第11話 不器用すぎる!

 あれから数分が経過した頃、ブラウスは服屋の前にてチュロスを頬張っていた。

 はぐはぐと、甘味の効いたそれを味わいつつ時間が過ぎるのを待っている。


 ここら辺は、あの服屋の店先という事で女性が多い。

 だからチュロスなどの女性人気の高いスイーツが売られていたりするのだ。

 子供連れの女性や、恋人とここへ訪れた女性などがチュロスを美味しそうに齧っているのを見ると、なんだか腹が減ってしまったため一つ注文したのだった。


 それは砂糖をたっぷりと纏ったシンプルな物であったが、シンプルなだけあって素直に美味しい。

 

(美味しいな、また買いに来ようか)


 そんな事を考えつつ、アレシア達を待つ。


「ママー、あの人なんだか変だよー」

「シッ!指を刺しちゃダメです!」


 ブラウスは服にこだわったりしないため、普段から戦闘用ローブを羽織っているため、側から見ると物々しい雰囲気を纏っているのだ。

 だから、幸せそうにチュロスを頬張るその姿に珍奇な目を向けるのは至って普通であった。


「なあ、兄ちゃん。ここへはなんの目的で?」


 そんなこんなでチュロスを頬張っていると、チュロスを販売していた出店のオッサンが話しかけてくる。

 なんだ?と怪訝に思うが一応、答えようと口を開く。


 しかし、こう言う時はなんて説明すればいいのだろうか、と思いとどまる。

 なにせアレシアは外向きは奴隷の様に見えるが、扱いは平民だ。

 説明がとても難しい。

 そして、未来で魔王になるから、幸せにさせてこの世界を救う、なんてこともとてもじゃないが言えない。これは絶対の秘密なのだ。

 だからブラウスはこう言う時にはなんと言えばいいのか困ってしまったのだ。


 暫く考え込んで、とある結論を導き出す。


「──娘の服を買いに来た」


 そう、娘と言えば簡単に説明が付くのだ。

 里子を引き取ったとでも言えば相手は簡単に理解できる事だろう。

 まあ、実際はどうなのかは知らないし、アレシアがブラウスの事をどう思っているのかなんて一ミリも分からないため実際はどうか、と言う事は気にしないでおく。


「へえ、お兄ちゃん若いくせに娘が居るのか」


「ええ、里子でね。とても可愛らしいんだ」


「それは良いな。子供ってのは良いもんだ。実は俺にも娘が居てな、少しだけ兄ちゃんにアドバイスしてやろう」

 

 そう言って鼻を鳴らす男。

 別に頼んでないが、と思ったが聞いて損することではないし聞いておこう、とブラウスは思った。

 

「服を買ったらな、可愛い、とか似合っている、とかじゃなくてちゃんと具体的に説明してやりな」


「?」


「その表情は全く分かっていない表情だな。まあ、いい。今のを言った通りにしてあげるだけで、娘というものはとても喜ぶものだ。おっと、娘さんが来た様だぞ?」


 すると、店からアレシアとハンドラーが出て来た。

 親切?なチュロスのオッサンに別れを告げ、そちらへ近づく。


「ご主人様……わ、わたし、似合っていますか?」


 そこには息を呑むほど美しい少女が立っていた。

 純白のワンピースに、漆黒と紅赤のフリルや装飾をあしらった服を身に纏う姿は、ただただ美しいの一言に尽きた。

 漆黒の髪に、ところどころ混じった紅赤の一筋を象徴するように美しく飾られたその服は、アレシアを美麗に仕立てていた。

 

 頬を紅く染め、どこか照れるような表情を浮かべるその少女は、まるで絵画から出てきた人形の様であった。

 

 断言できる。

 生まれてから死ぬまで、アレシアよりも美しい物を見ることは無いだろう。

 そう言えてしまうくらいには、とてもとても美しく儚く、魔力に満ちた姿だった。


「綺麗だな」


 本当に、ただその言葉に尽きる。

 だが、その時、はっと思い出す。

 あのチュロスのおっさんが言っていたのだ、褒めるなら具体的に、と。


「そ、その……特にアレシアが綺麗だ」


「……ッッッ!?」


 不器用なブラウスでは、そんな言葉が精一杯だった。

 しかし、そんな不器用に紡ぎ出した言葉を聞いたアレシアはさらに頬を紅潮させ、下に俯いた。


「はあ、それは……ナシだよブラウス君」


 やれやれと呆れるノル。

 まあ、その表情はどこか嬉しそうだったが。




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【あとがき】

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