第40話 見どころがある子はなるべく拾ってあげてね

夏休みまで暇なので、まあ、適当に通学している。


スマホにランクアップポーションぶっかけたら、次元を超えて通話できるようになったので、セシルに一台預けてやった。


すると、預けたスマホを完全に使いこなし、shindoru(電子書籍)を買いまくっているようだった。


最近は、LAINというメッセージアプリから死ぬほど感想が飛んでくる。


授業中の今もほら……。


《セシル》

《装殻機動隊という映像作品を見たのだが》


などと、書き込みを入れてくる。


《理玖》

《まー、あれは名作ですわ。一期?》


俺も俺で、退屈な授業を受けるくらいならと返信をする。


《セシル》

《ああ。良いか?これは、科学を基点としながら、意識や肉体を科学による機械に置き換えた場合、人間の定義とは何か、と言う哲学的な問いかけをも内包する非常に高度で文学的な作品だ。また、自立機械の魂、心の所在などについても触れられており……、ああ、あの終盤のシーンの歩行戦車達の、自己の意志を持った動きは今思い出しても涙が……。それに、高度に発達し結果的に画一化されてしまいつつある世界……、スタンドアローンコンプレックスにおいて、それを打破する糸口が好奇心で、その好奇心を誰よりも持っていた登場キャラクターがあの歩行戦車達というのは皮肉だが実に考えさせられる話だ。それと、私もコンピュータについてある程度学び、簡単な統計処理プログラム程度なら組めるようになったのだが、この笑い男という存在は凄まじいな。この世界の人間の全てが電脳化……、機械と一体化した存在であるとすれば、顔認識機能を麻痺させるだけでなく、個々人の脳機能、認識力さえも操作できるのだから。個々人の脳機能は、いかに電脳化されているとはいえ、かなりの個人差があるはずだ。その個人差さえも把握した上での電脳クラッキングとは、なんという凄まじい腕前のハッカーなのだろうかと感嘆したものだ》


クソッ……、長文感想を遠慮なく送ってきやがる。


《理玖》

《SFなら『一九八四年』とかおすすめだぞ。あとは『星を継ぐもの』『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』辺りは名作だから目を通しておくと良い。それと個人的には『虎よ!虎よ!』とかが好きだな》


《セシル》

《『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』は読んだな。映画の方も見た。『ブレイドランナー』だったか?非常に興味深い内容だった》


ってか、SFにどハマりするエルフってどうなの?


ファンタジーの人でしょ君。


まああっちじゃドラゴンには絶対関わっちゃならないらしいし、実質的にシャドウをランしてることになる、か?


……とは言え、俺がこっちの世界でやりたいことは特にないんだよな。


友人キャラである勘次は、プロゲーマー目指して毎日練習してるみたいだし、瑠衣は……、あれは男とカウントできない例外な感じだし。


女の子とデートするのも楽しいのだが、男同士でバカやるのも楽しいもんだ。


セシルはああ見えて、割とノリノリで馬鹿やってくれるから好感が持てるぞ。


うっし、週末だし、異世界に行くか……。




現在、俺とセシルは、キマリシア王国の王領に、国賓扱いで間借りしている。


街のジオラマができるまで、しばらくここで活動をしているのだが……。


最近、変なおっさんが来るのだ。


ポーション屋の屋台をやっている俺達の前に、いつも来る。


ほら、今日も……。


「よう、黒いの!また会ったな!」


燻んだ……、燻み過ぎて金とは言えないような金髪を編み込んで耳にかけ、髭も同じく編み込んでいる大男。


ギラギラと輝くギョロ目に、筋肉だけでなく脂肪も程よく乗ったプロレスラーのような体型をした、ヴァイキング風の男。


名を、『シドニア・パライゾ』……。


種族は、本人が言うところの雑種。


職業は、本人が言うところの学者。


俺が見る限りでは、謎の男だった。


《シドニア・パライゾ

二百二十歳 男性

Lv52


HP2570

MP850


筋力:255

魔力:45

耐久:312

敏捷:100

器用:354

知能:256

運勢:31


スキル

《生活魔法》《鎚術》《斧術》《盾術》《審美眼》《鍛治》《工作》《木工》《建築》《鑑定》


エクストラスキル

《鍛治魔法》》


「お前が会いに来たんだよなあ」


俺は適当に返答する。


だってこいつ、しつこいんだもん。


「さあ!今日も聞かせてくれ!『カガク』の話を!」


って毎回だよ?


金はかなりくれるけど、良い加減、めんどくさくなってきた。


「ほら、これで勘弁してくれ」


と、俺は、『地球語スキルポーション』と地球の科学入門書を渡した。


「ふむ……、なるほど」


すると、シドニアは、ポーションを飲んでから本を読む。


そして、口を開いた。


「……お前、『彼方の稀人』だろう?」


ほーん?


「それが、『転移者』って意味ならそうだ」


隠すことでもない、俺はそう答えた。


「……フフフ、ワハハハハ!!!見つけたぞ、稀人!!!」


ふむ?


「我がパライゾ一族の蔵書にな、あったのだ」


「何がだ?」


「彼方の稀人が残せし遺産、文書がな。それには、『カガク』と呼ばれる秘術について記されていた……」


ふーん?


「幼い頃から疑問だったものだ。皆、真理を追い求めない。何故風が吹くのか?どうして昼と夜が入れ替わるのか?知ろうとも、考えようともせず、『神の思し召しである』と……」


なるほどね、学者と名乗るだけはある。


「俺はそれが許せんのだ!確かに、日々、糊口を凌ぐことで精一杯の貧民もいるであろう!だが!『学がある』と自称する者達は何故、真理へと手を伸ばさんのだ?!!!」


「そりゃそうだろ。科学的発見ってのは、大半がすぐには金にならんからな」


「そうだ、『カガク』は金にならん!だが、どんな分野においても、様々な知見を積み重ねることにより発展してきたではないか!魔法も、神学もだ!何故、『カガク』ではそれをやらんのだ?!!」


「一から科学を積み上げるよりも、すでに積み上がっている魔法などから上前をはねた方が儲かるからじゃねえの?」


「ああ、そうだ!げに恐ろしきは人の欲望よ!」


まあ、そんな感じなのね。


その言葉は正しいんじゃない?


しばらく過ごしたけど、異世界は地球と物理法則が同じだし。


地球から持ってきた計器や時計なども正常に稼働するのを確認できている。


地平線とかも見れば、ここが星であることは理解できるはずだ。


少なくとも、中世の坊主どもが言っていたような、大きな亀が支えている平面世界などではない。


だから、言ってしまえば、技術さえあれば地球と同じく発展するはず……。


だが、そうならずに内ゲバ祭りなのは何故なのか?


セシルが言うには『教育レベルの差』とのことだが……。


要するに、世界に一人だけ天才がいても無意味で、社会の人々の平均学力が高くないと社会は発展しない、と。


政治体系の話じゃないんだよな。そもそも、国民一人一人が考える知能と学力があれば、その分だけの権利を主張するし、そうなれば政治体系なんていくらでも変わっていくはず。


なるほど、なるほど……。


「で?結局アンタはどうしたいんだよ?」


俺は結論を聞いた。


「俺は『カガク』をこの世に広めたい。力を貸して欲しい」


ふーん?


まあ、良いんじゃないの?

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