第9話 壊滅的にそう言うのがわからない

 ブラウスという人間はあまり女心というものを知らない。

 勇者という役職に就き、その存在そのものが公的な物であるがゆえに恋愛だとか異性への意識だとかを抱くことは禁止されてきた。

 また、前世でもまた多忙により女性関係を持つ事ができなかった。いわゆる彼女いない歴=リアルガチ年齢というヤツだ。


 だから、彼は女性が何を考えているのかなんてさっぱり知らない。

 アレシアは子供といえど一人の女性だ。

 着る服や人間関係というものに敏感な年頃の女の子だろう。

 しかしながら、彼はそう言ったものが壊滅的に理解できないのだ。

 

「はぁ、まあ、分かっていたさ。ブラウス君がそういうのをよく知らないという事はね」


 そんな事を真顔で説明されたノルは、溜息を吐いた。


「すいませんね、女心というものがよく分からなくて」


「全く……まあ、仕方がないといえば仕方ないけどな」


 なにせ、ブラウスは幼少期に勇者としての素質を見出され、軍に無理やり連れ出されたのだ。

 そしてありとあらゆる物を犠牲にして修行し、強さを手に入れたというのが彼の来歴だ。

 女心を理解できないと言うのも仕方がないといえば仕方がないだろう。

 

「だけどなぁ……少しはそう言うのを気にする年頃だってあるはずなんだけどな」


「……」


 転生した時には精神年齢は30歳を超えていた。

 思春期を体験するにはあまりにも精神年齢的に成熟していたため、そこいらのガキとは違う生育の仕方をしたとは決して言えない。

 まあ、確かに転生前の遥か昔の記憶では隣の席の女の子にドキドキしたなんて事もあったが、今では遠い昔の記憶。

 女子が何をもらって喜ぶのか、なんて全く分かりましぇーん、というのが正直な感想である。

 

「まあ、仕方がないからこの私が直々にブラウス君に変わってアレシアの服を選んであげよう。実は私、ファッションとかにも詳しいからな」


 ふふん、と鼻を鳴らし胸を張るハンドラー。その様にそこはかとない不安を覚えたが、根拠のないものだったので胸の奥にしまっておく事にする。


「ありがとうございます、ハンドラー」


「ふふふ、感謝したまえ」


 それからブラウスとノルは、今後のアレシアの事についていくつか話し合った。


 一つはアレシアの莫大な魔力をどう隠すか。なにせ彼女の魔力は鑑定を行える者が見れば一発で、とは言わずともすぐにそのヤバさがわかってしまう。変に目立つのはあまりよろしくないため、その魔力量を隠せる魔道具でも装備させようと言う事になった。


 そして二つ目は、アレシアの事は上層部に隠すか否かについてだ。言わずもがなアレシアは魔王の器だ。変に上に報告して軍事利用されてしまい、闇堕ちルートに走るなんてこともありかねない。よってこちらもまた、今はアレシアの存在は秘匿とする事になった。


 以上の事を話し合い、ノルは魔道具を準備するために帰っていった。




「これはなんでしょうか?」


 首を傾げながらブラウスの手によってその首にネックレスのようなものを掛けられるアレシア。それはノルから渡された魔力量を隠蔽する魔道具であった。

 ぱちぱちと目を瞬きさせており、とても不思議そうな顔をしている。


「あー、これはアレシアの正体を隠す魔道具だ」


「正体を隠す?」


 おっと、マズった。

 今のブラウスの説明でアレシアは納得出来なかったようだ。ここは変に隠すよりもちゃんと伝えた方がいいと判断する。


「実はな、アレシアの魔力量はとても多いんだ」


「そうなのですか?」


「そう、それはそれはとても多くてな。俺を超えるくらい多い」


 実際には5倍くらいだろう。


「え?ご主人様より?」


「ああ、そうだ。お前の魔力量は実は俺よりも多くてな。だから、あんまり魔力の多いお前を見た人はびっくりするだろう?」


 すると、今までキョトンとした表情が、あっ、と何かに思い当たったかのように変化した。

 きっと奴隷時代にも度々そう言った目で見られた事があったのだろう。あの奴隷商人は気づかなかったようだが、稀にアレシアの魔力量に気づく者がいて、恐怖と驚愕にその顔を染まらせていただろうな。

 そう言った者にアレシアは思い当たったのかもしれない。



「その……ごめんなさい」



 しょんぼりとし、謝るアレシア。

 主人より魔力量が多いと言う事はまずい事だと思ったからだ。



「いや、お前が謝る事じゃないぞ?それはお前自身の才能だ。誇るべき事だぞ」



「そう、ですか?じゃあ、私も魔法を頑張ってご主人様を守れるようになれますか?」



「……ああ、そのうちな。さて、付け終わったぞ。行くか」


 そんな未来が来たらいいかもな。

 ブラウスは少し間を空けて答えた。


 そんなこんなで話していると、いつの間にかネックレスもつけ終わっていた。

 キラキラと輝く紅色の宝石をあしらった魔道具だが、アレシアにとても似合っていた。

 似合っているぞとアレシアに伝えると、アレシアはとても嬉しそうにした。


 そんなアレシアの手を引き、ブラウスは玄関から出る。


「服を買いに行こうか」






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