第28話 へそ調査(出版社)終了

「虚偽の通報。よって、調査は終了」

 特殊バンに向かいながら、愛は結論を出した。


「了解」

 連の声が開きっぱなしの音声通信から聞こえてきた。

 これで開きっぱなしの音声通信も終了した。


 愛を先頭に、僕たちは特殊バンに戻った。


 つまらなそうな顔をしていた宏生だが、ソファーに腰かけバングル状のデバイスに指示を出し音楽を聴き出すと、ご機嫌になって上半身でリズムを取っている。


 荒々しくソファーに座った結菜は、胸の前で腕を組みしかめっ面で考え込んでいる。どうしても納得がいかないらしく、右手の人差し指は組む腕を叩いている。


 やばい。結菜が爆発するぞ。

 そう思っていると、案の定、結菜が声を荒げた。

「虚偽の通報をするなんて、絶対に許せん」


「愛」

 横に座っている愛を、結菜が睨むように見た。

 愛は平然と顔を向け、首を傾けて見せた。


「嘘を吐いた奴を取っ捕まえて、なんであたしたちを騙したのか。何の恨みがあるんだ。意味があるのかないのか、亡くなった方の名前をかたるとは失礼だ。何を考えてんだ。雷様に舌を抜いてもらうぞ。いろいろと謝らせないと、気が済まない」

 捲し立てた結菜は、通報者に対してかなり立腹している。


「連の調査報告書で、雷様対応室から警察に連絡はいく。警察に任すのが道理」

 愛は冷静だ。


 だが、結菜は反発するだろうな。

 僕が危惧していると、やはり結菜が大袈裟な身振り手振りで主張した。

だまされたあたしたちに調査する権利はある。知る権利がある。嘘を吐いた通報者を取っ捕まえる権利がある」


 呆れる連は、愛の意見に賛成している。

 リズムを取るのを止めている宏生は、結菜の言葉も愛の言葉も聞き取っている。だが、どちらの意見にも同意する気はないみたいだ。どっちに転んでもいい、成り行きに任せるといった感じだ。

 僕は結菜の意見に賛成だ。どういうことでこのような嘘を吐いたのか、それも亡くなっている彼の名前を使うとはどういうことなのか……調べたい。非常に興味がそそられる。

 愛は、自分の意見は正しいから譲らない、というような気迫のある表情の演技をしている。


「多数決で決めることを提案する」

 居住まいを正すように結菜が背筋を伸ばし、真剣な眼差しで愛をまっすぐに見詰めた。


「承認した」

 愛はチームリーダーとして、正論がくつがえされるとしても、提案されれば拒否することはできない。

「多数決をおこなう。私は、調査しない」


「調査する」

 結菜が勢いよく右手を上げた。その手に巻かれているバングル状のデバイスから芽が出て、それが伸びて茎となり、その茎に一枚の葉が付いた。その葉が、細胞分裂と細胞伸長で拡大し、画面に分化した。その画面に表示された文字を読んだ結菜が、満面笑みで僕に向かって親指を立てた。

 僕は皆に通信をしていた。


「兎兎は、調査する」

 愛が僕の通信を音読すると、連が僕に視線を投げかけた。

「調査はしません」


 後は宏生だ。どっちでもいいと思っていただけに、宏生は焦っている。


「宏生」

 呼ばれた宏生が、緊張の眼差しで結菜を見た。

 結菜は捲し立てると思ったが、意外にも大人しく恥ずかしそうに身をよじった。

「宏生はあたしにとって頼りがいのある良きパートナー。我儘わがままなあたしとコンビを組んでくれて、いつもありがとう。宏生との調査はいつも楽しいな~。楽しいな~。楽しいな~。楽しいな~」


 いつもと違う様子の結菜に、宏生は気味悪そうにしている。だが、こんなことを言われると、弱いよな。僕は聞き入れてしまう。


「はい、はい。調査する」

 宏生は気怠そうに言ったが、悪くはなさそうだ。


 さすが結菜だ。いとも簡単に宏生を丸め込んだ。


「やった~~~」

 ガッツポーズをした結菜が、ソファーから立ち上がると飛び跳ねた。

「調査するに決まり~~~。決まり~~~。決まり~~~」


 連が苦笑いしている。


「調査するに決まった」

 声高に言った愛が厳しい表情の演技で、はしゃぐ結菜に視線を送った。

 気付いた結菜はソファーに座ると、真面目な顔付きをして押し黙った。


「連。今回はへそ調査でないから、デバイスの連携共有はできない?」

 愛が連に視線を向けた。


「強制的にアルゴリズムを変更してみます」

 ソファーから立った連は、机の前の椅子に座ると、パソコンを操作していく。


 暫くして、連が椅子を回して振り向いた。

「変更できましたので、皆のデバイスを変更プログラムに書き換えます」

 再びパソコンを操作していく。


「書き換え終了です」

 振り向いた連を、愛が見遣った。

「了解」

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