第13話 生きて


さーくんは私を知らないと言っている。

だが私は彼を知っている。

この差は何か。


答えは(彼が麻疹にかかって高熱が出て記憶喪失になった)から。

5歳になって彼は記憶が無くなったのだ。

それまでの記憶が全て無くなった。


私はそれを都合の良い様に捉えていた。

気持ちを。

押し殺した。


「...馬鹿だな私も」


そんな事を呟きながら私はベランダに出て空を見上げる。

雨上がりの青空はとても澄んでいる。

私の気持ちも晴れやかになりそうだった。

そう思いながら私は踵を返してベランダから出る。


「...私もどうしたいのか分からないな」


お姉ちゃんならどうするだろうか。

この状況下で彼女なら。

彼女なら無条件にあの女を救っただろうか。

そんな事を考えてしまう。


「...私は彼女では無い。彼女は私では無い、か」


私はそう言い聞かせながらベッドに腰掛ける。

それからぼふっと音を鳴らして背後に倒れ込んだ。

そして目を閉じて考える。

だけど答えは出ない。

まあ当然だが。


「...漫画でも読もうかな」


思いつつ私は起き上がる。

それから私は漫画を開いて読み始める。

そして溜息を吐いた。

そうしてから没頭し始める。



1時間が経った頃に私の携帯が鳴った。

その人物はさーくんだった。

私は「もしもし?」と聞いてみる。

すると相手も『もしもし』と言ってくる。


「どうしたの?さーくん」

『お前と一緒に買い物に出たいなって思ってな。気晴らしに。今週の土曜日とかショッピングセンターに行かないか。あのバカでかい』

「うん。良いよ。行こうか」

『それから...アイツの件で電話した』


その言葉で誰かが分かった。

私は真剣な顔をしながらポスターを見る。

そして「その子はどうなったの」と聞いてみる。

すると『お前も関係者だから伝えておこうって思ってな。...アイツ逃げた』とさーくんは言ってくる。

私は「!」となった。


「ねえ。さーくん。行政とかに頼れないの?」

『さあな。アイツはそれを望んでない様に見える』

「...私達は何の関係も無いけど。だけどまあ...もう関わった以上はね」

『お前は優しいな』

「違うよ。さーくん。これはアイツへの戒めだよ」

『...そうか』


さーくんは『アイツの事に関してはアイツに任せようと思った。だからアイツの事はこれで最後だ』と言ってくる。

私は頷きながら「了解」と言った。

それから私はさーくんに「じゃあ土曜日ね」と言葉を発した。

そして「じゃあね」と告げて電話を切る。


「...そっか」


そう言いながら私はまた寝転がりながら天井を見上げる。

正直言って私は何の関連性も無い。

そして彼女の事はどうでも良い。

だが。


「...私もどうしようもない愚か者だな」


そんな事を呟きながら私は漫画をまた読み始める。

だが集中が出来ない。

クソッタレすぎる。

そう思いながら私は起き上がった。



お姉ちゃんの家に逃げてどうするのだろうか私は。

そんな事を思いながらバスに乗ってからそのままお姉ちゃんの家に来る。

それからインターフォンを押す。

するとドアが開いた。


「お姉ちゃん。ゴメン」

「...」

「...お姉ちゃん?」

「置いていってゴメンね。...何も...出来なかった」


そしてお姉ちゃんは涙目を向けてくる。

私はその様子に「...」となりながら「仕方が無いでしょ。それは」と告げながらお姉ちゃんを見る。

お姉ちゃんは「ささ。入って入って。温かい食事があるよ」と笑顔になる。


そんな容姿だが。

私に似ているが穏やかで...母性のある容姿をしている。

私が年を取ったらこんな感じになろう。

そんな感じの容姿に長髪だ。


「...お姉ちゃん」

「...何?」

「私は今、生きて正解?」

「...貴方の事。私は...妹としてとても愛している。だけど...何も出来なかった。だから...生きていて良かった」

「...お姉ちゃん...」

「私は死んでほしいって思ってないし。貴方は...貴方らしく生きなさい」

「そうだね」


そして私は靴擦れを思い出す。

痛みと出血。

するとお姉ちゃんがそれに気が付いたのか足を曲げてから消毒して絆創膏を貼ってくれた。

私はお姉ちゃんを見る。


「よく頑張ったね」

「...私は何もしてないよ。逃げただけ」

「それを頑張りと言います。...貴方はよく頑張った。とても偉いよ」

「...逃げてばかりの生活が?そんなの...」


するとお姉ちゃんは私を抱き締める。

それから頭を撫でてきた。

「貴方は愛情を知らない。だから私がこれからは貴方を育てるから」と言ってくる。

私は赤面しながらその手を払った。


「...私は...何故生きているのか分からない」

「...そうね」

「だけど靴擦れの痛みと...お姉ちゃんを見て思った。これが生きる事だって」

「...そうだね。...私が逃げている人間だよ。貴方は...私より遥かに偉いわ」

「そんな事は無いけど」

「あるの。貴方はよく生きたわ。今までね」

「...お姉ちゃんを見ると気が狂う」

「そうね。私は褒める事しか出来ないから」


「後はあの親から逃げる事しか」と深刻な顔で言うお姉ちゃん。

私はその言葉を受けながら居ると「まあどうでも良いけど食べよっか。今日は中華風にしたから」とニコッとする。

私が辛い物が好きって知っている。

だからそうしたのだろうけど。


「...有難う」

「え?何か言った?」

「何も言ってない」


私は家の中に入る。

そして私は中華風のご飯を食べてからお風呂に入ってからそのままお姉ちゃんが用意した服を着た。


正直。

こんなに暖かい気持ちは久々であり。

温かい食事も久々でお風呂もゆっくり入れたのは久々だった。

服を新調したのも相当久々だ。

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