第5話 北の森

北の森を進んでいると角の生えた茶色のうさぎが襲って来た。


「あっぶね〜。まだ戦闘未経験者何だぞ!」


落ちていた木の棒を拾って奴が来るのを待ち構える。

近付いて来たホーンラビットを半身で躱し木の棒を上段から振り下ろした。

棒は首筋に当たったが、ホーンラビットは横倒しになっただけで直ぐに持ち直しそうだったので、直ぐ様、上段に振り上げてホーンラビットの頭に振り下ろした。

絶命せず脳震盪でフラフラになって此方に向かって来るのをまた木の棒を頭に振り下ろした。それでも駄目なので、手をかざし


「ウィンドカッター」


と風の刃をイメージして指先に魔力を集めて唱えるとイメージ通りの風の刃が飛び出し、ホーンラビットの頭をかち割った。

「キュ〜。」と鳴いてホーンラビットは倒れた。木の棒で突っついても動かない。

手をかざし収納唱えるとアイテムボックスに収納された。

血抜きしたいがナイフの持ち合わせの無いので諦めた。

確かこの先に王都と中継街に続く道が通っているはずなので、それに向かって進む。

辺りがすっかり暗くなって来ているので、大きな木に登り太い枝の生え際でみきにもたれて目を瞑る。

そうすると、元の持ち主の感情なのかまた涙が溢れてくる。

俺自身とは縁も所縁ゆかりも無いはずだが、どうしても哀しみが溢れてくる。

なぜだろうと考えた時に、前世の俺は最大の裏切り行為に哀しんだが、泣いていなかった。

哀しみが果てれば、後は前を向くだけだ泣こう。涙が出尽くすまで。俺は大泣きし嗚咽おえつが漏れても構わず泣いた。

そして泣き疲れて眠ってしまったようだ。


朝日のまぶしさで目を覚まして昨日、採取した木の実を食べて食事を終わらせて、木を降りて街道を目指す。

前世ではあれほど死にたかったのに今はこの身体の為に、あの兄弟があの騎士爵一族が生きていると云うのであれば、この俺が復讐してやる前の持ち主を殺した償いはさせないといけないと、心に刻む。

その間、昨日の様に突然魔物が現れても良いように木の棒を持って、ウィンドカッターを練習で飛ばした。


しばらく歩いて疲れたら無理をせず、ウォーターと唱えて掌にあふれさせて喉をうるおす。

木の実や薬草、ブルーベリーの様なモノを見つけて食べながら採取して森を進む。1日中歩いたが目指す街道は見つからなかった。 夕暮れになったので休む為の木を見付けて登り木の枝の生え際で休む。

夕食は見付けた木の実を食べて終わらせる。

夜になり、目をつむって呼吸を整えて木と同化するイメージで休む。


日の出と共に目を覚まし、クリーンを掛けてサッパリすると昨日、採取した木の実を歩きながら食べる。食べ終わると、木の棒を持ち魔物の気配を感じないか周囲を見渡す。

昨日は、運良く魔物に出会わなかった。

これがいつまでも続くとは思っていない。

ウィンドカッターを飛ばしながら狙ったところに当たるように練習する。

移動しながらウィンドカッターを放つと上手く当たらない。

でも、一人の移動は、動きながら攻撃しないとたちま窮地きゅうちになる。

油断なく動き回れる体力をつけよう。

そうして鑑定を使いながら木の実をベリーの実をそして薬草を採取しながら、歩いて陽が天辺に来たぐらいに木の根元で休憩していると、何やら声が聞こえたような気がした。


声の聞こえる方にゆっくりそ~と歩いて行くと。

「え〜ん、だめサニーも、妹のサニーも、ウグッ」

「うるさい! バシッ。もうこいつは死んでるんだ」


「そんな事無い。まだ生きてる。捨てないで。駄目! イヤーっ」


「ほら、何時までも、やかましい。バシッ」


「良いから無理やり乗せろ」


「イヤー。サニー、サニー起きて。お願いだから。起きて〜」


獣人族の小さな姉妹が奴隷として隷属の首輪に腕には手錠を掛けられ姉は鉄格子の馬車に押し込められている。

妹は街道の草叢くさむらに捨てられている。

馬車が動き出した。王都の方角に向かって行った。

姉は何時までも「サニー!」と叫んでいた。


(あぁ、嫌な世界だ。くそったれっ。)


俺は捨てられた獣人族を見に行く。

死んでいるとの事で、隷属の首輪も手錠もされていなかった。 と云うか素っ裸で放り出された様だ。


「可哀想に、どんな事情であれ。このままじゃ報われない。キチンと埋葬してあげよう」


と首筋に手を当てると、まだ脈が微かに触れた。慌てて魔力をたっぷり集めて「ハイヒール」と唱えた。すると、「ゴボッ」と黒っぽい血を吐き出した。

もう一度手にたっぷり魔力を集めて「ハイヒール」を゙唱えると、規則正しい知識呼吸が始まった。

俺はホッとしてへたり込んでしまった。

そして移動しようとしたその時に獣人族の少女は目を醒ました。


「ここどこ、お姉ちゃんは?あなた誰?

私のお姉ちゃん知らない?お姉ちゃん‥‥。」


「俺はサミュエル。旅人だ。草叢くさむらで君を見つけて治癒魔法をかけたんだ。君を見付けたときはお姉ちゃんは居なくなってた」


「お姉ちゃん。……ふえ〜ぇ〜〜〜ん。お姉ちゃん居なくなっちゃった。ふえ〜〜ん」


獣人族の少女は、そのまま泣き続けている。


「お腹空いたろ。ちょっと待ってて」


と言ってアイテムボックスから木の実とベリーを出して獣人族の少女サニーに渡す。

そして小枝を集めて、ファイヤと唱えて火を付ける。そして、前に仕留めたホーンラビットを草叢でウィンドカッターで首を落とし血抜きする。そして皮を無理やり剥いでウィンドカッターで真っ二つにして内蔵を取り除く。

それを持って行き、火にかざす。

表と裏をじっくり焼いているとようやくサニーは泣き止んで、木の実とベリーを食べていた。

目はこちらに釘付けで、そして良い焼色がついたホーンラビットの半身をサニーに渡した。

俺も半身にかじり付く、久々の肉は味付けが無くても美味しかった。

サニーも半身を食べきった。そして、


「どうして奴隷なんかになったんだい」


「お父さんが亡くなって、お金が無くなったからお母さんとお兄ちゃんに言われて売られたの」


「君の名前を聞いていなかったね。お名前は?」


「私の名前はサニー」


「サニーこれからどうする?」


「お姉ちゃんに会いたいけど、お姉ちゃん奴隷で売られちゃうから会えないよね」


「そうだね。家族から売られたのだから。買い戻さない限り無理だね」


「サミュエル。一緒にいて良い?」


「良いよ。一緒に旅をしよう」


「うん。サミュエルは何歳?」


「俺は10歳。サニーは何歳?」


「私は、9歳」


「じゃあ、俺がお兄ちゃんだ。これから宜しくサニー」


「私からも宜しくね」


こうして、街までの同行者が出来た。

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