第22話 下界には干渉できないんだよなー、しかも地球は管轄外だし……

さて、ホームルーム。


俺は、量子物性物理学のお嬢ちゃんを膝の上に乗せて撫でながら、ホームルームに参加する。


周りの生徒達は、それを、変なものを見る目で見てくるが、俺はスルースキルが高いので。


おっと……?


「理玖君!」


あ、先日の男の娘。


同じクラスだったのか。


確か名前は……。


「瑠衣か。それと彼女さんも」


「同じクラスとは驚きだね!で、その子誰?」


と、俺の膝の上に座らせられているお嬢ちゃんを指差す。


「あ?あー……、知らん」


「……知らない人とあんなに議論してたの?」


「稀によくある」




「ええと、まずは自己紹介からで良いですか?」


巨乳の、垂れ目がちなおっとりとした雰囲気の女教師が、元気よく言った。


そのテンションは、どちらかと言えば保育園とかじゃねえかな?と思いつつ、話を聞く。


「まず、私から自己紹介しますね。私は『里川美幸(さとかわみゆき)』です。教師になって一年目の新人で、担当教科は現代文。趣味は読書で、好きな本は川端康成の『雪国』です!よろしくお願いします!」


ほー、お手本のような女教師だな。


「へえ、良いね。俺は司馬遼太郎の『国盗り物語』が好きだよ」


俺が一言返す。


「司馬遼太郎ですか?男の子は歴史物とか好きですよね!」


笑顔でそう言う女教師……、美幸だが……。


「いやそりゃ、『瘋癲老人日記』とか『鍵』とか言ったらドン引きでしょ。表向きにはみんな誰しも無難なことを言うんじゃない?」


あ、瘋癲老人日記と鍵ってのは、一言で言えば変態小説だな。


「ひゃっ?!そ、それはそうですね!」


俺のセクハラを受けて驚いた美幸は、一瞬ドン引きの表情を見せる。良いねえ、こう言う無駄に凝ったセクハラをして、それがセクハラだと理解できる人は。


因みに、クラスメイトは誰一人として、俺の台詞を理解していないようだった。


ん……、いや、違うな。


あの子は理解してるっぽいな。


あの、顔色が悪い黒髪ロングの女の子は。


顔を真っ赤にしてる。顔色悪いのに。


「ねーねー、何の話?急に知能高い話しないでよー!僕が分かんないじゃん!」


と、男の娘の瑠衣が俺の肩を揺らす。


「ん……、ああ、『瘋癲老人日記』ってのは、脚フェチの老人が息子の嫁に宝石を渡す代わりに踏んでもらう話で、『鍵』ってのは、変態大学教授が嫁を男に寝取らせてそれを日記に書くって話だよ」


「うへー、変態だねぇ……」


お前も大概変態だと思うんだがな。


だってお前、その制服は女子のだろ。


「まあ、知ってるってことは、あの美幸とか言う女教師は読んでるってことだな。とんだ淫乱女だぜ!」


俺が大きめの声で言ってやる。すると……。


「ちっ、違っ……、そ、その、学術的興味ですっ!!!」


美幸は、あたふたとしながらそれを否定したが、そうやって必死になって否定するその様子は、むしろ怪しさを増していた。


可愛いなーこの女。


教師になって一年目だっけ?教育大学出たとして二十三歳くらい?


俺は今、十六歳だから、七歳差か。


……行けるな!




さて、自己紹介だってよ。


まあ、興味がない奴はスルーして、と。


聞いて行こうか、まずは男子。


「俺は、『兵頭勘次(ひょうどうかんじ)』だ。ゲームがめっちゃ得意だぜ!よろしくな!」


こいつ。


この、心の仮面を召喚するゲームで一番最初に仲間になる感じのお調子者な男。


話しかけると攻略対象の好感度とか教えてくれそうなエロゲの親友キャラみたいな男。


こいつが、俺の友人の勘次だ。


勉強は中の下、スポーツは中の上、ルックスは中の中。


どこにでもいる普通の男だが、ゲームの才能だけは天元突破しており、特にFPSの腕前はプロ並みだそうだ。


人当たりは良いし要領もいいから、人生であんまり苦労しなさそうだな。


「僕は『大神勇(おおがみゆう)』だよ。中学の頃はサッカー部の主将だったんだ。よろしくね」


鏡の前で何時間もセットしたのであろう、なんか良くわからんイマドキの髪型の男。


こいつは知らん奴だ。


「俺は『勝俣剛(かつまたたけし)』だ!ラグビーやってるぜ!よろしく!」


俺ほどではないが、そこそこにデカいボウズ頭の男。


ボウズの頭には薄く毛が生えており、そこにラインを引くように完全に毛を剃っている部分がある感じ。良くわからんけどアレはオシャレなの?


知らん人だ、俺と中学は別だろう。


「あ、俺は『影山歩(かげやまあゆむ)』です。えと、よろしく……」


陰キャ。


「俺は『奥居大河(おくいたいが)』だ。実家は剣道をやっている」


短髪の人相が悪い男。


「俺は『芦田龍太(あしだりゅうた)』だ」


不良。


そして。


「僕の名前は『御白瑠衣(みしろるい)』でーす!趣味はコスプレでー、好きなものは甘いもの!ユウチューバーやってまーす!」


と、瑠衣が言った。


「あ、あれ?瑠衣君は、その、男の子……、ですよね?!」


美幸が目を白黒とさせる。


瑠衣は、骨格も男とは思えないくらいに華奢で、完全に女にしか見えない。


肩周りなど、身体を触れば分かる奴は分かるが、男っぽく見える部分は服で巧妙に隠してある。


「はい、男の娘ですよ?」


瑠衣は、美幸にウインクしながらそう言った。一々、女として様になっているな。


「え、ええと、その……、性同一障害とか……」


「んーん?趣味だよ!」


「は、はあ……、趣味、ですか……」


「女装はダメみたいな校則とかないでしょ?」


「それはそうですけど……」


困惑する美幸を他所に、クラスメイト達は。


「嘘だろ?!アレが男?!」


「スッゲェ好みのタイプなのに!」


「男でも……、良いかな!!!」


と困惑している様子。


っと、俺の番か。


「俺は薬研理玖。見ての通り中東系とのハーフだ。趣味は旅行で、好きなものは美女。好物は『きす』だ」


俺がそう言うと、気取りやがって!と言わんばかりの視線が男子から注がれ、逆に女子はきゃあきゃあと喚き始めた。


「唇を合わせる方のキスも好きだが、飲む方のきすも大好物でね」


と、俺が言うと……。


「飲む方の……?ってことは、お酒じゃないですか!いけませんよ!」


と美幸が指摘してきた。


そう、『きす』とは、酒を指す古い言葉だ。洋酒を洋きすとか言う感じ。


「さて、何のことやら?」


俺は惚けてから、席に座った。

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