24話 先生、わたくしのお願いを聞いてくださらない?
家令が部屋を去った。
わたくしのお腹からは血が流れている。ここでナイフを抜けば血が溢れてしまう。
死んでもいいかな……なんて思ったけどここで死ぬわけにはいかない。お母様の墓参りに行きたい。お母様のそばで死にたい。
ひとつくらい我儘を言ってもいいわよね?
痛みを堪えてフラフラとしながら立ち上がった。そしてまた庭園へと向かう。
「ヨゼフ……」
「お嬢様……どうしました?」
わたくしがまた現れたので驚いて振り返ったヨゼフにお願いをした。
「わたくしのかかりつけの先生のところに連れていって欲しいの」
「サ、サイロを呼びましょう」
「ダメ!サイロもウエラも呼ばないで。歩けるから馬車を出して!使用人用の馬車ならすぐ出せるでしょう?」
不思議なものね。痛みはひどいのに今倒れたくないと思ったらなんとかなるものなのね。
ヨゼフは急いでわたくしを抱き抱えると先生のところへ連れていってくれた。
「先生、先生、先生!早く!お嬢様を助けて!先生!先生!先生!」
「うるさいな!誰だ?」
まだ早い時間に先生の屋敷を訪ねると使用人が先生を呼んで来てくれた。
そしてわたくしの姿を見て
「なにぐずぐずしてるんだ!早く診察室に連れていけ!」
そう言うと使用人達が慌ててわたくしを抱き抱えて運んでくれた。
「ナイフが刺さったままか……よく耐えたな。すぐに処置を始める」
ナイフを抜き止血をした後薬で処置をして縫合をしてもらった。
「しばらくは入院してもらう。ここにヨゼフと来たと言うことは誰にも知られたくないのだろう?」
「ええ……わたくし…今日屋敷を出てお母様のところへ行くつもりだったの。その前にお母様との思い出のモノを家令から貰おうとして……言い合いになって……刺されたの」
「家令が?あいつは常にブロア様に対して目の敵にして横柄な態度をとっていたがまさかそこまでするとわ」
「わたくしも何かあれば大きな声を出すつもりで扉も開けていたの。でも不意打ちだったわ……それにこの体もうそろそろ動きが悪くなってきたみたい」
ーー悔しい。思うように動けなくなる体、死ぬ前にこの国を出たい。気持ちだけは焦っていた。
「今は麻酔が効いているから痛みはない。だがしばらくは安静にしないといけない。それじゃなくても体が弱っているんだ。この国を出たいんならしばらく落ち着いてからだ」
わたくしは先生の腕を掴んだ。
「今日旅立ちたいの。サイロ達に知られる前に。わたくしの行き先はお母様の故郷でもお墓の場所でもない。お願い、先生、わたくしに痛み止めをたくさんくださらない?そこにいってしまえば大人しく死ぬから、ねっ?先生お願い」
「死ぬのを易々と見過ごすわけにはいかない。無理だ」
青い顔をしてわたしに尋ねた。
「お嬢様……死ぬとはどう言うことですか?」
ヨゼフが驚いていた。
「ごめんなさい、ヨゼフを巻き込んでしまったわね」
「お嬢様のためなら構いません。ただ……信じられない……なんでお嬢様だけが辛い思いをするんじゃ」ヨゼフは涙を溜めた。
いつも仏頂面で怖いイメージがあるヨゼフ。だけど本当は誰よりも優しい人。
ーー悲しませてごめんなさい。巻き込んでしまってごめんなさい。
サイロとウエラを巻き込まないためだと思う一心でヨゼフを巻き込んだ。
わたくしは結局人を巻き込んでしまって迷惑をかけてしまった。
「ヨゼフ……今日のことは全て忘れて欲しい。誰にも言わないでちょうだい、お願い」
「先生、お嬢様が死ぬとはどう言うことです?」
「ヨゼフ、もうなにも聞かないで屋敷へ帰って、そして忘れなさい。これは命令よ」
しかしヨゼフは帰ろうとしない。
先生が諦めてヨゼフにかいつまんで話をした。
「お嬢様、一人で移動は無理です。老い先短いわたしならなんの犠牲にもなりません。わたしにお伴させてはもらえませんか?」
「駄目、わたくしの今の話に同情しなくていいの」
ーーこれはわたくしの我儘だから…誰も犠牲にならないで。
「お嬢様、健康でもお一人での移動は大変なのに、その病気と怪我、無理ですよ。目的地に着く前に死んでしまいます」
先生が大きな溜息をついた。
「ここまできたら仕方がない。わたしも付き合いますよ」
先生が優しく微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます