第13話 へそ調査(総合博物館)再々調査
机に向かい座って作業をする福原の手元、机上に例の押し葉(植物標本)が置かれているのを、愛は捉えた。だが、すぐに聞くことはしなかった。空いている椅子を引き寄せると福原の横に座った。
「それは何ですか?」
いきなり横に座って尋ねてきた愛を、福原は怪訝そうに振り向いて見た。そんな彼の手には、別の新たな押し葉(植物標本)が持たれている。
「すみません。どうも気になってしまって」
愛は福原が持つ押し葉(植物標本)に目を向けながら、興味津々といった演技をした。
「ですよね」
目を細めた福原は学芸員として、この仕事(研究)が大好きみたいだ。一気に饒舌になる。
「こんな貴重な資料が収蔵庫に眠っていたんですよ。発見したときは驚きと感激で、ワクワクが止まりませんでした」
「そうなんですか。それはますます興味が湧きます」
ニコリと笑う演技の愛に、福原は積極的に説明を始めた。
そんな説明を、僕は作業机の下から聞き、スキャン観察でも福原と愛の様子などを捉えていった。
押し葉(植物標本)となっているこれらの手紙は、町飛脚が動いていた江戸時代のもので、町人の生活を知れる貴重な資料だということだ。
手紙は文字だけでなく、絵手紙もある。
人情味あふれ、心揺さぶられる手紙に、僕は聞き入り、スキャン観察で見入ったりした。
里の母の体調を気遣う手紙。花の絵が描かれ、恋しと一言書かれた手紙。寺子屋で習ったばかりなのだろうか、拙い字の手紙もある。
へその緒がついた赤子の絵が描かれているだけの絵手紙を、福原が愛に見せたときだった。
「出稼ぎに出ている父となった旦那さんに送ったものと思われます」
つと福原の目から涙が流れた。
「感動しますよね」
反射的に福原は手で涙を拭った。
愛は感動の涙はあるということは知っていても、実際に目にしたのは初めてらしい。このように、説明する福原の表情や口調、身振り手振りは、愛にとって多くの感情を学ぶ機会になったみたいだ。
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