第14話 髪切りの話 14

14


 やがて警官たちが到着し、紅とスカートをはいた桜が状況を説明する。自転車に乗っていない場で、あの格好はさすがに抵抗があったのだろう。


「そいつ警察官らしいんだけど見覚えある?」

 それを聞いた警官たちは、訝りながらも犯人の顔を確認し動揺している。

「この状況も録画してるから、隠蔽とかは無しにしてね」

 その言葉に驚き、周りを確認する警官たち。

「何を言ってるんだ!君は何様のつもりだ!」

 少し動揺しながらも、若い男性警官が怒りながら桜に詰め寄る。さらに数人の警官たちが桜たちを囲んで圧をかけてくる。1年の女子たち3人はその雰囲気に驚いて身を寄せ合っているが、桜と紅に動揺は無い。そこにその中では年上の男性がやって来て声を掛ける。若い警官が班長と呼んだ事から、この場の責任者なのだろう。

「お嬢さん、どうも誤解があるようだ。詳しくお話を伺いたいので署までご同行願えますか。ところでまだお名前を伺ってませんでしたね」

 班長と呼ばれた警官が問いかけてくる。

「アタシは皇立大阪高校、番長連合の交野桜」

 桜の名を聞いた警官たちが動揺する。

 班長がつぶやく。

「く、【狂い桜】!」

「またぁ、誰やねん……」

 げんなりする桜だった。



 桜が名乗ってからは、警官たちの態度は一変し、まるで上官に対するような丁寧な口調になる。いくら番長とはいえ、一高校生が一体どういう扱いになっているのだろうか。ここで長々と時間を使うつもりはなく、桜は警察署に行くこともなく、警官たちに指示を出して話をまとめていく。その状況を見ながら紅が桜のそばにやってくる。

「先輩、あの刀なんですけど」

「うん?」

 紅が証拠品として押収される刀を見て話しかけてくる。

「気になるのかい?」

「はい。……ただの刀じゃないと思います」

「ふぅん、君にはなにか視えるんだね?」

 眼鏡をしていない紅の眼をじっと見つめながら桜が問いかける。見つめ合ったまま何も言わない紅に桜が折れる。

「わかった。あとはアタシにまかせて」

「ありがとうございます。」

 

 

 自転車が大破した紅は警察の車で送られることになった。自転車は証拠品として警察に運ばれていく。輪と桃香は桜が家まで送り届け、有海には女性警官2人が同行し家まで送り届ける事になった。


 帰り際に紅が有海に声をかける。

「穂村さん。また明日、学校で」

 それを聞いた有海が驚き、心配そうな顔になる。

「大丈夫?お休みしなくていいの?」

「見た目ほどじゃないみたい。これくらいなら大丈夫だよ」

 本当ならしばらく休んだ方がいいのは桜には分かったが、何も言わずに二人を見守る。

「ホント?無理してない?」

 いまだに不安そうな有海。

「うん。また明日」

「うん。明日ね」

 去っていく車を名残惜しそうに見送った。





 一人の女性が夜道を歩いていた。

 大学生くらいだろうか、長い髪を揺らしゆっくりと歩いている。道に人気は無い。


 ザザザ

 突然公園側の茂みから音がする。

 風もないのに突然鳴り出した音に振り向く。

 少し離れて立ち止まり、茂みを見る。特に変化は無い。

 気にせず、その場を後にする。


 ザザザ

 再び音がして、女性が振り返った時、何かが通り過ぎようとした。

 バサッ

 何かが女性の背後に落ちる。

 地面には長い髪が散らばっていた。


 髪を切られた女性の背後を通り過ぎようとした何かを、今髪を切られたはずの女性と同じ姿をした髪の長い女性の手がつかむ。その何かは暗く霞んでいた。確かにそこにあるのに目を凝らしてもおぼろげにしか見えない。


「あら、珍しい。髪切りじゃない」

 女性の手につかまれた何かはじたばたともがいている。しかし、特に力を入れているようにも見えない女性の手から逃れることができない。

「ふうん、図鑑とはずいぶん違う姿ね。」

 それを見ながらのんびりと一人でつぶやく。

「あんたが最近この辺りでいたずらするから、便乗するのが出て来たのよ。まったく、女の髪を切るなんて悪趣味な。かまいたちの方がまだかわいげがあるわね。

 あんたは退治された事になったから、何年かは大人しくしてなさい。でないとホントに狩られるわよ」

 そう言ってそれをポイと投げ捨てる。

 放り出された黒い靄は慌てたように逃げて行く。

 女性はそれを見届けると、長い髪を揺らしてゆっくりと歩きだした。

 女性が去ったあと、地面には何も残っていなかった。





 後日

 

「ねぇ、お母さん。ボク欲しいものがあるんだけど……」

台所で洗い物をしながら、有海の母親が答える。

「あら、珍しい。有海のおねだりは久しぶりね。釣り竿?プラモデル?月末に出るマスターグレードならお母さん予約してるわよ」

「違うよぉ。えっと、髪がキレイになるシャンプーが……」

 ガチャンっと洗っていた皿を落とす母。

「あ、有海!?」



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