第4話 雷様へそ調査チーム
雷様にへそを取られると怪奇現象が起こる。
やっかいなへそを取られ、取られたへそが何なのか分からず、異変が多発していると、企業や施設やマンションや学校などからの相談を受け付けるところがある。国主体の雷様対応室だ。そこに、雷様へそ調査チームと雷様へそ処理チームが所属している。へその調査解明をするのが雷様へそ調査チームで、調査解明が終了した後に出動しその現場を元通りに処理するのが雷様へそ処理チームだ。
愛は、児童養護施設から退所した後、苦労の末、雷様対応室に就き、今は、雷様へそ調査チームのリーダーだ。
僕はまんまと雷様へそ調査チームのメンバーとして迎え入れられた。まあ、マスコット的な存在ではあるが、メンバーであることに間違いはない。愛と違って、他のメンバーは皆、僕の愛くるしさアピールに引っ掛かった。僕の巨大なお目目ウルウル見詰め攻撃にイチコロだった。
調査担当の
情報収集などの通信担当の蓮は、結菜や宏生と違って、全く僕には興味がないように振る舞っている。だが、脳信号を読み取れる僕には見え見えだ。当初、彼が一番、僕の愛くるしさアピールに引っ掛かったし、今では、僕と二人っきりになった時は、だらしない顔になって僕の頭をナデナデしまくっている。これは良いとして、仕事が暇なときに、座布団の上でうとうとしている僕にデレデレの通信をしてくるのは止めて欲しい。
来た。
目を瞑ったままの僕だが、長い耳は捉えている。
緑色の首輪状のデバイスから芽が出て、それが伸びて茎となり、その茎に一枚の葉が付いた。その葉が、細胞分裂と細胞伸長で拡大し、画面に分化した。その画面に、蓮が僕に送ったデレデレの通信内容が表示される。このデバイスは、愛にハッキングは御法度だと叱られた僕が、雷様へそ調査チームに加わったのを機に装着されたものだ。
無視したいのだが、無視すると、二人っきりになったときに、あのときなんで返信してくれなかったんですかと、そばに寄ってきてベタベタする。その方が鬱陶しいから、僕は髭を波打たせてデバイスに指示を出した。僕の場合は髭でデバイスに直接指示入力ができる。
適当に返信した直後、前方の扉が開いて、運転していた愛が入ってきた。
「公園の駐車場に止めた」
「よっしゃ。休憩じゃ」
愛の言葉に素早く反応したのは宏生だった。丸顔で小太りな彼だが、身軽にちょこまかと動く。寝転んでいたソファーから軽やかに飛び起きると、横開きのドアを開けて外に出て行った。その後を追って、読んでいた漫画をソファーに転がした結菜も出て行った。
雷様へそ調査チームのオフィスは、特殊バンの中だ。調査をするのがメインで出動先に移動することが殆どだからだ。運転手は決まっていない。運転したい者が運転する。
現在の特殊バンの中は、大雑把にいうと、二つのソファーとテーブル、蓮が作業する机と椅子がある。現在という単語を使ったのは、特殊バン内の床は、デバイスと同じバイオテクノロジーで作られた構造だからだ。チームメンバーの指示であらゆるものに分化する。
愛も蓮も特殊バンから降りたが、今日の僕は残っている。なぜなら、蓮のデレデレの通信にもあったが、既に五日間、雷様対応室から出動命令が出ていないからだ。そろそろ大きな件がきてもおかしくない。
だからか、身長が高くて細身の蓮は、いつも風に吹かれる柳のように散歩するのだが、今日は早々に帰ってきた。彼が何も置かれていない机上に、買ってきた缶コーヒーを置き、僕に甘い視線を向けたときだった。
僕の長い耳が感知した。
蓮も気付いた。急いで椅子に座る。
机上の中央あたりに芽が出て、それが伸びて茎となり、その茎の頂に深紅の花が咲いた。
「雷様対応室から出動命令が来ましたよ」
蓮は誰も居ないのを良いことに、いつもは見せない嬉しそうな顔で僕を見た。蓮が僕以外でクールな顔や態度を崩すのを見たことがない。
僕に向かって親指を立てた蓮は、くるりと向き直った。
机上で咲いていた深紅の花が枯れると、新たな芽が机上に出た。それが伸びて茎となり、その茎に一枚の葉が付いた。その葉が、細胞分裂と細胞伸長で拡大し、画面に分化した。
画面には現場の名称と地図が表示されている。この地図は、運転席にあるカーナビゲーションにも送られている。
「識別番号、C31H愛とC35U結菜とC38X宏生に通信」
蓮の指示で、彼が手首に装着している緑色のバングル状のデバイスから芽が出た。それが伸びて茎となり、その茎に一枚の葉が付いた。その葉が、細胞分裂と細胞伸長で拡大し、画面に分化した。
画面の下部に表示されているキーボードで文字入力していく。
しばらくして、続々と皆が戻ってきた。
「現場は?」
愛は帰って来るなり蓮に詰め寄った。
「総合博物館です」
「はくぶつかん~~~」
アイドル顔の結菜が、面白おかしそうに甲高い声を上げながらソファーに座った。
「今回の取られたへそは何かの? どんな怪奇現象かの? 楽しみじゃな」
宏生がワクワクするように軽快なステップで体を揺らす。ふくよかな体なのに、シャープな動きをする。彼はいつもニコニコしてて陽気で楽観的だ。だが、脳信号を読み取れる僕としては、それが心配に思うところだ。
「どんなへそが取られたの?」
結菜が蓮に目を合わせた。彼女は真面目な表情をしているが、瞳はお茶目だ。
堅物の蓮はストレートに語調を強めた。
「それを調べるのです。毎回してるじゃないですか」
「ふん。そんなこと分かってるよ~~~」
冗談が通じないと、両手をヒラヒラさせて結菜は、面白くないと頬を膨らまし、漫画を手に取った。彼女は脳信号を読み取らなくても見た目で十分だ。
だが、実は、読み取れない脳信号の領域がある。
結菜にもその領域がある。その領域は、愛にも蓮にも宏生にもあって、僕にもある。
その領域とは、隠し事(秘密)だ。
愛がソファーに腰を下ろし、隣に座る結菜が読む漫画を覗き込んだ。だが、興味が湧かなかったのか、深くもたれると目を瞑った。
向かい合うソファーに座る宏生は、手首に装着する緑色のデバイスから伸びる蔓状イヤホンをして音楽を聴いている。リズミカルに上半身が動いている。
椅子から立ち上がった蓮は、空気を読んで、運転席に座った。現場に向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます