第2話 出会い
遊び好きの雷様は、時に殺人者であり芸術家だ。
おじいさんの体はバラバラになったが、血は一滴も出ていない。歩道にも血は散っていない。また、黒焦げにもなっていない。焼け跡もない。
頭、胴、左右の上腕と前腕、両手、左右の大腿と下腿、両足が、綺麗にバラバラになり、歩道に散らばっている。
新品のおじいさんマネキンがバラバラになって転がっているようだ。
僕はおじいさんのバラバラ遺体から目を逸らし歩道を進んでいく。
嘘だろ?
僕の長い耳が感知した。
慌てて歩道を蹴り上げ、避ける。
閃光!
同時に、ソニックブーム!
雷様が僕を狙っている。
おじいさんの側に居たからか?
焦燥で目を剥き、天を仰いだ。
僕は雷様をおまえ呼ばわりしてないぞ。
無罪だと訴えかけるが、無理みたいだ。
雷様は相当怒っている。
長い耳が感知した。
閃光!
同時に、ソニックブーム!
僕の艶々した被毛が縮れた。
やばい。
雷様は僕の行動を読んでいる。
もう避けられない。
閃光!
同時に、ソニックブーム!
観念して身を縮めた矢先だった。細長いロープ状のムチが胴に巻き付き、僕を掬い上げた。
宙を舞う僕の胴からするりとムチが外されるや否や、柔らかな彼女の胸が僕を抱きかかえた。
助かった。
君が助けてくれたんだ。
ほっとしながら彼女の顔を見上げ、呆然とした。
彼女の感情が読めない。
切れ長の目の奥も感情がない。
心がないかのようだ。
「ウサギさん。怪我はない?」
彼女の瞳に、長い耳を立てた全身灰色のハチワレ柄のウサギが映っている。
僕だ。
彼女は僕の体をなめ回すように確認すると、にこりと笑った。
素敵な笑顔。
だが、脳信号を読み取れる僕には分かる。
この笑顔は演技だ。
心は笑っていない。
なぜ彼女は演技をしている?
真相が知りたい。
衝動に駆られた僕はハッキングに取りかかろうとして、彼女により強く抱き締められた。そのまま彼女は近くのデパートの中へ駆け込んだ。
面長の輪郭にお団子ヘアの彼女が、きょろきょろと辺りを見回す中、僕たちの挙動を見ていた人たちが、避けるように駆け足で二階に上るエスカレーターに乗った。それに気付いた人たちが続き、その後、次から次へと他の人たちも二階に逃げていく。
同調行動。不安な状況下では、同じ行動を取るのが無難だと判断してしまう。
僕を胸に抱いたまま彼女は、ぬいぐるみが陳列されたコーナーに駆けた。僕たちを忌避しているから、人混みをかき分けることなくスムーズに着いた。
僕をぬいぐるみにしたいらしい。
そう思っていると、その通り。
沢山のぬいぐるみが陳列された棚の中に、彼女は僕を紛れ込ませた。
ぬいぐるみになるのも良い経験だ。
すぐに僕はなりきった。だが、雷様の攻撃と彼女の動向を追うため、聴覚視覚は研ぎ澄ます。
遮られたハッキングをするかな。
ヒゲをぴくりと波打たせ、周波数を捉えていく。
だが、長い耳が感知した。
また遮られた。
閃光!
同時に、ソニックブーム!
この建物に雷様が落ちた。
閃光!
同時に、ソニックブーム!
僕は息を呑んで固まった。
両隣のぬいぐるみの異変を、長い耳が感知したからだ。
前方で身構える彼女は気付いていない。
逃げるか、このままぬいぐるみの振りを続けるか、
どうする? どう動く?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます