしないでね」
「うん、大丈夫」
「残りの2日間、どう過ごすかだよね・・」
完全に楽しめる雰囲気ではなくなってしまった。
「今日はとりあえず、家に戻ろっか。学校訪問はまた明日にする?」
「だね」
私の実家に皆で泊まることになっている。自慢ではないが、中々広い家なので。
「ま、俺たちは楽しむために帰郷してきたわけだし、切り替えよう。きっとこういうことも・・あるだろう」
本当にある????
実家に戻ると、懐かしい匂いが漂ってきた。
「ただいま~」
「おじゃましまーす!!」
「いらっしゃい、君らが揃うなんていつぶりかしらね」
母が料理を作りながら言った。
「いやぁ・・ご無沙汰しております」
たっちゃんは少し気まずそうにしていた。
「とりあえず、手洗ってきなさい。もう晩ごはんできるよ~」
「はーい!」
懐かしい。昔はよくここで、皆でご飯食べてたなぁ・・
公園の話は皆が帰ってから両親にしようと思った。
今は、楽しんでもらいたいから。
「いただきます!」
小学生の頃なら飛び跳ねて喜んだであろうご馳走だった。
いや、正直今でも心は弾む。
昔話に花を咲かせながら、お酒を嗜んだ。
酔いも回ってきたあたりでボードゲームを始め、夜は大盛り上がりだった。
「そろそろ寝よっか・・」
酔いも冷めてきたあたりで風呂に入り、私たちは横になった。
「もう2時・・?ちょっと遊びすぎたな・・」
駿が少し後悔していた。
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