第15話 ドラゴンアイランド

 3才になり、魔力量も十分だと感じた私には試したかったことをやってみることにしました。

 それは、リコが最後に出会った存在である、竜人が放っていた魔力の塊。あれによって発動中の魔法がキャンセルされたのではないかという仮説。

 また、それによって、魔法石も破壊されたのではないか。

 ……というか、3才になるまで忘れていたんですけどね。


「それは、どういうことでしょうか?」

「竜人が現れた時に、魔道具目指して進んでいたんじゃないかって言われていますよね。」

「はい。それは存じています。」

「その時に、多くの魔導照明が破壊されたんですけど、物理的な破壊と言われているんですよね。」

「はい。」

「でも、実は魔法石だけが割れていたのが多かったんですよね。」

「それって、建物が崩れた時に割れたんじゃないんですか?」

「そういうのもあるんですけど、建物は壊れていないのに、魔法石だけが割れているケースが結構な数あるらしいんですよ。」

「なんでですか?」

「竜人のブレスみたいな攻撃があったらしいんですよ。」

「ブレス……みたいな?」

「普通、ドラゴンのブレスというのは熱か冷気なんですけど、竜人のものはそういう形跡がなくて、ブレスなのかどうかも分かっていないんですよね。それでも、飛行中の飛行艇にそれらしい攻撃が目撃されていて、その情報では急に操縦できなくなったような動きをしたというんです。」

「それで、魔法石に対する攻撃だと考えたんですか?」

「うーん、魔法石というよりも、魔法か魔力への影響じゃないかと思っているんですよね。」

「その、ブレスって、いったい何なんですか?」

「多分、魔力をそのままぶつけたんじゃないかって思うんだけど、どうかな。」

「その程度のことでしたら、やってみればいいじゃないですか。」


 私は、その場でミスリル銀に照明の魔法を書き込み、質の悪い魔法石をはめ込みます。


「じゃ、やってみて。」

「はい。行きます。…………変化ないですね。」

「そうね、照明は点いたままね。じゃ、私がやってみるね。」


 私が照明に向かって魔力を射出すると、ピシッという音を立てて魔法石が割れてしまった。


「割れましたね。」

「うん。…………魔法石に蓄積されていた魔力がなくなっているわ。」


 新しい魔法石を取り付けると照明は点灯した。


「魔法式はそのままね。今、魔法石に魔力をぶつけてみたんだけど何も起こらなかったわ。」

「それじゃあ、魔力に影響しているんじゃないということですね。でも、何で私では駄目だったんでしょうか。」

「うーん、もしかすると魔力の質なのかもしれないわね。」

「わ、私の魔力は……。」

「ゴメンゴメン、違うの。私の魔力は人の魔力だけじゃなくて、龍の魔力が混ざっているらしいの。ちょっとやってみるね。」


 人の魔力だけを練って照明にぶつけてみたところ、何も反応しません。龍の魔力だけをぶつけると同じように魔法石が壊れました。


「やっぱりそうね。人の魔力ではダメだったけど、龍の魔力だと割れてしまうわ。」

「魔法が発動している時に、龍の魔力をぶつけると、壊れるんですね。これって、人だとどうなるんでしょう?やってみましょうか。」

「そんなの怖くて試せないわよ。魔法がキャンセルされるだけならいいけど、魔法回路が壊れるとか、頭が割れるとかしたらどうするの。」

「確かに……。」

「魔法を使う魔物とかに遭遇したら試してみるわ。」

「やめてください。お嬢様をダンジョンに行かせることはありませんからね。」


「そういえば、良質の魔法石の在庫が少なくなってきましたわね。」

「何のことでしょうか?」

「私の倉庫に入れてある魔法石よ。足りなくなったら困るでしょ。」

「では、購入しにまいりますか?」

「市場に出てる魔法石なんて質が悪くて使えないわよ。」

「どうしろと?」

「もちろん、採集にいくのよ。」

「誰が?……でございますか?」

「私とミーシャよ。嫌なら一人でいくからついてこなくていいけど。」

「先ほど申し上げましたよね。お嬢様をダンジョンになんか行かせませんから!」

「?……なぜ?」

「何故って、危険だからに決まっています!」

「誰が?」

「さ・ん・さ・い・の、お嬢様です!」

「お父さまが一人でダンジョンに入ったのは、2才と9カ月の頃よ。しかもまったくの手ぶらで。」

「……リコ様は、男の子です!」

「それに、冒険者が出入りしているダンジョンは、魔法石が育っていないから質が悪いのよ。質の良い魔法石を求めるなら、やっぱり知られていないダンジョンよ。」


 とはいえ、三才児にダンジョン踏破は厳しいので、外装を撤去したスカイボール。つまり浮遊式のベンチを作りました。

 当然、シールド効果を持たせ、助手席には氷矢発射魔道具をつけてみました。これは可動式で約20cmの氷の矢をトリガーの操作で射出します。


「サーチ・ミスリル銀……。」

「えっ、サーチって?」

「サーチは何かを探すときに使う魔法よ。こういう未踏破のダンジョンが残っているということは、みんな知らないんでしょうけど。」

「知りませんでした。」

「人に荒らされていないダンジョンには魔鉱石やミスリルが大量に残っているはずですから、ミスリルでサーチしてるの……あったわ。でも、この方向だと海ね……。とりあえず行ってみましょう。」


 ミーシャに指示して、スカイボールを南東に向けて飛びます。


「あの島みたいね。無人島かな。」

「大陸から30分くらいですから、誰も来ないですよ。こんなところまで。」

「そうみたいね。あの岩山の向こうに反応があるわ。」

「お、お嬢さま!あれは……。」

「すごい!ドラゴンね!初めてだわ。」

「き、危険です。帰りましょう……。」

「何言ってるの。こんな貴重な素材を見逃すなんてありえないわ。」

「あっ、口を開けて……、きゃあ!」


 ドラゴンは口を開いてこちらに向けて威嚇し、口の中に赤い炎みたいなものが見えたので、私は咄嗟に魔力を放った。


「な、何が……。」

「ブレスかしら。赤い炎が見えたので、魔力を射出してみたの。」

「……完全に死んでいるみたいですけど。」

「とりあえず、降りて確認しましょう。」


「やっぱり、竜の魔力で魔法……というか、ブレスって魔法と同じなのかな……をぶつけると、魔法回路が壊れるみたいね。人間で試さなくて良かったわ。」

「実験台にならなくて良かったです。」

「すごいわね。二足歩行タイプで前足は小さいわね。この口は完全に肉食獣のものよね。」

「おとぎ話に出てくるドラゴンみたいですね。色は濃い緑色で、全身に鱗。」

「体高は8mくらいかしら。こんなの捌いてくれるところ、あるのかしら?」

「えっ、持って帰るんですか!」

「当然よ。これなら良質の魔法石間違いなしよ。それに、ドラゴンの肉は美味しいらしいわよ。」


 そう。初代であるフリード・キングの記録によれば、ドラゴンは肉を始めとして、皮や牙・内臓にいたるまで貴重な資源なのだと記録されています。

 私はドラゴンを倉庫に入れて、移動式ベンチを取り出します。


「何ですかこれ……。」

「スカイボールの外装を取り払ったものよ。この場面にピッタリでしょ。」

「えっ、まさか……帰らないんですか……。」

「こんな楽しい場所はないわ。ちょっと待ってね、魔法式を書き換えて、氷の矢と切り替えて氷の槍を射出できるようにするから。」

「えっ……。」

「それと、シールドに炎と冷気も加えて……できたわ。行きましょう!」

「どこへ……。」

「決まっているじゃない。島の中でドラゴンを探すわよ!」


 私はこの島をドラゴン・アイランドと名付け、探索を開始した。



【あとがき】

 スコップと内容的にかぶってきましたね……。

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