第24話 へそ調査(研究開発型ベンチャー企業)
「影が襲うという怪奇現象がなぜ起こったのか。その原因である雷様に取られたへその特定をするため、影を捕獲する案を実行する」
号令を掛けた愛が動いた。
まずは、黒いクッション(影)を多目的室から廊下に誘導する。
出入り口のドアは開いたままだ。
愛は橙色のバランスボールを転がし、ツノが生えた黒いクッション(影)の前、僕の観察データからの、影から影へと移動する最大値の場所に、橙色のバランスボールを置いた。
素早く愛はその場から離れた。愛自身の影に移動されては困るからだ。
ツノが生えた黒いクッション(影)が消えた。
息を凝らす僕と同じように、宏生も緊張している。無表情の愛は、冷静に見極めている。
感知した。
影が、橙色のバランスボールの影に移動した。
僕は胸を撫で下ろした。
暫しして、橙色のバランスボールと黒色のバランスボールが並んだ。
「黒いバランスボールが現れた」
宏生は安堵したように口元を緩めたが、すぐに動き出した。
桃色のバランスボールを転がし、黒いバランスボール(影)の前、影から影へと移動する最大値の場所に、桃色のバランスボールを置いた。
「黒いバランスボールにツノが生えた」
拳を握る宏生は、影が影へと移動しない距離にいる。
「消えた」
愛は呟いたと同時に駆けた。
消えた黒いバランスボール(影)と並んでいた橙色のバランスボールを、多目的室のドアの外側、廊下まで転がしていく。
「黒いバランスボールが現れた」
宏生が置いた桃色のバランスボールと黒色のバランスボールが並んでいる。
黒いバランスボール(影)からツノが生えてくるのを待つ。
ツノが生えた黒いバランスボール(影)が消えるのを待つ。
「消えた」
宏生は桃色のバランスボールに向かって突進した。
桃色のバランスボールを転がし、廊下に出る直前で立ち止まり、覗き込むようにして確認する。
「黒いバランスボールが現れた」
愛が置いた橙色のバランスボールと黒色のバランスボールが、廊下で並んでいる。
宏生は桃色のバランスボールを転がし、黒いバランスボール(影)を擦り抜け、影から影へと移動する最大値の場所に、桃色のバランスボールを置いた。
このようにして、愛と宏生は交互に動きながら、影を捕獲するための好条件の場所に、影を誘導していく。その場所は、連から届いていたレクリエーション施設の構図から決めた。捕獲投網を使用するなら、多目的室のように雑然としていない場所が良い。
誘導して進む廊下は、右側は一定の間隔で電灯が設置された窓のない壁が続き、左側は廊下と多目的室を隔てる壁が続いている。
影の誘導はうまくいき、好条件の場所にきた。
最後の設置となる橙色のバランスボールを、愛が転がしていく。
多目的室の隣にある喫茶室前の廊下は、廊下と喫茶室を隔てる壁がなく、何もない広間になっている。
その広間のなかほどに、愛は橙色のバランスボールを置いた。すぐにその場から離れると、バングル状デバイスに捕獲投網の分化の指示を出す。
宏生は手ぶらで、愛が距離を取って対峙する橙色のバランスボールを挟んで対峙できる場所に、駆けた。距離を取って橙色のバランスボールと対峙すると、バングル状デバイスに捕獲投網の分化の指示を出す。
バングル状デバイスから出ている芽が、漁業で用いられる投網に似た形状に分化していく。
分化した捕獲投網を手で持つと、バングル状デバイスと繋がった部分が蔓となって長く伸びる。
感知した。
橙色のバランスボールの影が、立体化している。
僕は勢いよく後ろ足で床を蹴り、警戒音を鳴らした。
宏生の顔が引き締まった。捕獲投網を持つ手は強張っているようだが、集中している。捕獲投網を構える愛は、完璧な姿勢だ。
「黒いバランスボールが現れた」
橙色のバランスボールと並んだ黒色のバランスボールを、宏生は射貫くように見つめた。
「今よ」
愛が投網漁の要領で、捕獲投網を投げ、黒いバランスボール(影)を捕らえた。
すかさず宏生も、同じように捕獲投網を投げた。
黒いバランスボール(影)は、二重の捕獲投網によって捕らえられた。
「捕獲投網。ドーム状に展開」
宏生がバングル状デバイスに指示を出した。
黒いバランスボール(影)を覆う捕獲投網が宙に浮き、ドーム状に展開していく。
「捕獲投網。ドーム状に展開」
愛も同じ指示を、バングル状デバイスに出した。
ドーム状に展開した宏生の捕獲投網と接合するように、愛の捕獲投網がドーム状に展開していく。
「影を捕獲した。異変はない」
報告した愛の声が、開きっぱなしの音声通信からも聞こえてきた。
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