第14話 偽契約魔法

「物流都市ですか。面白そうなアイデアね。」

「ええ。両国の商業ギルドを中心にお店を開いて、興味のある産品はそこから発注するようにします。」

「お店は原材料から加工品まで、展示を兼ねた小売りも行うのね。」

「それと、滞在を楽しんでいただくために、海で遊んだりゆっくりできる施設を考えていきます。」

「どんな?」

「大きな船を作って遊覧したり、釣りをしてもらったりするんですけど、波乗りも遊べますし、大浴場を作ってマッサージを受けられるサービスも面白いと思っています。」

「マッサージねぇ……。」


 お母様はまだギリギリ10代なので、マッサージといってもあまり興味はないのだろう。


「ギルマールには、肌に良いオイルがあるらしくて、浜辺でそれを塗りこむマッサージが流行っているようですよ。」

「肌に良いオイル?」

「詳しくは聞いていませんが、肌がしっとりとする効果があるみたいです。」

「まあ!そんなオイル、聞いたことがなくってよ。」

「我が国にも美白オイルというのがありますよね。両国のそういった美容の知識を合わせれば、貴族のご婦人に興味を持っていただけるのではないかと思いますけど。」

「そうね。香水などもあったら喜んでいただけると思うわ。」


 このアイデアを領地会議の承認を得たうえで、ギルマール王国へ打診することとなった。

 その前に、両国王都の商業ギルド長を呼んで下話をしておきます。

 ライムさんの後任として着任したシルビアさんとマナさんにも同行してもらっています。


「面白い発想ですね。商業とマリンリゾートと美容ですか。」

「王都からの定時便を提供していただけるのなら、ギルマールとしては大歓迎ですよ。」

「ティアランド側としてもメリットしかありませんね。全面的に協力させていただきます。」

「それにしても、何で中心になるのがエルフの娘3人なんでしょうかね。」

「私たちなら気心も知れていますし、十分な連携が取れますからね。」

「そうですわ。三人で、誰も見たことのない町を作っちゃいましょう。」

「ティアランドへギルマールで流通している魔道具を全部取り込んで見せますわ。期待していてください。」

「ちょっとマナ。今回、魔道具は関係ないでしょ。」


 ギルマール王国商業ギルド長が国王との謁見を調整してくれるということで、私は候補地を探してみる・

 それなりの広さがある平地で、海に面している場所。

 候補地は一か所しかありませんでした。

 重力魔法で中央付近に道を作り、砂浜はそのままにして磯の部分を港に作り変えていきます。


 その間に、ギルマール王国で作ってもらった船5隻を受け取り、船尾に水流発生魔道具を設置。

 ミスリルの配線をした上から、鉄で外装をコーティングしていきます。

 船室には魔導コンロや魔導水道も取り付けて、簡単な生活空間を作りました。

 船尾にはアームを設置し、網の制御をさせます。これで、網を海中に広げて航行すれば、魚を捕獲可能となります。

 ついでに、魔導波乗りボードも作っておきます。これは、最高時速30kmの水流発生装置を取り付けたオモチャですね。


 ギルマール王国商業ギルド長は、事前に国家戦略会議とかいう会議で今計画の概要を説明し内諾を得ているとのことで、すんなりと謁見の日程が決まりました。

 私とお母様とミーシャ、それからライムさんとティアランド商業ギルド長の5人はギルマールの王都に移動し、謁見の対応にあたります。


「ティアランド王国ヒーズル領主のサラ・フォン・ジェラルドにございます。陛下におかれましては、お忙しい中ご拝謁の機会をお与えくださり、まことにありがとうございます。」


 母の挨拶で始まった謁見式は、そのまま会議へと移行し、これまでに調整されてきた内容が確認されました。


「では、今回確認された内容をまとめましたので、同意書として保存しておきたいと思います。内容をご確認いただいてご署名をお願いいたします。」


 ギルマール王国宰相と名乗った人が書類を、両ギルド長が確認し、国王に回して署名させす。

 その書類がお母さまの元に回ってきたので、署名しようとするお母さま。


「お母さま、お待ちください。」

「リサ、どうしたの?」

「書かれている内容は確認されましたか?」

「ええ。内容に問題はないわ。」

「どうしたのかな、お嬢ちゃん。」


 宰相が嫌らしい声で問いかけてきます。


「この中に、法律に詳しい方は同席されていますか?」

「……法務大臣のキヒトと申しますが。」

「では教えてください。偽契約魔法をご存じですか?」

「偽契約魔法ですか?はて……。」


 お嬢ちゃん、大人の話に首を突っ込まない方がいいですぞ。

 少し、声が荒々しくなってきている。


「マーリンの生きていた時代に問題となった魔法で、特に国家間の取り決めや契約で大きなトラブルが幾度も発生しました。」

「マーリンの時代ですか。」

「そのため、当時の大国の王達が集まり、偽契約魔法の全国的使用禁止に合意し、共有された罰則は地位・照合はく奪の上財産を没収し、北の流刑島に送る……とされ、憲法に記載する事となったはずですが。」

「わ、わしは……何も知らんぞ……。」

「憲法……流刑……、おお、我が国の憲法にもありましたぞ。」


 法務大臣が厚い本を見ながら、確認したと声をあげた。


「特殊なインクを使うこの魔法のやっかいなところは、解除してしまうと何の痕跡も残らないことで、被害者が声をあげても無視されてしまう事が多かったんです。つまり、加害者が王族や力のある貴族。」

「知らん!宰相が勝手に!」

「衛兵!その子供を黙らせろ!」

「ライム。」

「はい。」


 こちらに近寄ってきた衛兵が床に押し付けられてうめき声をあげている。

 ライムが重力魔法で倒したのでしょう。


「では、法務大臣。この同意書をご確認ください。」

「はい。先ほど確認された内容で間違いございません。」

「そのまま、同意書を見ていてくださいね。」


 私は同意書に施された魔力パターンを解析して、魔法を解除していきます。


「な、……これは……。」

「どうなりました?」

「内容が変わってしまいました。……ヒーズル領主が、領地および資産をギルマール国王に譲渡すると……。まさか、このような魔法だとは……。」

「ふざけるな!今、そのガキが何かしたんだ!そうに決まっている!」


 宰相の声が虚しく響く中、二人は衛兵に連れられていきます。


「今回確認された程度の内容であれば、両ギルド長の合意で問題ないでしょう。」

「確かに。」

「国王と宰相の関与は明確ですから、あとは国内の問題として処理いただいて結構です。」

「本当に申し訳ないことをいたしました。寛大なお心に感謝いたします。」


 代行として議事を進行してくれた国務大臣さんがまとめてくれました。

 国としては了解したので、これ以降はヒーズル領主と両ギルドで進めるとの確約も得られています。


 ヒーズル領の物流エリアは、バザールと名づけられ、少しづつ整備を進めることになりました。

 草原を整地し、商店兼住居を立てるために大工を雇い入れ、バザールと両国王都の商業ギルドを行き来するトランスポートも運航を開始。

 領内の人口も急速に増加していきます。


 小さな漁村にもフィッシュポートと名前がつけられ、人も船も増えて王都への輸送便も軌道にのっているようです。


 こうして私は3才の春を迎えました。



【あとがき】

 これまではミーシャに抱かれて移動していましたが、次回歩き始めたリサです。

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