アイ

月菜にと

第一章

第1話 雷様

 閃光!


 歩道に面するアパレルのショーウインドーに、稲妻が反射した。


 今日は久しぶりに気分が良いのに台無しだ。


 ご機嫌斜めになった僕は、足を止めて空を見上げた。

 掻き曇っている。だが、雨は降らない。


 雷様との遭遇は何日ぶりかな?


 視線を下ろし、歩道を歩いていた人たちを探す。

 案の定、我も我もと雑居ビルやデパートの中に逃げていく。


 どこにいても落雷されるときは落雷されるのに……。

 皆、そのことは知っている。だが、そのような行動を取ってしまうのは、心は持ちようなのかもしれない。


 僕は逃げ隠れせず、歩道を進んでいく。


 ソニックブーム!


 落雷した。

 雷様が近付いていることに間違いはないが、まだ距離はある。


 閃光!


 即座に足を止め、時間を数える。


 1秒、2秒、3秒、4秒、5秒……


 ソニックブーム!


 12秒。

 落雷と同時に数えるのを止めた。


 雷様はここから約4キロメートル先にいる。


 再び歩道を進んでいく。

 逃げてるんじゃない。止まっていても目新しい発見はないからだ。いろいろと観察するなら、ずんずん進まないとな。


 閃光!


 足を止め時間を数えようとして、前方におじいさんを見つけた。

 腰を抜かしたのか?


 行く手の歩道に、おじいさんがへたりこんでいる。


 近寄っていく。

 妙だな。何やってんだ?


 おじいさんが空を見上げ拝んでいる。


 ソニックブーム!


 畏敬の念だったおじいさんの顔が険しくなって叫んだ。


「雷が生き物になって雷様になった」


 おじいさんはおののきながらも叫びをやめない。


「雷様は、異常気象から生まれた自然現象(産物)か? 地球外生命体の仕業か? 自然を破壊する我らを裁いているのか? それとも、他国の兵器か? いや、雷様は地球外生命体そのものかもしれん?」


 閃光!


「落ちた雷様に、バラバラにされるか、乗っ取られるか、へそを取られるか。それは、雷様の気分次第」


 おじいさんの表情が少しずつ変わっていく気がする。


「雷様の目的は何なのか? ただ遊んでいるだけという見方が大多数を占めるが……」


 首を横に振ったおじいさんが、顔を下に向け黙り込んだ。


 ソニックブーム!


 おじいさんがゆっくりと顔を上げた。


 ぎくりと僕は目を見開いた。


 おじいさんの表情が一変している。

 当初恐れおののいていたおじいさんからはもう想像だにできない。

 敬う心は、もうない。あるのは、軽蔑心だ。


「ふざけるな」


 空を睨み付け一喝したおじいさんが立ち上がった。


 閃光!


 慌てて時間を数える。

 雷様はもう近くに来ているはず……。


 1秒、2秒、


 ソニックブーム!


 3秒。


 雷様は約1キロメートル先にいる。


「わしは知っとるぞ」


 自信に満ちあふれた表情でおじいさんは空に向かって叫んだ。


 笑った。

 おじいさんが雷様をあざけている。


「わしはおまえの魂胆を知っとる。おまえがここにいる理由を。おまえの本当の目的を」


 雷様をおまえ呼ばわりした。


 身震いする僕とは違い、おじいさんは至って堂々としている。


「おまえの狙いは……」


 直感した僕は、石畳の歩道を思いっきり蹴り上げ、後退った。

 直後……


 閃光!

 同時に、ソニックブーム!


 雷様が落ちたおじいさんの体は、芸術的ともいうべき綺麗なバラバラ遺体になった。

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