転生魔王のダンジョン生活。〜最強配下とほのぼの過ごしていたら、厄災のダンジョンと呼ばれるようになっていた件〜
手毬めあ
第1話
地元の大学を卒業して都内の企業に就職した。
子供の頃からずっと地元にいたので出て行きたい気持ちもあったが、何より『都内で働く男って響きが格好いいな』とか考えていた。
――しかし、現実はそう上手くはいかない。
毎朝満員電車に押し潰され、やっとの思いで辿り着いた職場も仕事が山積み。年齢が上がって多くの仕事を任されるようになった。無論、残業しないと終わらない。エナドリとコーヒーをがぶ飲みして命を削りながら仕事する毎日。
家に帰れるのも夜の遅い時間だ。
最近では休みの日も睡眠に費やしてしまって趣味のゲームすらできていない。
時々何のために生きているのだろうと自問するようになった。
別に地元に就職したら楽に生きていけると思ったことはない。ただ、現在とは違う道もあったのではないかと。
「もうこんな時間か」
すっかり目覚ましアラーム専用になったスマホを枕元に置く。
何だか最近は疲れてしまった。
地元でのんびりとした時間を過ごしたい。
脳裏に故郷の情景を浮かべながら、明日のためにも目を閉じた。
◇◇
目が覚めると、自室ではないことに気付いた。
そこは無機質な空間だった。四方は灰色の壁に囲まれている。広さはそれなりに確保されており……出口もあった。密室ってわけじゃなさそうだ。
どうなってるんだ?
立ち上がって身体を動かしてみる。三十年以上連れ添った肉体だ。頭で思った通りにちゃんと動いてくれた。
身体に異常はない。
異常なのは、現在の状況だけだった。
服は会社から帰ってそのままだ。白のYシャツと黒のスラックス。昨日は疲れてしまったので帰宅してすぐに寝てしまった。
誘拐にしては大掛かりすぎるだろう。もしそうだとしたら、犯人は部屋に侵入する道具や軟禁しておくための部屋まで用意している。ここまでして独身男性を誘拐するメリットはない。それに見張が一人もいないというのもおかしい。
考えれば考えるほど分からなくなる。
とりあえず現状を把握するため、この無異質な部屋を確認することにした。
「――なんだこれ」
すると部屋の中で奇妙な物質を見つけた。
淡く輝く球体だ。灰色の壁と同じ素材であろう台座にすっぽりと収まっている。
「宝石……じゃない。硝子なのかな?」
何の気なしに球体に手を置いた。
次の瞬間。
頭が割れるように痛んだ。立っていられないほどの激痛が波のように押し寄せてくる。俺の絶叫が部屋中に響き渡った。
何が起こっているか分からない。
ただ蹲って激痛に耐える他なかった。
そうして暫く経過すると痛みは収まった。
痛みと引き換えに手にしたものは――ダンジョンに関する情報だった。
「……うわ。ほんとに表示された」
球体――ダンジョンコアに触れたことによって得た情報の中には、自身のステータスを表示させる方法も含まれていた。
透明なウィンドウが視界の中に現れる。
名前:undefined
種族:魔人
レベル:1
HP:30/30
MP:15/15
称号:異界の迷宮主
DP:3000
諸々のステータスが低すぎることはさておき。
どうやら俺は……異世界でダンジョンマスターになったらしい。
◇◇
現状を一言で表すなら『異世界転生』が最もしっくりくるだろう。
あの球体はダンジョンコアと呼ばれるものだ。
ダンジョンの核となる物質で、コアが破壊されるとダンジョンもろとも俺は命を落とす。外付けの心臓だと考えていい。
あそこから俺は生まれたようだ。
正確には身体を組み替えて召喚された、という表現が合っているかもしれない。
このダンジョンは今から数百年前に作られた。
人間嫌いの初代マスターが創造したようだが……ダンジョンを作ったと同時に彼は亡くなってしまった。加えて、このダンジョンがある場所と入口の分かりづらさも相まって誰にも踏破されずに数百年が経ったらしい。
そんな一見無害そうなダンジョンだが、一定期間が経過すると勝手にダンジョンマスターを呼び出す術式がダンジョンコアに組み込まれていた。期間内に死んでいてかつ適正のある者を召喚する術式。
厄介なことに巻き込まれてしまった形だ。
今までにマスターが召喚されたことはなく、俺が初めてのケースのようだった。
「はあー……」
というか、既に俺は死んでるってことなのか。
マスターの召喚権は死者のみの設定になっているみたいだし……。こんな形で自分の死を知るのはどうにも微妙な気分だ。
「…………」
――ただ、ダンジョンマスターになってしまったとはいえ二度目の人生であることに違いはない。見方を変えれば、あのまま二度と目覚めることが無かった俺をダンジョンコアが引き上げてくれたと言えなくもなかった。
「まあ……せっかく拾ってもらった命だ。有難く使わせてもらおうかな」
前世ではできなかったのんびり過ごすこと。
快適な暮らしを送るためにも、まずはダンジョンの仕組みを確認することにした。
「ウィンドウは……っと開いた」
視界に透明な表示が開く。
◇
◇
◇
ダンジョンマスターの役割は、侵入者からダンジョンコアを守ること。
主にこの三つを駆使してダンジョンを強化し、コアを護衛してねってわけだ。
スクロールすると『配下』タブを見つけた。
このダンジョンには三名の配下がいる。
ダンジョンマスターに仕えて、共にコアを守らんとする部下のようなものだ。
表示させようとすると『管理者権限:配下のステータスを表示しますか?』とメッセージが出たので『はい』を選択する。
「え……」
◇メルセデス レベル:75
◇フィオラ レベル:75
◇嵌合蟲 レベル:100
レベルたかっ……!?
この世界のレベルは強さに直結する。
数字だけでも俺の75倍。嵌合蟲とやらにいたっては100倍だ。ステータスで比べようものなら数百倍は違うのかもしれない。気になる。
震える手で配下のステータスを表示させようとすると――
「おお、やはり召喚されているな。……人間、いや魔力の感じからして魔人か」
「フィオラ。口を慎みなさい」
「うっさい。儂に命令するでないわ」
突然、部屋の入口から男女の声音が聞こえた。
慌てて振り返ると、銀髪の可愛らしい少女と黒髪の美男子がこちらに向かって、ゆっくり歩を進めてくるところだった。
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