第20話 前田慶次かな?

「じ、示談だと?」


「おう。ほら、これでどうだ?」


俺は、デスクに銅貨一枚を乗せる。


「き、さま、は……、俺の部下を何人も再起不能にしておいて、たったの、たったの銅貨一枚で許せと吐かすのか!!!!!」


おーおーおー、お怒りだあ。


だが、間違ってないか?


「じゃあ、徹底抗戦って事で良いのか?」


「ぐっ……!そ、それは……!」


「徹底抗戦の場合、お前はここで俺に殴られる。どれくらい殴られるのかというと、生きているのが不思議なくらいと表現されるほどボコボコに殴られる」


「ひっ……!」


「殴った後は、街のど真ん中で、すべての構成員に土下座させる。そうやって、街の皆さんに迷惑をかけたことを謝ってもらうぞ。あと、ついでにお前が持っている金やらなんやらは俺がもらう」


「そ、そんなことをしたら私は破滅だ!」


「じゃあ、示談か?示談の場合、全構成員に街のど真ん中で土下座させる。そして、俺の指名手配の解除と、金輪際街の人々に迷惑をかけないことを誓わせる。ついでに金は街の人々に募金する」


「ふ、ふざけるな!どの道破滅だろうが!!!」


うーん?


「うん、そうね」


「そうね、じゃない!!!」


はぁー?何言ってんだこいつ?


「あのさぁ……、お前はもう詰んでるんだぞ?チェスで言えばチェックメイトなんだ。お前にできるのはどうやって逃げるかを考えることじゃなくって、どうやって滅ぶかを選ぶことだけだ」


「あ、あああ、うわああああああああっ!!!!!」






「あ、ありゃなんだ?!」


「チンピラが攻めてきたのか?!」


「いや違う……、全員ボロボロだぞ?」


街の真ん中にチンピラを集めて、と。


「「「「「「街の皆さん!今まですいませんでした!!!!」」」」」」


土下座させる。


そして俺が前に出て、と。


「えー、街の皆さん!こちらは、鰐の顎団の連中です!彼らは、これからは心を入れ替えて真面目に暮らすので、どうか許してやってください!」


「「「「お、おう……」」」」


あら、微妙な反応。


ま、そりゃそうだな。


「はいはいはい、分かってますよ、分かってます!いきなりそんなこと言われても困りますよね?ですが、彼らの謝罪の気持ちは真実です!その証拠に、全員がもう二度と悪さができないように、両腕の骨をへし折りました!」


「「「「………………」」」」


あ、ドン引きされてるわこれ。


「それは良いとして、街の皆さんにはプレゼントがあります!」


俺は、マジックポーチから大量の金を出す。


「「「「お、おおお!」」」」


大量の金に目の色を変える人々。


「こちらのお金!鰐の顎団が不正によって溜め込んだ金です!これを、皆さんにお返ししたいと思います!」


「「「「う、うおおおおっ!!!!」」」」


一回やってみたかったんだよね、これ。


昔読んだ漫画の真似。


「さあさあさあさあ!銭撒くぞ!持ってけ泥棒!」


俺は、銀貨を掴んで、街のど真ん中にある演説台から放り投げる!


「ヒャッホー!」「か、金だ!」「拾え拾え!」「うおおおおっ!」「凄えなあ!」「大盤振る舞いだ!」


騒ぎを聞きつけて、どんどん人が集まる。


その中に楽器を持った詩人がいたので、そいつら目掛けて金貨を投げてやる。


「おら!そこの音楽家!景気が良い音楽を一つ頼むぜ!」


「は、はいっ!」


その横で、泣きながら譫言を言うボスの中年。


「ははは、破滅だ!破滅だ!あはははは!」




あんなにあった金がなくなった。


「いやー、募金って良いな!」


他人の金で募金するのって気持ちがいいんだな!


俺は満足して、しみじみと頷いていた。


と、そこに。


「貴様……、見ていたぞ」


「おっ、セシルじゃん」


「盛大にやったな」


「おう!街の人ら、みーんな喜んでたぜ!」


「フッ……、実に愉快な見世物だったぞ」


「そうかい」


俺は、昏倒しているボス中年を叩き起こす。


「おい、どうだった?面白かったか?」


「?」


「財産はなくなったが、くよくよするな!これからは地道にコツコツ働くんだぞ!」


「おじしゃん、だあれー?」


おや?


「……お前は何歳だ?」


「ぼく、ごしゃい!」


うーん、ショック与え過ぎて精神崩壊しちゃったみたいだ。


「そうか!じゃ、これから頑張れよ!じゃあな!」


「おじしゃん、バイバーイ!」




そして、適当な酒場に、セシルと入った。


すると……。


「おおおっ!街の英雄様じゃねーか!」


と歓迎された。


「英雄?」


「そうさ!あの鰐の顎団をぶっ潰した上に、奴らの金をばら撒いた!こんなに爽快なことは久しぶりだぜ!」


「おー、そうかい。そんなに褒められると気分が良くなっちまうな」


「何度でも褒めてやるさ!あの悪党共は昔、俺の親父の店を潰しやがったんだ!ざまあ見ろ、クソ野郎共!」


「そうかそうか」


俺は店のマスターに金貨を渡す。


金貨は一枚で百万円くらいの価値があり、なおかつ、このくらいの店だと高い酒でも一杯五百円くらいだ。


「マスター、この店の連中全員に好きなだけ酒を飲ませてやってくれ」


「おう、良いぜ!テメェらぁ!英雄様の奢りだ!好きなだけ飲め!!!」


「「「「ヒャッホー!!!」」」」


酒場をハシゴ!


朝まで宴会!




「……どこだここ?」


そして道端で目覚める。

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