【急募】奴隷を拾ったら前世での魔王だったけど、どうしたらいいですか?

絶対一般厳守マン

第1話 奴隷を拾ったら魔王だった件

「・・・・・・また死んだか」


 勇者ブラウス・レーベレアは目を覚ます。

 そこにはいつもの天井があった。


「これで死ぬのも5回目か。だんだん感覚が麻痺してきたな」


 死んだ目をしながらそう言った。

 

 彼──勇者ブラウス・レーベレアは転生者である。

 この世界に勇者として生まれて、本日18歳の誕生日を迎えた若造だ。

 

 前の人生では社畜だった。

 上司からはタイムカードを切って残業することを強いられ、週60時間を超える労働など当たり前だった。

 毎日毎日、仕事の少しのミスで上司に怒鳴られ、罵倒され、今でこそ冷静なブラウスであるが、当時は精神的に病んでいたのだろう。

 誰に相談することもなく、ただただ毎日が過ぎ去ることを祈っていた。

 

 とまあ、そんな人生を送っていた彼であったが、過労によりアッサリと死んだ。

 当たり前である。毎日4時間ほどしか睡眠を取らず、来る日も来る日も上司から精神的な圧力を加えられたのだ。

 

 そして、気づいたら異世界に転生していた。

 

 特に貴族の五男坊として産まれることもなく、普通に平民の子として生まれた。親からは最大限の愛情を注いでもらい、幸せに暮らしてきた。

 だが、ブラウスが勇者であることが分かるとすぐにその生活は一転した。

 

 勇者とは、魔王と戦う人類の英雄である。

 そんな定義がなされる勇者であるが、正直に言うならば前世のブラック残業よりもクソだった。

 なにせ、勇者は強くなくてはならないとかいう理由で死ぬほど辛い訓練をさせられたりしたし、さらには不死の加護とか言う諸悪の根源のようなスキルも習得してしまった。

 

 不死の加護は、いわゆる死にもどりと呼ばれる加護の事だ。

 その効果は勇者が魔王を討伐するまで永遠と死に戻りするという優れモノ。

 お陰でブラウスは今まで4回も魔王に敗れ、今回もまた18歳からやり直してきたのだった。

 

「悪は必ず負けるって言うけどさ……やり直せば絶対に悪は負けるじゃん、って地で行かなくてもいいと思うんだけど、はあ」


 5回も死を経験し、彼の精神は磨耗しきっていた。

 もう疲れたと言うのが正直な感想だった。


「まあ、どーせ魔王倒すまで死ねないんだし、大人しく諦めようか」


 今日は18歳の誕生日。 

 この日にブラウスは不死の加護を得たため、この様なおめでたい日に何度も何度も死に戻りしているのだ。

 

 とまあ、今日はそんなおめでたくも反吐を吐きたくなるような日だ。

 死に戻り5回記念にいいモノでも食べに行こうか。


 そう考え、ブラウスは着替える。



▽▲▽▲



 外に出ると、相変わらず賑やかだった。

 皆幸せそうな笑顔を浮かべながら買い物していたり、レストランで食事をしていたりする。

 これからおおよそ3年後、例の魔王から宣戦布告されこの国が戦火に燃えようとは誰も思わないだろうな。


 そんな感想を抱きつつ、ブラウスはいつもの店に入った。


「──いつもので」


「ああ、いつものね」


 そんな言葉を店員とやり取りし、席につく。

 数分ほど待っていると、厨房からいい匂いがし、皿が運ばれてくる。


「はい、いつもの」


 そして机の上に置かれた皿の上には、彼の大好きなパスタが乗っていた。

 

 鼻腔をくすぐるトマトとその他諸々の独特な良い匂いを堪能し、口へ運ぶ。

 

 魔王討伐に駆り出されるとレーションしか食べれなくなるため今しか食べられない貴重な味覚を刺激する食べ物だ。

 しっかりと味わい、咀嚼し、飲み込む。

 

「美味い。毎日食べたい味だな」


 そんな小学生でも言える感想を放ち、目の下のクマをこびりつかせながらパスタを黙々と食べる。


 ──そんな時であった。


「おい!トロトロしてんじゃねえ!さっさと動けこのボケが!」


 外からそんな声が聞こえてくる。

 

 その声は、まるで前世でのパワハラ上司に似た物だった。

 不快な記憶を思い出し、ピクリとこめかみが動く。


「ああ!トロっちいな!魔族の癖に人間様に迷惑をかけるんじゃねえ!!」


 魔族。

 それは人間とは違い魔物に近い特徴を有す人種だ。

 彼らはその特徴から、野蛮で劣等な民族とされており差別の対象となりやすい。

 

 そして、その様な差別から前世では憎しみが募りに募り魔王の侵攻という名の下に人類との戦争が勃発した。

 こういった差別や魔族奴隷が魔王を産んだと言っても過言ではない。

 正直、彼にしてみれば苦しみの直接の原因がそれであるため不愉快でしかない。


「美味い飯を食ってたのに、不味くなった」


 そう呟き、立ち上がる。


「代金はこちらで──」


 そう言って銅貨数枚をカウンターに置き、店から出た。


「チッ、無能なゴミにはメシなどやらんからな!」


 店の外では小汚いデブのジジイが怯えて地面に丸まる魔族を蹴っていた。

 そんな様を見ていると、イライラして仕方がない。


「──お前、その辺にしとけよ」


 魔族とジジイの間に割り込む。


「おい!なんだお前!うちのやり方に文句でもあんのか!?」


 唾を撒きちらしながらジジイは喚いた。

 

「文句しかねえよ!いつもいつもいつも!なんで俺はお前みたいなゴミを守ってやらにゃいけねえんだよ!このクソゴミが!」


「……は?」


「俺はなあ、勇者だ。逆らったらどうなるか分かってんのか?」


 そう言って勇者の証を見せる。

 それは、胸元の徽章だ。

 

 この国のいかなる人間でも分かる王家の紋様。

 事実上、最強の代物だ。

 それを見た奴隷商のジジイは青ざめる。


「す、すいませんでした!大変無礼を働いてしまい、申し訳ありませんでした!」


 地面にひれ伏せる。

 

 勇者の役は基本的にクソだ。 

 だが、こう言ったことが出来るからまあ多少なりともいい点はあるのかもしれない。


「分かったならいい、その魔族を置いてとっとと去れ」


 そして金貨数枚を投げ渡す。 

 すると、大人しくジジイは立ち去った。


「さて、魔族のお前、顔を上げろ」


 その言葉を聞いた魔族の少女?はピクリと体を震わせた。

 未だ地面に伏せ、怯えている様に見える。


「はあ、こう言うのは得意じゃないんだけどな……」


 ポリポリと頬を掻き、再び言う。


「もう一回言うぞ、お前、顔を上げろ。これが最後のチャンスだぞ?」


 怯えつつも少女は恐る恐るその顔を上げる。


「よし、いい子だ。そんないい子のお前はもう自由だ。好きに生きろよ。はい、これを受け取れ」


 そう言って金貨が十数枚ほど入った袋をその少女に渡す。

 勇者になれば給与は非常に恵まれる。 

 こうやって太っ腹に渡しても痛くも痒くもない。


 ジャラジャラと音のするそれを渡す。


「じゃあな、俺はもう行く。その金があればなんだって出来るからな、好きにしろよ」


 久々に良いことをしたかもしれない。

 そんなことを考えつつ去ろうとしたその時だった。


「おと、──」


 ゾクリ


 少女が声を上げたその瞬間、全身のありとあらゆる細胞が警鐘を鳴らす。

 こいつは敵だ!

 そんな事を本能で感じ取り、剣を抜いた。


 そのまま剣を少女に向ける。


「お前は、誰だ!?」


「キャッ!」


 再び地面に伏せ少女は怯える。

 だが、そんな事は関係ない。 

 こいつはマズい。

 脳がそう言っているのだ。

 幾度となく自分を救ってくれた感覚サマだが、今はこいつを殺せと喚き叫んでいる。


 どうして?

 疑問に思うが分からない。


「お前の名前は?」


 その疑問を解消するために、問う。


「──アレシア」


 ああ、そうか。

 そういう事だったのか。

 ブラウスは理解した。


 その名は、何度も何度も彼を殺した魔王の物であったのだから。

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