12話  殿下、許しませんわ。

『サイロはわたくしの護衛よ?わたくしを守るためにいつもいてくれるわ。どうしてそんな彼がロザンナ様のドレスに触れられるの?それに彼女のお屋敷にサイロが行くわけがないでしょう?』


『ロザンナはもうこの王宮に住んでいるんだ。そのことは父上もご存知だ』


『………そう、わたくしだけが知らない話なのね?』

 ーーロザンナ様がこの王宮に住んでいる……だったら婚約解消もそろそろかしら?


『君との婚約はもうすぐ破棄される。そしてロザンナが王太子妃として僕の横に並ぶ。ブロア、君は僕の側妃としてこれからは僕のために生きてもらう。それが君が今回王太子妃となるロザンナに対しての償いだ』


『何を仰っているのかわたくしには理解が出来ませんわ。わたくしは何もしておりません』


 ーーなんの証拠もないのにわたくしに罪を着せようとしているの?ふざけないで!


 わたくしが言い返そうとした時……


『ロザンナにワインをかけたりドレスを切ったりしただろう?護衛騎士を捕らえ処刑することもできるのを妥協して君が側妃になることで手を打ってやるんだ。君に拒否権はない』


『サイロが何をしたというの?処刑?証拠なんてどこにもないのに!殿下、おふざけはいい加減にしてください』


『証拠?もちろんあるよ。君が護衛騎士に命令したとうちの文官が聞いている。それに護衛騎士がロザンナの部屋の当たりを歩いているのも目撃されているんだ』


『サイロ、こちらにきて!』


 サイロを大きな声で呼んだ。サイロはわたくし達の話を聞いていた。そして……


『お嬢様、わたしは何もしておりません。殿下の言われているお方の部屋と言われてもどこの場所かも存知上げません』


『殿下、本人がそう言っているのよ?』


『犯罪者が素直にやりましたなんて言うわけがないだろ?こちらは証人がたくさんいるんだ。今すぐにお前を捕まえて処刑してもいいんだよ?』


『はっ、お嬢様を一生こき使うためにこんな小細工をして脅すなんて……この国ももう終わりですね、こんな人がいずれ国王になるなんて』


『やはりお前は殺しておくしかないな、よくも僕に向かってそんな言葉が言えるな!』


『おやめください!殿下その証人達をここに連れてきてください』


『なぜ必要なんだ?』


『質問が幾つかございます』


『必要ない。君の罪は確定したんだからな』


『……裁判にかけていただきます』


『不問にしてやると言ったのに?護衛騎士が処刑されてもいいのか?』


『されませんわ。だってわたくしは何もしておりませんもの』


『ロザンナにワインをかけただろう?たくさんの人が見ている』


『ええ、そうですわね。わたくしを押した人の顔もみなさん見ているはずですわね。その人が誰か知らないとでも?』


 わたくしのその言葉を聞いた瞬間、一瞬青い顔をして目を逸らした。


『きちんと取り調べをしてもらい裁判を行いましょう。法の元なら王族とか公爵令嬢とか関係なく正義のもと正しく裁いてもらえますわ。わたくしも今までの証拠を全て出させていただきますので』


 ーーわたくしに危害を与えないで婚約解消をしてくれるならわたくしから動くことはしないのに。


『証拠?』

 驚き、目を開き、そしてわたくしを睨みつけた。


『ええ、あの時はわたくしも動揺しましたが、何かあったらいけないからと思い証拠を集めました。わたくしを押した人は、夜会で給仕をしていた人で殿下の友人の方なのですね?まさか伯爵家の子息が給仕の真似事をされているなんて思ってもいませんでしたわ』


 にこりと微笑んだ。


『サイロがわたくしの命令でロザンナ様のドレスを切ったと申しましたが、ご存知ですわよね?

 ふふ、もうお忘れになっているみたいですわね?わたくしは貴方の婚約者。婚約者であるわたくしには常に影がついておりますの。わたくしの行動全てにおいて監視されていますのよ?』


 殿下は思い出したように顔を引き攣らせた。


『お前は悪女だな、全てをわかっているのにその態度とは』

 ーー開き直っている貴方の方がおかしいのでは?


『知っている訳ではありません。影に全てを聞く事は出来ませんもの。ただ、王太子妃候補として危険が及ぶかもしれないことに対しては、聞く権利を持っているのでその権利を使わせていただいただけですわ。

 わたくしを押したのは誰かを。

 殿下がどんな意図でわたくしを嵌めようとしているのか少しだけ想像しただけ………殿下、わたくしに対して醜聞を流すのは特になんとも思いませんでした。

 ですがわたくしの大切な護衛騎士であるサイロに手を出すのなら許しませんわ』





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