第16話 へそ調査(研究開発型ベンチャー企業)
「自分の影に襲われた?」
首を捻る蓮の呟きに、公園の駐車場に止めた特殊バン内のソファーでくつろぐ愛や宏生や結菜が、パソコン画面を見詰める蓮の背中に視線を向けた。
僕はクッションに横たわったままで、長い耳を研ぎ澄ませ、髭を波打たせて皆の動向をスキャンしている。
「雷様対応室から出動命令が来ました。現場は、孤島にある研究開発型ベンチャー企業です」
襟を正すように蓮が振り返った。
「革新的で独創的な研究開発を
面白そうな現場じゃと、やる気満々に宏生が、缶コーヒーを飲み干した。
「影に襲われたとは?」
愛の問いに蓮が答える。
「落雷後、1人の研究員が自分の影に襲われています」
「影って、この影~~~?」
おどけたように結菜が、自らの影を指した。
律儀に蓮は頷いた。
「ってことは、雷様にへそを取られたってことじゃな」
宏生に視線を向けて蓮が答える。
「その可能性は高いです」
「また、雷様に乗っ取られた研究開発中の製品や試作品が暴れています」
そう言って蓮が、パソコンの画面に向き直った。
「この公園の芝生広場に、ヘリコプターが到着しました」
既に僕はドアの前で待っていた。
「兎兎が一番乗り~~~」
気付いた結菜が、横開きのドアを開いた。
僕は飛び跳ねて外に出る。続く結菜が真似て飛び跳ねて出た。同じく飛び跳ねて出たふくよかな体の宏生だが、まるで風船のように軽やかに舞い上がり、ふわりと着地した。
僕は先立って芝生広場に向かうが、髭を波打たせてスキャンし、聴覚を研ぎ澄ましている。
「じゃあ、蓮。行くよ」
僕は愛と蓮の声も捉えていた。
「了解」
情報収集や雷様対応室との遣り取りなど、通信担当の蓮は特殊バンにいるが、チームメンバーはそれぞれ違う場所にいても、任務遂行はスムーズにいく。
互いに報告し合わなくても、個々の調査内容、通信内容、スキャンデータなどの調査データなどは、常に自動で同期され、チームメンバーのデバイスに全て送られて共有されているからだ。いつでも見たい、聞きたいときにチェックすれば簡単に情報は得られ、スピーカー機能で音声通信は開きっぱなしだから、行動把握もできるし会話に割り込むこともできる。
僕は喋らないが、首輪状のデバイスは一応スピーカー機能にしてある。何かあれば、誰かが気付いて助けに来てくれるからだ。
大抵は、協議する時間や場所を持つことはない。意見も時々で出し合っているから、結論も導きやすいし、判断も早く下せるからだ。
これがいつもの調査スタイルだ。
前回の総合博物館の調査は、外部との通信が不能だった為、いつもの調査スタイルではできなかった。
ヘリコプターに乗り込んだ僕たちは、孤島に着く間、各々のデバイスに指示を出し、蓮から送られてきた研究開発型ベンチャー企業の施設などの情報に目を通していった。
雷様が落ちた研究開発施設にいた研究員たちは、既にレクリエーション施設に避難している。
孤島には、研究開発施設、レクリエーション施設、居住生活施設、孤島の半分を占める巨大なドームがある。それぞれの施設間は1キロほど離れている。
ドーム内には、バイオテクノロジーで作られた実験都市がある。人はまだ住んでいないが、バイオテクノロジーで作られた大樹のアパートや大樹の商業施設などがある。大樹の幹の中に、縦方向の輪状に配置された1戸1戸や各フロアが存在する。1戸やフロアの中央には、
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