第22話 蛇の話 8
「なるほど、そんな事がねぇ。昨日は昨日でいきなり怪我して帰ってくるし、今日は今日で蛇の神様にものすごい美少女ですか。なかなか高校生活を満喫してますなぁ、我が弟は?」
姉が楽しいような、あきれたようなどちらとも言えない表情で言ってくる。
「すいません……」
確かに新学期2日間で持って帰ってくるにはなかなかの大荷物である。
「それで父さんに相談できたらと思ったんだけど、やっぱり連絡取れないかな?」
「そうねぇ、どこにいるかも分からないし、ちょっと難しいかな」
「そう……」
その答えにため息をつく。
「蛇神ねぇ」
「姉さん、何か知ってるの?」
「まあ、少しは、ね。結構有名な話よ。逆になんであなたは知らなかったのかしら。ダメよ、ちゃんと友達作らないと」
「いや、まあ、……すいません」
思いがけない方向からの攻撃。
「姉さんならなんとかできそう?」
「私じゃ無理ね」
即答だった。もともと姉は武術も嗜んでいないし、戦闘経験もないはずだ。分かっていたことだが一応確認してみたにすぎない。
「仙の誰かに力を貸して貰うのも難しいかな?」
「難しいでしょうねぇ。父さんがいれば会えるでしょうけど、どこにいてどうやって会うかも分からないのがほとんどだから」
父の知人の仙人に力を借りられないかと言う事であるが、実際難しい事は分かっていた。人間にはできないことをする者たちばかりだが、戦闘向きで無い者も多く、会えたとしても気が乗らなければ手伝ってもくれないだろう。
「それにあの番長たちが戦って勝てなかったんでしょう?魔法も超能力も効かなかった、ね」
「姉さん、番長さんたちも知ってるの?」
「そりゃ、あれは有名すぎるからね」
自分の無知を責められたが、姉が知りすぎなだけではないだろうか。
「強い魔法使いも超能力者も知り合いがいない訳じゃないけど、彼らが勝てなかったなら多分だめでしょうね。特に超能力はともかく、魔法が効かなかった、か……。おそらく本体じゃないわね」
超能力によって起こる現象は多くが物理的なものである。たとえば石を相手にぶつけるとする。手で投げようが、念動力で動かしてぶつけようが動力が違うだけで、石を相手にぶつけるという行為によって生じる結果は同じである。対して魔法による攻撃は多彩で、魔力を物理に変換することもできるが、多くは【魔力】それ自体を相手にぶつけることで相手にダメージを与えることができる。魔力は物理的な攻撃を受け付けない者たち、多くの妖怪や霊になどにもダメージを与える事ができるのである。
「本体じゃない?」
それだけでも極めて重要な情報だった。
「でも、こっちの攻撃は効かなくて、相手からの攻撃はダメージがあるって言ってたよ。そんな都合のいい幻ってあるの?」
「ああ、幻って言うか、実体はあると思うわ。ただ別の所に本体があって、それを倒さない限り何度でも復活するってアレよ。漫画やゲームでもよくあるでしょ?」
(まあそんな都合のいい幻もあるんだけど。今この子に教えてもややこしいだけか)
姉はそんなにゲーマーだっただろうか?色々と多趣味なのは知っているが(飽きっぽいともいう)。
「本体ってどこにいるんだろう、社か周りの池かな。見つけられると思う?」
「うーん、そうねぇ。おそらくだけど人間が簡単に見つけられない所じゃないかしら。たぶん普通に探し回っても見つけられないでしょうね。となると分からない事は分かる人に聞くしかないわね。
紅、あなた姫様に会いに行きなさい」
「姫様に?」
「そう。神様の事は神様に聞きなさい」
「でもあなた、あんまり乗り気じゃない、みたいな事言ってたみたいだけどやけに積極的ね。噂のお嬢様はそんなに綺麗だったの?」
からかう様でもあり、なんとなく不機嫌な様にも聞こえる声で紅に問いかける。
「そうだね、確かにすごく綺麗な子だったよ。でもどちらかと言うと、彼女よりも彼女を助けようとする子の態度の方が気になって、かな」
「ふ~ん」
不機嫌度が少し上がる。
「でも」
「でも?」
「姉さんの方が綺麗かな」
「!?
もう、この子ったらどこでそんなの覚えてきたの。ホントにもう。もう。だめよ、同じ学校の子よりもお姉ちゃんのほうが綺麗なんて言ってちゃ。ああ、もうホントいつまで経ってもお姉ちゃん子で困るわ。
あ、そうだ。お腹空いてない?今日はお寿司にしましょうか」
やけにご機嫌で早口にまくし立てる。
「え?でももう食材買ってあるんじゃ」
「だいじょぶだいじょぶ、明日に回せるのばっかりだから。それに姫様へのお土産も買わないといけないし。さ、行くわよ」
必要になりそうなわずかな荷物を急いでまとめる。これから会う方の事も考え、服も清潔なものに着替える。
晩御飯は寿司になった。
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