第23話 宰相の決断

「では、その孤児はどうなっているのだ。お前たちも奴隷として使っているのではないのか?」

「わが国では、奴隷を所有することは違法です。」

「では、どうしたというんだね。」

「当然ですが、普通に暮らしていますよ。」

「親のいないあやつらが、どうやって暮らしていけるというんだね。どうせ、盗みや犯罪をはたらいているのだろう。」

「食べるもの、住むところ、衣類。これだけあれば最低限の生活はできます。」

「ああ。」

「住むところはこちらで提供しました。着るものも同じです。」

「一番必要なのは食料をどうやって手に入れるかだろう。」

「ええ。だから彼らは食料を得るために働いています。」


「子供を働かせても役には立たんだろう。」

「能力を必要とするものはそうですね。でも、単純作業なら子どものほうが集中してやってくれるんですよ。」

「単純作業だと?」

「ええ。畑の草取りや網に絡んだ海藻の取り除き。それに、小魚をさばいて干したりするのも、コツを教えればできるようになるんですよ。」

「……にわかには信じがたいが……。」

「でしたら、これから行ってみませんか。」

「なに!」

「片道2時間ですから、明るいうちに十分視察できますよ。」

「い、いいのか?」

「隠すものは何もありませんから。」


 ゾマドフ宰相をスカイボールに乗せてヘラ島に向かう。


「飛行艇よりも2倍早く飛べますから、あっという間ですよ。」

「なぜ、こんなものを飛ばそうと思ったのだ?」

「最初は何もなしで飛んでたんですけど、子供が空を飛ぶのは非常識だといわれて。」

「いやいや、これも十分に非常識だと思うが。」

「でも、操縦しているのはミーシャですから、他の人から見たら非常識なのはミーシャだと思いますよね。」

「まあ、今も彼女が飛ばしているといえるな。」

「大人なら多少非常識なことでも、特殊な能力として受け入れてもらえるんですよね。」

「確かに、お前さんが操縦するよりは納得できるといえるな。」


「魔法も政治も同じです。父も私も生まれてすぐに自我を持ち、生後10日から毎日魔力がなくなるまでトレーニングしていたんですよ。」

「それは、魔力切れを起こしてしまうのではないか。」

「そうですよ。毎日魔力切れを起こして気を失っていました。」

「お嬢さまの場合、私たちメイドはよく眠る赤ちゃんだと思っていましたから。」


 ミーシャが口をはさんでくる。


「確かに赤ん坊は寝ていても変ではないな。」

「丸一年間、それしかしませんでしたわ。」

「知識はどうしたのだ?」

「本も読みましたけど……、300年以上前に、魔法で知識を残そうと考えた魔導師がおりましたの。」

「知識を……残す……だと。それは、本とは違うのか?」

「そうですね。本とは違って、直接脳に入ってくるんです。思い出すような感じで。だから、そこに記録されていた魔法はそのまま使えますし、一度開発された魔道具は、そのまま魔法式を残しておけるんです。」

「そんなことが可能だったら、一人の知識が延々と受け継がれて……。」

「そう、自分の代で実現できなかった魔法や魔道具も、次の世代で完成させればいい。その最新版が私なんです。」

「……。」

「それに、父はそこに知識だけではなく、物を保管することに成功したんです。」

「物だと……。」

「はい。このスカイボールも、元は父の作った物です。」

「こんなものまで継承できるのか。」

「ええ。魔法式は残っていますから、いくらでも再現できますけど、これは父の作ったものです。」

「その、父親に対する感情的にはどうなっておるのかね。」

「父は若くして他界しましたが、死ぬ直前までの記録は残っていますから、死んだという感情はないですね。むしろ、生まれ変わって私がいるような感じです。」


 そんなことを話していたら、ヘラ島についてしまいました。

 上空から居住エリアをみてもらう。


「現在の人口は3000人を超えました。子供は1000人くらいです。」

「海にも出ているのか。」

「はい。農業と畜産と漁業で、ここはほぼ自給自足できています。」

「ほぼ?」

「綿花の生産は行っていませんので、糸や布は外で手に入れています。今のところ対価は干し魚で賄っています。」


 礼拝所の横に着陸して歩きます。


「リサ様、こんにちわ!」

「あら、サリー、ヒデ・ミノリ。どこへ行くの?」

「ヤールさんの畑で雑草取りとブドウの手入れなんですよ。その人は?」

「あなたたちが移住することを許可してくれた、カラータのゾマドフ宰相よ。」

「あっ、あの、ありがとうございました!」

「「ありがとうございました!」」

「えっ、わしは……。」

「おかげで、私たちは元気になりました。」

「お腹いっぱい食べられてます!」

「兄弟たちも元気ですよ!」


「兄弟?」

「孤児たちみんなで住んでますから、小さい子の面倒も自分たちで見てるんです。だから、同じ建屋で暮らす子はみんな兄弟。」

「みんな健康そうで、服装もちゃんとしている。これが孤児とは思えん。」

「生活魔法や読み書きなどの教育も行っています。まあ、先生はうちのメイドですけどね。」

「これが、君の受け継いできた政治の一つの形なのかね?」

「別に、こんなのは政治でもなんでもないですよ。豊かな環境をを作って、そこに人を入れただけです。」

「だが、わが国は砂漠ばかりで、こんなに豊かな土地はない……。」

「100年後、200年後を見据えて、緑地を増やしていけばいいんですよ。」

「だが、国民が求めるのは、現在の豊かさだ。」

「国民?多くの国民はそこまで豊かな暮らしなど望んでいませんよ。欲張りなのは、貴族と大商人だけじゃありませんか?」

「そうかもしれないが……。」


「必要なら、私がその体制を壊してさしあげましょうか?」

「なにっ?」

「私がカラータ帝国を征服して現行の貴族体制を廃止する。貴族の資産を半分没収して恩給も無くしてやれば国の予算は大幅に削減できますわ。」

「だが、国政はどうするのだ?」

「国王は廃止して、まあ、当面は宰相の独裁政治ですわね。」

「私はそんなものを望んでいない!」

「政治は各町の代表と大臣による合議制にしておいて、いずれは住民投票で代表を決めるようにする。大臣もですわ。」

「だが、町の代表を集めるなど、移動に時間が……。」

「私の国なのであれば、飛空艇を巡回させますわ。」

「それでは、そなたが女帝に……。」

「そんな面倒なことお断りですわ。私はあくまでも相談役です。ああ、それから、軍部は宰相の直轄組織にして、軍事系統の反乱を予防しましょう。」


 宰相による根回しは迅速に行われた。

 軍部の半数は平民であり、民主化の構想が受け入れられたのだ。

 そもそもが、宰相の中に国民主体の国家という構想があったから話が進んだのだ。


 とある国務会議に私はミーシャと二人……いや、ポチとタマを連れて乗り込み、国の制圧を宣言した。

 衛兵は、大臣や国王の指示を聞かず、私の指示に従っている。


 こうして、カラータ帝国は、カラータ国として生まれ変わった。

 私はティアランドの陛下と宰相にも黙っていた。

 いきなりゾマドフ代表と就任の挨拶に同行したものだから、お爺ちゃん二人から怒られてしまった。


 私とゾマドフ代表で、砂漠の淵に沿って用水路を作り、砂漠の砂の中に枯草や枯葉を混ぜて保水力を高めていく。

 成果が現れるのは何年、何十年とかかるだろうが、少しずつ整えていく。


 そうして、十数年が経過し、私は15才のレディに成長した。



【あとがき】

 第二章終了です。第三章まで、少しお待ちください。

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魔導師の記憶 モモん @momongakorokoro3

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