第2話 日常生活
この一週間毎日ダンジョンに朝から夜まで籠った。
触手スーツも色々試した。満足度の高い一週間だった。
だが、スライム相手では闘ったと言う感じがない。
雑草取りのような感じだ。
こんなことのためにハンターになった訳じゃない。
だが、スライムを狩り続けてとても良いことに気がついた。
スライムを短時間に大量に狩ると、
色違いが出現する。
色違いは数分で消える。
この前の金色はアイテムだった。
その後一週間で銀色が二体でた。
どちらもいつも通りの魔石をドロップしたが、
レベルが2あがった。
ハンターになって一週間でレベルアップしたなんて、
聞いたことがない。
ステータスを見るとレベル3の文字が浮かぶ。
3は一人前どころか、ベテランハンタークラスだ。
原因は銀色のスライムしか考えられない。
お陰で身体能力が急激にあがってしまい、
調整しなおした。
最後にもう一度金色がでたが、すぐ逃げられた。
見つけて数分追いかけたが、
目の前で幻のように消えていくのを見た。
昨日の話だが、いまだに悔しくて仕方がない。
なので、八日目はとことん色違いを狙ってみることにした。
ドロップアイテムは装備しても売却してもいい。
レベルアップはとてもありがたい。
時間を計りながら狩りを、本気で行う。
触手スーツは運用を変えた。
全身常に最低数の触手をまとい、
臨機応変に巻き数や本数を増減させる。
目に見えて体格が変わるので、
道幅の変化や相手との距離にも常に対応できる。
ガントレットに巻いた時計はストップウォッチの機能があり、どのくらいで色違いが出現するか確認できる。
準備万端。さぁ、根絶やしだ。
ストップウォッチスイッチをいれて駆け出した。
スライムは見つけ次第殴って潰す。
この一週間でコツをつかみ、
スライム相手でも打撃でダメージを通すことができるようになった。
俺はちゃんとした師がいない。
親が問題だらけの最悪な存在だったこともあり、
格闘技などをちゃんと習ったことがない。
その代わりテレビで見たり本で呼んだ知識を
延々と繰り返し再現する鍛練を十年以上行っていた。
ただ、当たり前だが
知識として知っていることと実際とでは異なる。
この一週間の調整で実感した。
マラソンのように地図を見ながら走り、
角や影にいるスライムを潰す。
時計を見ると一時間ほど経過していた。
レベルアップしてスタミナがかなりあがったようで、
軽い息切れ程度の疲労感だ。
討伐数は81匹。
地図に従い通路を潰して、
いくつかある小部屋と行き止まりへスライムを追い込む作戦だが、
このペースでは日が暮れる。
加速のため触手スーツを増強する。
一旦停止してウエストバッグからゼリー飲料を二袋取り出し、急いで吸い込んだ。
これが一袋でだいたい180キロカロリー。
二袋で360キロカロリー。
スキルには代償が必要な場合がある。
“触手”の場合はカロリーを消費するようで、
長時間使用すると空腹でたまらなくなる。
調べると、身体強化系スキルでは良くある代償とあった。
二時間経過した。
さすがに息があがってきた。
立ち止まり、
ウエストバッグからゼリー飲料を三袋出して一気に飲み干す。
討伐数208匹。
ペースは良くなったが、スタミナがかなり減っている。
このまま休憩することにした。
壁際へ行って腰かける。
ストップウォッチを一時停止した。
買ってあるゼリー飲料が後二袋しかない。
代わりにプロテインバーを取り出し、
腰に下げていたボトルから水分を補給する。
プロテインバーをかじりながら、
拾ってウエストバッグに入れた魔石を
しっかり閉じることができる袋へ移しかえる。
周囲を警戒しながら軽く目を閉じる。
ゆっくり深呼吸する。
可能な限りなにも考えないようにする。
考えてしまう場合は、逆に考えを飛躍させて考えをとことん広げる。
少ししてから目を開けて、地図を広げてルートを確認する。
そろそろ行こう。
立ち上がり、地図を懐へしまう。
ストップウォッチを再始動した。
歩き出して徐々に速度を上げる。
スライム死すべし。しらみ潰しだ。慈悲はない。
スーツの出力をさらに上げて駆け抜ける。
しばらく駆け回ると、通路側は殆ど潰せた。
300匹を越えてからは色違いを意識して索敵する。
ふと、背後に気配がした。
振り返って見ると、金色のスライムがいた。
全速力で距離を詰め、床がえぐれる程殴り付けた。
手応えあり。
拳を持ち上げると、紙が落ちていた。
金色はやはりドロップアイテム。
ただ、今回は装備じゃない。
A4サイズより少し大きい。
拾ってみると手触りは良くない。
実物を触ったことがないが、
羊皮紙はこんな感じと言われたら信じる。
色も茶色い。なにか文字が書いてあるように見える。
確認をやめてアイテムを懐へしまいこむ。
ストップウォッチを止め、
時間、スライムの討伐数と出た色違いをスマホにメモする。
アイテムの検証は終わってからにしよう。
後は袋小路と部屋を潰す。
その結果次第で延長するか決めよう。
ウエストバッグから残りのゼリー飲料を取り出して飲み干した。
時計は午後過ぎ。ペースは予定どおり。
地図を取り出して現在位置を確認する。
近くの部屋から最短ルートを指で謎って確認する。
ストップウォッチをリセットしてスタートする。
触手スーツの出力を少し絞る。
移動中に他のハンターを見かけると、
邪魔にならないよう加速する。
すれ違いざまに悲鳴が聞こえるのが気になるが、
今は急ごう。
予想どおり袋小路や部屋には所狭しとスライムが詰まっていた。
顔がにやける。
スライムのヘルムでその顔は誰にも見えないが、
極悪な笑顔だった。
潰す。潰す。
空気の入った梱包材をプチプチ潰すように。
叩く。叩く。
動かない分虫より容易い。
蹴散らす。踏み潰す。
水溜まりを踏み荒らすように。
スライムの破片が飛び散っていく。
蹂躙、と言うより収穫に近い。
魔石もちゃんと拾い上げる。
数が多いのでヘルムの隙間から伸ばした数本の触手も使って、
拾ってはウエストバッグへ放り込む。
この一週間で拾ったものも売却せずに貯めているので、
今度売りに出さなければならない。
部屋には200以上のスライムがいたようだ。
バッグがかなり重くなってきた。
次へ急ごう。
先ほどの感じだと300以上討伐したら
どこか近くに色違いが出現するようだ。
通路より短時間で数が稼げるので、
ここからは色違いを見逃さず確実に仕止めることを意識する。
次の袋小路を処理した時点で討伐数が300丁度になった。
次の部屋は近いが、
念のため袋小路をもう一回りして色違いを探す。
まだいないようだ。次へ急ごう。
かなり体力がキツイ。
だが、色違いが出たことで気分はハイになっている。
次の部屋は初日にスキル検証をした部屋だ。
他の部屋より広いが、その分数がいる。
部屋に入ると、
初日に見たようなスライムだらけの光景が広がっていた。
熱を持った足が重い。
足の裏が靴底に張り付いたように感じる。
膝が思うように上がらない。
太ももが張っている。
腰周りが痒い。
両腕の感覚がなくなってきて、
腕が木の棒になったようだ。
それでも、殴り続ける。
400も半ばくらいで、銀色が視界に入った。
殆ど無意識でその色へ襲いかかる。
逃げ惑う銀色を追い詰め、
倒れるように両腕を叩きつけた。
手応えと共に飛び散る銀色。
そのまま倒れ混んで、仰向けになった。
今何者かに襲われて死んでも文句が言えない。
疲労で呼吸すら億劫に感じる。
意地でストップウォッチを止め、しばらく息を整える。
少ししてからステータスを開くと、
レベル4の文字が見えた。
やっぱり銀色はレベルアップか。
呼吸が落ち着いても身体はまだ動かしたくない。
おそらくレベルアップの影響で銀色を殴った時よりは元気だが、疲労困憊なのは間違いない。
スマホに経過時間と討伐数をメモした。
上半身をおこし、周囲を見回す。
何もない。スライムすらいない。
壁際まで這って進み、壁を背に座り込んだ。
ウエストバッグからプロテインバーをあるだけ取り出し、貪る。
ボトルの水を飲み干して、時計で現在時刻を確認した。
20時になったところだった。
今日はこれで終わろう。
休憩したが、丸一日走り回った。
明日は学校の登校日だ。
魔石の換金も必要なので、
ダンジョンアタックは休もう。
ゆっくり立ち上がり、ダンジョンの出口に向かって歩き出した。
●
いつものように日の出前に目が覚めた。
日課のランニングと鍛練に出たかったが、
昨日のスライム狩りが効いているため中止する。
ベッドから起き上がって、
トイレへ行ってから水を飲む。
ヨガマットを床に敷いて、ストレッチを入念に行う。
軽く汗ばんだくらいでシャワーを浴び、
パンツだけ履いて朝食を作り始める。
メニューは豚肉の冷しゃぶサラダと根菜のスープ。
冷しゃぶはドレッシングよりポン酢派だ。
昨日の運動量が多いので脂肪分を多めに採るようにする。
昨日の米の残りを鍋に放り込み、
袋に入れたお茶の葉と一緒に炊いて茶粥も作る。
ダンジョンから帰ると簡単な食事しか料理できないので、必然的に朝食がディナーになる。
ビタミン補給に冷凍のベリーミックスとドライマンゴー、ヨーグルト、牛乳をミキサーにかけラッシー風ドリンクにする。
甘いより酸っぱい方が好きなのでマンゴーは少なめだ。
朝食がテーブルに出揃ったところで時計は7時を指している。
制服を着てから朝食を食べ始めた。
学校は歩いて10分程の所にある。
ゆっくり食べ、
インスタントの紅茶パウダーとお湯をマグカップへ入れ、
朝食を食べ終えた食器を食洗機へ入れてスイッチを入れる。
ほどよく冷めた紅茶を飲み干して、歯を磨く。
スマホを確認すると藤堂からメッセージが届いていた。
単文がいくつも連投されているが、
要約すると学校が終わったらどこか飯に行こう、だそうだ。
OKのマークだけ返して登校の用意をする。
学校が終わったら魔石の換金のつもりだったが、
まだ財布に余裕があるので明日で問題ない。
連日のダンジョンアタックで心身ともに疲れている実感があるので、
藤堂から誘いは素直に嬉しい。
藤堂以外同じ中学だった男子はいない。
高校へ進学してから、新しい友達は諦めている。
前髪で隠れた顔、長身で巨躯。
日常会話は得意じゃない。
人相も悪人面と言って差し支えがない。
変に話して誤解を生むのを避けていたが、
話さなくても誤解された。
勝手に話だけ膨らんで、
この町を牛耳る裏番、などと噂がささやかれている。
喧嘩なんかしたことない。人間相手では。
スライムは潰して回ったし、
次はゴブリンだと思っているが、人間は相手にしたくない。
色々面倒臭いからだ。
玄関を潜って外へ出た。
身長的に天井の高い建物を選んでいるが、
2メートルを超えた人間に対応はしていない。
扉を潜るときに頭をよく打つので、
玄関では一旦屈む。
同じ理由で可能な限り公共の交通機関は利用しない。
体格も相まって、
立ってようが座ってようが場所を取ってしまい、
邪魔者扱いされることもある。
タクシーですら、たまに乗車を拒否される。
制服は勿論特注品。
下着すら取り寄せないと在庫がない。
日本のネット通販のビックサイズ専門店のユーザー登録に俺がいないものはないと言っても過言じゃない。
店舗のあるビックサイズ専門店でも取り寄せになる。
店員に海外の規格で8XL、
日本の規格で9Lが必要と言われたが、
それでも入らないことがある。
「おっす、おはよ。」
「おはよう。」
藤堂が後ろから声をかけてきた。
コイツは絵に描いたような好青年で、
男女どちらからも人気がある。
文武両道で何をやらせてもそつなくこなすが、
血を見ると失神する。
俺がハンターをやる、と藤堂に言ったときは
勝手に想像して顔が青ざめていた。
血を見られなくなったのは俺のせいなので、
かなり罪悪感があるが本人は気にしないと言って
いつも通りの対応をしてくれる。
藤堂は横にならんで歩き出す。
藤堂も身長185センチで大きい方だが、
俺が210センチなので並ぶと小さくなる。
周囲の景色と相まって、
並んだだけで遠近感が狂ったように見える。
「ハンター生活はどうよ? 怪我とかないか?
父さんも心配してたぞ。」
「ありがとう。
今、装備の慣らしだからスライム潰ししてる。」
「収益出てないじゃん。それで行けるのか?」
「装備とか身体に馴染んでない状態で戦闘は避けたい。
靴擦れが原因で死にたくないしな。」
「言わんとしてることはわかるけど、まだ貯蓄あるのか?」
「おじさんのおかげでまだまだ余裕がある。
生活費には響いてない。
それでも明日くらいにはゴブリンに挑む予定だ。」
「……それな、もうゴブリンが不憫に思えるわ。
お前の拳なら、頭蓋骨も一撃で粉砕だろ。」
「現実的に言うと、ガントレットを装備して二擊は必要。
頭蓋骨は思ったより固い。」
「マジで答えんなよ、怖ぇわ……。」
藤堂の父親は弁護士でとてもお世話になっている。
現在の俺の未成年後見人を手配してくれたのもおじさんだ。
公私ともに一言で言えないくらいお世話になっている。
父の遺産もクソ養父と他人になった産みの親から取れた慰謝料と別で弁護費用にして貰おうとしたが、
出世払いでいい、と言って受け取って貰えなかった。
今の生活費が潤沢なのは父の遺産がまだまだあるからだ。
取れた慰謝料も最低限必要経費程度しか受け取ってくれなかった。
もし、ハンターで儲けが出たらまず藤堂のおじさんへ返す予定だ。
後見人にもその旨伝えていて、
念のため税理士も探して貰っている。
「お前の身体で武器持ったら、スゲー強そうだな」
「予算の都合でガントレットしかない。
スライムも殴り付けてる。」
「スライムって、
物理的に倒すのが手間だから不人気なんじゃないっけ?」
「刃物だとすぐなまくらになるから、不人気なんだよ。
ハンマーとか、打撃で潰せばそうでもない。」
「なんかその辺も含めてハンターについて昼飯食いながら教えてよ。」
「面白おかしい話じゃないぞ?
どちらかと言うと胸くそ悪い話を
煮詰めて、固めて、塩漬けにした感じだ。」
「お前が言うと料理みてぇだな。」
雑談だ。特に何かある訳じゃない。
でも、端から見ている人間には俺が藤堂を恐喝しているように見えるそうだ。
人間は見た目で他人を判断する。
この国では大男に人権はないらしい。
学校に到着した。
ここからは頭上注意だ。
建物に入ってからは右手を左肩に置いておいて、
常に頭を守るように動く。
扉はすべて潜って通る。
久しぶりの登校なのでいつもより気をつけて歩くようにする。
こういう時に高身長は良いと言えども、
限度があると再確認する。
ハンターで儲けが出たら、
高い天井で頭を打たない敷居の家が欲しい。
登校日なので、体育館で簡単な集会が終われば教室で点呼を取って下校になる。
あっという間に終わりだ。
「なに食いに行く?」
藤堂は同じクラスだ。気軽に声をかけてくれる。
まぁ、友達は藤堂以外いないが。
「近所ならキムラのラーメン。
足を伸ばしてダムダムバーガー。
電車に乗るなら、ミモザのパスタ。」
「選択肢多くて迷うな。
そうだ。お前、新しくできた駅前のうどん屋行った?」
「行ってない。
ここのところダンジョンと家を往復してたからな。」
「そこに行こうか。……ん?」
藤堂がなにかに気がついた。
そこには話すタイミングを探している男子生徒が微妙な距離に立っていた。
藤堂が話しかけてみる。
「どした?」
「藤堂、この後飯行かない?」
「ん? 櫻葉と行くって、話してんだけど。
お前も来るのか?」
「あー……。そうじゃなくて。
その……。」
「なんだよ。奥歯にスルメ挟まったみたいだな。」
さすがに藤堂がいぶかしむ。
なんとなく察した俺は、
話してるそいつから少し離れたところでたむろしてる集団に目をやる。
「お前、確か宮野だよな?
なんだよ。俺の幼馴染みに文句あんのか?」
「いや。そうじゃなくて……。」
「藤堂。あっちの奴らがメインだよ。」
俺がアゴで指した先には、
こちらをにらむ女子生徒を中心に何人かがこちらを見ていた。
「お前に用はないんだよ、デグの棒。」
にらみながら俺に悪態をついてきた女子生徒が中心人物のようだ。
悪口ではあるが、なかなか語彙力が高いなと感心してしまった。
「藤堂さぁ、ハンターに興味あるんでしょ。
あたしら、ハンターやってんの。
しかも、スキル持ちでヤバイくらい活躍してるんだ。
ちょっとご飯行こうよ。」
「幼馴染みを木偶の坊呼ばわりしたやつの話なんか聞きたくねぇよ。
つーか、お前別人レベルで性格変わってるじゃん。
夏休みデビューか?」
藤堂の言うとおり、名前は知らないが目の前で俺をにらみ続けている女子生徒は目立つグループだったが、ここまではっちゃけたことをする人物ではなかった。
なんとなく解ってしまう。
ハンターになった人間の9割はこうなる。
特にスキル持ちでまわりからもてはやされた若いハンターはなりやすい。
「“勇者症候群”か。」
「なにそれ?」
「自分をマンガやアニメの主人公だと思ってしまう。
その考えで行動、発言してしまう。
自分が自分であると言う感覚が失われる。
解離性症候群に近い。
まぁ、一部本当に勇者になるハンターもいるから、
一概に否定できない。
よくあるハンターの病気だ。」
自分がそうなっていないと言いきれないが、
こればっかりは人に判断して貰わないと気づけない。
堅実に、慎ましく、自制して行動を心がけているつもりだが、この女子生徒を見ていると自信が揺らぐ。
「勝手に人を病気にするな!
うぜぇんだよ。口を挟むな。」
「まぁ、休み明けには花瓶が席に備えられると思うぞ。
良くても病院行きからのヤク漬け廃人。」
「なにそれ。こわっ。」
ハンターは普通の人間と身体が同じか否か、医学的に解明されていない。
そのため、常にハンターへの治験がされている。
特に既存の薬に対しての反応がわからないため、
国をあげて治験が全国各地の病院で行われている。
ここが大問題だ。
治験には補助金がおりる。
病気は積極的に治験を行いたい。
薬の種類や複数の薬の併用例で補助金が増える。
病気に来たハンターは金づるなのだ。
病気に来た時点で、症状がどうあろうが金づるなのだ。
病院はハンターが相手なら骨折だろうが打撲だろうが、死んでも構わない、と言うほど薬を投薬する。
もちろん、同意は取らない。
遺族が訴えても国の政策上罪にしたくない。
病院も遺族に圧をかけてもみ消す。
マスコミも見て見ぬふりである。
その割に、登録された薬はハンター制度ができて数種のみ。
しかも、ハンターが特に必要としている抗生剤等の外傷に対する薬の登録は皆無。
補助金が多く貰える抗がん剤ばかりが治験される。
ハンターなんてまともな神経をした人間じゃない者に価値をつけて有効活用している、
と豪語する病院すらある。
ちゃんとハンターも診察する病院は国中探しても片手で数える程しかないが、
すべて大手のパーティーと専属契約しているため、
個人や他のパーティーに所属しているハンターは診察して貰えない。
なので、ハンターが怪我や病気になると廃業の上公的に殺されるのだ。
運が良くても薬漬けの廃人になる。
「……怖すぎる。」
「だろ?
身体を大事にできなきゃ、
ハンターは早死にするんだよ。
いろんな意味でな。」
「……櫻葉、ハンターやめないか?」
「登録したら辞めるのは不可能だ。
ダンジョンのモンスターを殺して、
ステータスやスキルを手に入れたら、
人間をやめたことになる。
ハンターとして仕事をしなくても、
身体は元に戻らない。」
「嘘。嘘。
ハンターを引退したって人はたくさんいるよ?」
女子生徒が口を挟む。
「えらそーな口聞きやがって。
黙ってろよ、デグの坊。」
「そー言ってるけど、実際どう?」
「ハンターには特別に毎年最低納税額が決まってて、
納税額がそれに足りないと強制的に治験の仕事をやらされる。
ここが問題で、
引退したって生きている限りハンターの身体はハンターだから、
毎年納税し続けるだけの財力がないと治験から棺へ直行コースになる。」
抜け道はあるが、かなりの額の金が必要になる。
都心で土地付き一軒家を注文住宅で建てるくらいは必要だ。
「……ちなみに、毎年いくらくらいの額なの?」
「パートやバイトでは到底稼げない額だよ。
年収1000万超えと同じかちょっと低いくらい。」
「逆にハンターって、そんなに儲かるの?」
「まぁ、場合によるけどな。
そんな額を怪我や病気でも稼ぎ続けることができるかって言ったら、
難しいだろうな。
ハンター以外の仕事を大成功させてやっとってくらいだからな。」
「兼業で、本業が年収1000万なら問題ないってか。」
「そこがな。
それはそれで本業の所得に普通の所得税取られるからな。
ハンターだけの二重取りだ。
その代わり、ハンターは色々法的に優遇されるが。
俺は割に合わないと思ってる。」
苦虫をまとめて十匹噛み砕いたみたいな顔になる後藤。
「櫻葉、なんでハンターやってんの?」
「昔からの夢だったからだ。
藤堂も知ってるだろ。」
「きっぱり言いきりやがった。
知ってるけどよ、なんか、釈然としない。」
ふと目線を女子生徒に向けると、
不安そうな顔になっていた。
「ハンター登録したときに配られた冊子に書いてあるぞ。
知らなかったのか?」
女子生徒と取り巻きはお互いの顔を見やる。
これは、見てないな。
情報は力だ。絶対に必要だ。
知らなかったでは、済まされないこともある。
ここかな、と思ったので荷物を掴んで席から立ち上がった。
藤堂もそれに続く。
女子生徒や取り巻きは何か言っていたが、
追っては来なかったので無視した。
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