前世ルーレットの罠〜謀略〜

海乃マリー

蟲の謀略

「おい。例の前世ルーレットはもう仕掛けたか?」


「モチロン。輪廻の神にも気付かれてない」


ワレらは蟲族ムシゾクだ。人間のネガティブな感情をえさとする。


『恐れ』や『不安』は闇深くて美味だし、『ネタみ』なんて駄死ダシが効いてて最高だ。


人間共は生かさず殺さず。ワレら蟲族の栄養源を生み出し続ければいい。


人間は放っておくと、成長したいだとか、愛だとか、ワレら蟲族にとって禍々まがまがしいことばかり考えヤガルから、みんなまとめて恐怖の淵に突き落としてやろう。


その為に【前世ルーレット】の罠を仕掛けてやった。


内容はこうだ。


人間は誰でも何かしらの罪を犯している。前世の罪から学んで成長するなんてもってのほか。


そこで、ワレらが開発したこの【前世ルーレット】の出番。

前世の犯したいくつもの罪をルーレットにかけて、当たった罪を次の生ではより増幅した形で味合わせてやるという仕組みを仕掛けてやった。


輪廻転生の仕組みを巧妙に利用したから、今のところ輪廻の神にも気付かれずにこの仕組みは機能している。


そいつにとっては大弱点である前世の罪を増幅させて、次の生でも恐怖におとしいれ自滅に追いやる算段である。


説明が長くなったが、今回のターゲットはコイツ。


中河原奏なかがわらそう

前世では虐められて自殺した。前世ルーレットにより、もう一度イジメに合う人生を繰り返すと思いきや、運命が反転してイジメる側の全ての資質を携えて生まれ変わった。


イジメるも地獄。イジメられるも地獄。どちらも同じ穴のムジナだ。どちらに転がってもネガティブジュースはたんまり確保できるだろう。



中学に入ってから、苛立つことばかり増えた。学校も勉強も面倒くせーし、部活では先輩に目を付けられるし、クラスメイトは馬鹿ばっかだし、やってられねー毎日。親は高圧的で勉強のことばっかり言うし、逆らえば殴られる。世間体ばかり気にする両親にもうんざりだった。


あまりにもイライラすることばかりだったから、気晴らしにクラスで地味めのヤツを虐めるのが奏の日課になっていた。


最初は軽い気持ちだった。ちょっとからかうとかそんな感じ。でも、繰り返すうちに虐めることが段々と快感に変わり、エスカレートしていった。



友希ともきは幼稚園の頃からの幼馴染みだった。放課後の遊びもサッカーなどの習い事も全部一緒だった。


中学に入り、俺は男らしく身体もデカくなったけれど、友希は背が低く、顔も女みたいで弱々しかった。そして、優しすぎる。争い事が大嫌いで弱虫。ほとんど俺の言いなり。


……だと思ってたのに。あの時、生意気にも歯向かってきた。



その日は、大人しくて内申ばっか気にしてそうな真面目くんを裸の刑にしてやった。


「中河原くん、やめてよ」


俺とイジメ仲間の三人で、体育準備室で泣き叫ぶ真面目くんのズボンを脱がせハサミで切ってやった。手足をしばって、体中に落書きしてやった。


その時、突然、友希が入ってきた。


「奏、何やってるの? こんなことやめて」


友希は身体が小さいくせに、たった一人で俺ら三人に立ち向ってきた。自分が注意を引き付けている間に真面目くんを体育準備室から逃げるよう促した。


「友希、邪魔するな」


俺がそう言うと同時に、仲間の一人が友希に殴りかかった。身体の軽い友希はあっけなく吹っ飛んだ。


「代わりにこいつやっちまおうぜ」ともう一人の仲間が言った。最初こそ、友達の友希に手をかけるのは気が引けたけれど、正義を振りかざし歯向かってきた友希への苛立ちがどんどん膨れ上がってきて、止められなくなった。


俺に逆らった友希こいつが悪い。



ワレら蟲族は肉体を持たないので人間アイツラからは見えないし、重力からも自由。斜め上の空中から奏の悪の所業を観察していた。


奏は前世イジメで自殺しただけあって、無意識領域まで恨みで満ちていた。前世の恨みまでを晴らすかのように、今はイジメのターゲットとなった友希をイジメ抜いている。


ワレら蟲族にとってイジメや争いで満ちたこの世界は極楽である。もっと苦しめ。もっと旨い汁を創レ。



「奏、気に入らないなら僕を殴れよ」


「ははっ。もう、殴ってら。お前昔からいつもいい子ぶってて気に入らなかったんだよ」


「僕は奏が誰かを傷付けるのを見たくない」


「何言ってるんの?」


俺は友希の頬を思い切り殴ってやった。それでも友希は引かなかった。強い視線で俺の目を射抜くように見つめてくる。内側まで見透かされるような真っ直ぐな瞳の光。


「奏とまた一緒に笑いたいだけなんだ」



ワレは蟲族。友希の光がみるみると奏を包み込み、闇と悪意の気配がシボんでいくのが見えた。


なんてことだ!


「これは、友希の光の方が強いですな」


輪廻の神らしき者が話しかけてきた。


「ななっ、ナンだ。お前は」


「お前達が今認識した通りの者だ」


「何シニ来やがった?」


「別に。ただお前達に教えてやろうと思ってね。前世ルーレットなんてお前たちの意図も何もかもが全て折り込み済みなのだよ」


蟲族は光に耐えきれず、一時退散を余儀なくされた。





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