第31話 回り道

 俺たちが会場に到着したのは昼過ぎになってしまった。

あの後、警察はすぐ駆けつけてくれたが、

救急車が遅れてしまい、

運転手を搬送できず足止めされてしまった。

ガーネットが回復魔法で彼を手当てしたので

気を失っているだけだが、

そう警察に伝えるわけにもいかなかった。


「なんと言うか、災難でしたね。」


 出迎えてくれた財前が苦笑いしながらそう言った。

襲ってきたのは中国とモンゴルの国境付近に城を建てて暴れている魔王らしい。

現在モンゴルは完全に魔王に占領され、

中国とロシアを飲み込まんとしているらしい。


「最新情報では、

朝鮮半島とも連絡がつかないそうです。

中国政府は韓国と北朝鮮も占領されたと見ています。」


 俺は出そうになったため息を飲み込む。


「韓国を足掛かりに日本へ斥候を送ってきた、と。

べらぼうに迷惑な。」

「向こうからしても無視できないですよ。

魔王と魔王より強いお二人なんて。」

「財前さんからして、私はラスボスかなんかですか。」

「どちらかと言うと、

クリア後の鬼難度で出てくる裏ボスですよ。」

「まぁ、ガーネットとネルが完封してくれたみたいです。

王手、詰みの状態で生殺し、とか言ってました。」


 “呪縛”の発動時にいくらか魔力が必要だが、

ガーネットの魔力はべらぼうに多い。

自然回復量もそれに伴いべらぼうに多い。

自然回復量の一割を常時“呪縛”の発動に使って、

24時間体制で縛り上げている状態だそうだ。


「そんな状態でも止めを刺せない、となると、

中国のハンターのレベルはそんなに高くないのかもしれませんね。」


 財前から聞いた情報によると、

中国政府は囚われている女性たちを救助しに出たが、

分身体の一体すら討伐できずにいるそうだ。

そこら中に奇妙なオブジェのように

体を捩って貼り付けられた猿たちが悲鳴をあげ続けているらしい。


「一応、あの国のハンターは軍隊なんで、

僕みたいな高レベルが一人いて全体を引っ張る感じじゃなく、

全体的に同一レベルで揃えていたようです。

平均レベル2といった感じだそうですよ。」


 なるほど、ハンター制度の違いと言うヤツか。

ハンター全体の地力の底上げは

広い国土を持つ国には重要だ。

 首都や軍事施設等に手厚く高レベルが集まるのは、

安全に見えて実は穴が大きい。

人間による侵略攻撃には有効だと思うが、

ダンジョン災害は国境なんて関係なく起こるからだ。

 隣国との間にダンジョンができた場合、

ダンジョンを実効支配している国に所有権があるとされる。

そのため、一定レベルのハンターを数多く揃えて、

国境に広く配備する方が利点が大きい。

中国のように隣国と接している場所が広い場合、

かなりの数のハンターが必要だ。


「それでも、高レベルの精鋭チームはいました。

どうやら早々に全滅したとのことでした。

魔王のいる城を押さえればモンゴルの半分くらい持っていける、

と判断した軍部の勇み足だと言われてます。

 リサーチ不足では、

ハンターたちの実力は発揮できませんしね。」

「“魔王”なんていわれていますが、

ダンジョン災害に似てますね。

壁がないから、被害が広域なだけで。

 ネルの時は呪毒の散布、猿は分身体による質量攻撃。

どちらも分かりやすく、

“皆殺し”と“占領”•“占拠”が目的地ですし。」


 ちなみに、日本は国境がほとんど海上にあるので、

そこまで急ぐ必要がない。

国によっては海上のダンジョンを抱える方が

デメリットが多いこともままある。

壁で囲えない分、管理も面倒が多くなる。

そう言った場合は、

むしろ日本へ管理が押し付けられる。

大和桜はそう言った場合に調査を依頼され、

派遣されることが多い。

 財前たちは念入りに時間をかけてリサーチしていることで有名だ。

ポーション事件の時も

仲間を助けるために現地へ自ら飛び込んだ財前だ。

中国のハンターのこの話しは

財前なりに思うところがあるのだろう。

 財前はため息をついて言う。


「一応口に出して言いますけど、

毒も分身体も櫻葉さんたち以外に

即応できるハンターなんていませんからね。」

「防護服とガスマスクで対応できる、と

ネル自身が言っていましたよ。

分身も、情報があればなんとかできるでしょう?」

「できたら良いな、とは思いますけど。

ちくしょう、これ、ヘリの時と似た敗北感だ。

 あれか、一時間でヘリが飛ぶんだから、

防護服くらいならすぐ用意できそうだもんな。」


 財前が天を仰いでそう呟く。


「それは私と言うか、

私の周りがすごい方が多いだけですよ。」

「ダンジョンの壁殴り壊して、

魔王を倒せる人が言っても……。」


 強く否定できない材料を列挙する財前。

まぁ、暴力については、それなりに自負はある。


「そんなの、ただの暴力でしょ。

そのうち、衰退する。

言わば、短期優良物件ですよ。

若さとか流行りと同じです。」

「そこまで客観視してる時点で、

暴力なんてちゃちなもんじゃないでしょ。」


 財前は大きなため息をついた。

財前に案内されて、

俺たちは何故かトレーニングジムのような部屋に通される。

 扉を開けてくれた男性が、挨拶してくれた。


「初めまして。

橋田と申します。

ダンジョン対策委員会、

ダンジョン管理統括部の責任者を勤めております。

 広い部屋がトレーニングルームしかなかったので、

こんな場所で申し訳ありませんが、

今日は皆さんの顔合わせと簡単な打ち合わせを行いたく。」


 ベンチプレスやランニングマシンが並ぶ部屋の中央にホワイトボードと長机が置かれている。

その一番置くに座っていた男性が、

立ち上がって挨拶する。


「自衛隊特殊異界対策室、

室長を勤めます、楢林と申します。」


 楢林の隣席の男性も立ち上がって挨拶する。


「公安調査庁、次長に就任しました。

安島と申します。」


 この二人、冷や汗ビショビショで、

ガチガチに緊張している。

他の参加者すら心配そうに見ている。


「初めまして、櫻葉です。

お二人とも、大丈夫ですか?」

「いや、この度は、二度も日本を救っていただき、

頭が上がりません。」


 安島がそう言う。


「どちらも行き掛かりです。

ポーション事件の件は自らの意思で飛び込みました。

礼を言われる筋合いも、

謝罪をされる道理もありませんよ。」


 沈黙。

俺は何か不味いことを言ってしまったのか?

財前を見ると、頭を抱えている。


「櫻葉さん、言葉が足りません。

もういっそ、

“気にするな”って言った方が良いと思います。」

「それを言うと、とんでもなく謝罪されて、

要らないお詫びとか……。」

「それで失敗するとか、どんだけー。

いや、櫻葉さんは見た目で

悪い方に補正されやすいんですよ。

口数が少なくても、多くてもダメです。

 こういうのは黒川さんが得意なんですけど。

あれかな。黒川さんが僕に怒ってる時って、

こんな感じなのかな。」


 財前の呟きを聞いた

そばにいる大和桜のメンバーらしき人たちが大きく頷く。


「皆さん、

櫻葉さんは別に気にしてないって言ってますから、

落ち着いてください。

お三方も座って、座って。

軽い自己紹介だけして、会議を始めましょう。」


 三人と一緒に俺たちも席に着いた。

ガーネットとネルは俺の両肩に座っている。

簡単に自己紹介をして、会議とやらが始まった。


「この度、発足する予定のダンジョン警備隊、

この呼び名も仮のものですが、

その訓練について、話をさせていただきます。

有識者の方々にご足労いただきましたことに、

深く感謝いたします。

では、お配りする資料をご覧ください。

これはクランの大和桜より、

起案いただいた訓練の内容です。」


 俺は回ってきた資料を隣の財前へ渡し、

ざっくり目を通してみる。

自衛隊の訓練に準じるような内容だが、

ハンターとしてモンスターを相手取る訓練が組み込まれている。


「ここからは、

大和桜より私、財前がご説明いたします。」


 財前の説明か明瞭で簡潔だった。

わかりやすいし短い。

自衛隊の人が質問をする。


「ステータスの取得が訓練の最後なのは何故ですか?」

「そこは僕個人の意向が含まれているのですが、

クラン内ではほぼ全員が実感している事柄がありまして。

一旦見てもらえますか?」


 そう言って財前は立ち上がり、ベンチプレスへ歩いていく。

財前はベンチにかかっていたバーベルを

片手でひょい、と持ち上げて見せる。

バーベルの両端には30と書かれたウエイトが付いている。

財前の腕は鍛えられているが、

俺の腕の半分くらいの細さだ。

俺以外の人が驚き、口が開きっぱなしになる。


「僕の細い腕で、これがこうなるのは、

ステータスのお陰です。」


 財前はそう言ってバーベルをベンチに戻した。


「ホワイトボードをお借りします。」


 そう言って財前はホワイトボードへ青い縦線を描いた。


「青が僕の身体能力です。

それで、ステータスは。」


 財前は青より長い赤い縦線を青の上に描き足した。


「こんな感じになります。

我々はこれを“ステータスで上げる”と呼んでます。

 ステータスは元の身体能力を元に加算乗されます。

一定値、明確に言うと元の身体能力をステータスが越えると、

こういう風に体格以上の力が出せるようです。

こうなると、感覚的な話ですが、

“自分の力”でバーベルを上げていません。

さっき言ったように“ステータス”でバーベルを上げています。

ステータスでも持ち上がらない重さになると、

途端にピクリとも動かせなくなります。

 この状態でトレーニングをしても筋肉へ負荷が上手くかからず、

筋力も体力もなかなか上がらなくなります。

レベルが上がれば上がるほどステータスが上がって、

こうなるようで。

早い人だとレベル2でトレーニングの効果が減退しています。」


 俺は元々鍛えている。

そのため、財前の言う状態にはまだなっていない。


「訓練は効果が実感できないと、

モチベーションが保てなくなります。

また、ステータスに頼ると成長ができません。

レベルがなかなか上がらないからです。

レベル4になるのに平均10年かかります。

それにレベルが上がればステータスが必ず上がるか、と

言われればNOです。

 それにホワイトボードの図のように、

ステータスは元の身体能力の上に加算されます。

同じ量ステータスが加算された場合、

元の身体能力が高い方が強いに決まっています。

 櫻葉さんのように、

ステータス取得前に身体を完成させておくことが、

強いハンターになる一番の秘訣です。」


 財前はすまなさそうに俺を見た。

俺は名前を出されて驚いたが、

同時に仕方がないとも思う。


「櫻葉です。

補足します。

身体を鍛えたりスポーツや武術を体得している人が

ステータスを取得すると、

初期スキルを手にいれる確率が高い、とも言われています。

 実際、私はステータス取得時に

初期スキルを持っていました。」


 自衛隊の人だけでなく、会議参加者全員がざわつく。


「補足ありがとうございます。

そうなんです。

最新の統計から出ているものなので、

スキルと身体能力は関連性が高いと僕も見ています。

 僕自身はレベル5になってスキルが手に入ったハンターなので、

この情報を知っているかどうかで大きな溝があると実感してます。

なので、ステータス取得は訓練を完了してから、が

理想的だと起案しました。」

「わかりました。ありがとうございます。」


 自衛隊の人がそう言った。

すると、俺の近くの栄養士の人がおずおずと手を上げる。


「あの、櫻葉さんのご意見も伺いたいのですが、

ステータス取得後の栄養はちゃんと接種されるのですか?

後、トレーニングが効果なし、となると

ステータス取得後は体型が変わらないと言うことですか?」

「あぁ、それについては、大和桜から補足します。

主に黒川さんが自主的にボディメイクをして得た、

一人だけの検証結果ですが。

食べたものの栄養はしっかり接種されます。

体型についても、変化します。

食べすぎれば太りますし、

効果が減退していてもトレーニングを続ければそれなりに効果が出ます。

 ただ、それなり、と

いうのがどれくらいか、という部分ですが。

黒川さんの名誉のために、

体重と体脂肪率、筋肉量などの数値は

今回提出してもらってません。」


 数百人いて匿名で出される情報ならまだしも、

個人の身体的なデータを出せとは言えないだろう。

俺は念のため用意していた紙の束を出した。


「コピーが間に合わず、一部しかないのですが、

この一月の私の食べたものの資料です。

使っている調味料も最後のページにまとめました。」


 俺は資料を栄養士の人に手渡した。

栄養士の人は、拝見しますと言って熟読を始める。


「ほとんど財前さんが言った通りです。

食べれば満腹になる、栄養も接種できる。

太りもすれば、痩せもする。

データを採っていませんが、

筋肉量と体脂肪の変化はステータス取得以前と

あまり変わらない感じです。」

「あ、あの。

櫻葉さん、お料理ご自身でされてます?

これ、トルティーヤ、粉から作ってますよね。」


 さすがプロ。

料理については料理名と材料と分量しか書いてないが、

引っ掛かりを覚えたらしい。


「市販のものはここに保存料が必ず入りますから。」

「そうですね。

私は趣味と実益を兼ねて、ほぼ毎日料理をしています。

 栄養士の方に言うのは気が引けますが。

やはり美味しい料理には、栄養とは別に

モチベーションと言うか幸福度と言うか、

そう言ったものが得られます。

私はハンター生活において、

食事はかなりのウエイトを置いて重要視しています。

 理由は主に、

ダンジョンでは安心して食事がとれないからです。

ダンジョンには安地なんてありません。

いつ、どこから誰に襲われるかわかりません。

モンスターであれ、人であれ、

パーティーメンバーだったとしても、

突然襲いかかってくることがあります。

そんな殺伐として、緊張した中での食事は、

ただの栄養補給です。

 ダンジョンを出て、

自宅という安地でとる食事こそ大切に。

可能なら、気心知れた仲間や友達、家族と食べる食事こそ、

重要だと思っています。」


 栄養士が首がもげそうな程縦に首を振っている。

彼は声を大にして言った。


「そうですよ!

食事は栄養が接種できれば良いというものじゃなく、

どんなものを誰と食べるかが重要です。

訓練中のメニューは栄養価を重視して、とか

言われてますが、私も櫻葉さんと同意見です。

是非、食事は美味しいものを、楽しく食べましょう。」


 予算的な話しもあるだろう。

苦い顔をしている人がちらほらいた。


「訓練において、食事についても一考の余地あり、

とさせていただきます。」


 盛り上がる栄養士をなだめながら、

ダンジョン対策委員会の代表が話をまとめる。


「続いて、装備についてですが。

基本的に自衛隊の装備に準じる、とありますが。

これは、財前さんが発案ですか?」

「そうです。

ハンターも相手にする必要があるので、

銃器での武装は必須です。

AHUだって、そうだったでしょ?」

「モンスターには、銃が効かないと思うのですが。」

「それは、もちろんです。

各々ダンジョン仕様の装備品も必要ですが、

それについてはスキルとの兼ね合いもあるので、

統一できません。

 乱暴な話、

櫻葉さんみたいに素手で戦うスタイルのスキルも

ありますから。

臨機応変にするしかありません。」


 確かに、ステータス取得後の状態については、

画一の規格では対応できない。

効果が同じ身体能力の向上スキルだとしても、

見た目の変わらない場合と俺のように変身、武装する様な場合もある。

変身する姿次第では、人間と同じ武器が使えない。


「防衛省としても、

国庫を圧迫するようなものは避けたいのですが。」

「結構ですよ。

ポーション事件の時、

何もしなかった自衛隊へ世論のがキツくあたるのを

和らげるための警備隊ですもんね。

 世論へポーズだけ見せられれば、とおっしゃるなら、

それで結構です。」


 財前の一言で固まる防衛省の代表。

財前の言う通り、あの件の時救助も何もせず、

爆発の3日後にノコノコやって来た自衛隊の印象は最悪だった。

国連と前防衛大臣がズブズブに繋がっていたのが原因だ。

だが、それでも自衛隊員の中には中継を見て辞表を上司に叩きつけ、

東京に駆けつけた人が大勢いた。

それと比較されると、

完封されていた自衛隊は立つ瀬がない。


「ポーズではありません。

ちゃんと対応するための枠組みを作るためです。

そのために、大和桜や櫻葉さんのご意見を頂戴したいのです。」


 ダンジョン対策委員会の代表はそう言うが、

防衛省の代表は固まったままだ。

あの事件の関係者は殆どが死亡したか、逃亡している。

そのため、引き継ぎかまだ完全じゃない部分もある。

むしろ、そこの穴を突くように予算を組み直している。

 それならいけそうに思えるのだが、

復興のための予算がべらぼうに高いらしい。

首都が物理的に潰れて、

政府も一時的に壊滅していたと考えれば、

迅速な復旧ではある。

それでも、足りないのが現状だ。


「櫻葉さんのご意見もお聞かせ願えますか?」


 ダンジョン対策委員会の代表に話を振られた。

誘導された気がするが、俺は仕方なく口を開く。


「モンスターは大和桜でリサーチしている情報があれば、

容易く倒せます。

 大和桜の情報はハンターから“攻略本”とも呼ばれるくらい、

情報が細かくて膨大です。

モンスターの特性や討伐方法も載っています。

派遣されるダンジョン毎にモンスター対応マニュアルを置けば、

いくらか安い装備でもスキルがあれば対応できると思います。」


 事実、16歳でハンターを目指す人が多いのは、

大和桜がモンスターの討伐方法を確立して公開しているからだ。

これを利用しないなんて、

ハンターからすれば自殺行為だ。


「この前の様なモンスターの異常発生や、

突然のダンジョン災害には対応できないかもしれません。

でも、既存のダンジョンであれば、

我々大和桜の持つ情報は十分武器になります。」


 財前が言いきった。

大和桜のダンジョン情報は

俺も参考にさせてもらっている。

他の大和桜のメンバーも自信満々で資料を配り始める。


「とりあえず、

今回借りているダンジョンのモンスターの分布と特性、

討伐方法をまとめたものです。

 他のダンジョンは過去に公開している情報を

確認していただければと思います。」


 俺は資料を見てその出来映えに感嘆する。

さすがのリサーチ。

簡潔で見やすい資料。

地図付きの分布図。


「これは、素晴らしい。」


 誰かがそう呟いた。


「大和桜として、できる限りバックアップはいたします。

ただ、先程申し上げた通り、

装備については個々人の能力ごとに得手、不得手があり。

場合によっては、

何かを装備することすらできないこともあります。

 なので、装備については一旦

ハンター対策を主軸に考えていただきたい。」


 俺としては、

この数日潜る予定のダンジョンの資料をもらって嬉しい反面、

嫌な予感がしてくる。


「有用性を検証するため、

大和桜から若手のハンターを連れて来ました。

皆さんも彼らとダンジョンに入って、

どういう具合か見てもらえればと。

 もちろん、私とメインメンバー数名が護衛します。

櫻葉さんにはむしろ、足手まといかもしれませんが、

ご一緒いただけますか?」


 俺は来た、という顔を財前に向ける。

財前はそばにいる大和桜のメンバーに目線を送る。

俺もそちらを見ると、

瞳を輝かせた数名がこちらを見ている。

 俺は大和桜のメンバーを二十人以上殺している。

それなのに、コイツらなんなんだ。

事情を知ったとしても、感情が邪魔するはずだ。

こんな、ヒーローショーの観客席みたいな顔をされても困る。

俺としても、敵がい心を露に罵倒される方が気が楽だ。


「危ないと私自身が判断したら、

勝手に一人で逃げますからね。」

「是非是非。」


 財前はそう言って、申し訳なさげに笑った。

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