『いんたーねっと』の中の貴方へ
ジャック(JTW)
第1話 パソコン教室に来た老婦人
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「ごめんください。こちらは、篠宮パソコン教室でお間違いないでしょうか?」
寂れた街の片隅にある、小さな家族経営のパソコン教室。そこに、上品な和装の老婦人がやってきた。
彼女の名前は
彼女は、今までパソコンに触れたこともない人生を送ってきたという。
そんな初枝が何故パソコン教室の門を叩いたかと言うと、そこには大きな理由があった。
「……先月、夫の
「それは、……御愁傷様です」
パソコン教室の講師をしている篠宮家の長女、
「くも膜下出血で、突然のことでした。直前までとても元気だったのに……。今でも、亡くなったのが信じられないくらいです」
初枝はそう語って俯く。
彼女の左手には、鈍く輝く結婚指輪が嵌っていた。
「……私と違って夫は、機械類の扱いが得意で。亡くなる直前まで、『小説投稿さいと』というものに登録して、小説を書いていたようなのです。ろぐいん? しなくても見られるから、読んでほしいと常々言われていたのに、私、ぱそこんのことがよくわからなくて、後回しにしてしまっていたのです。夫は不慣れな私のために小説を印刷してくれようとしていたのです。私、とても楽しみにしていたのですが、そんな矢先に夫が亡くなって……」
そこまで言って、初枝は目に涙を浮かべる。
「私、夫が書いた小説が、どうしても読みたいのです。……ぱそこんのこと、何もわからなくて申し訳ございません。ですが、学ぼうとする意欲だけは人一倍ございます。月謝は前払いでお支払いします。どうか、私に、ぱそこんの扱い方を教えていただけないでしょうか」
初枝は、篠宮綴に縋るような眼差しで告げた。
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篠宮パソコン教室の主な受講者層は、五十代以降。職場でパソコンが導入されたが、使い方がわからない人。基本的な操作を学びたい人。ワードやエクセルを使えるようになりたい人など、目標や目的は様々だ。
歳を重ねてから、新たなことに挑戦しようとする方々は多くいる。
しかしその中でも、八十歳という年齢でパソコンの扱いを覚えようとする人は珍しかった。
だからこそ、篠宮綴は、初枝の力になりたいと強く思った。
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篠宮パソコン教室に務める講師の篠宮綴は、教員免許を持っている。幼い頃から教職を志し、実際に教師として働いていた時期もある。
しかし、教育現場の過酷さに精神と肉体が疲弊した結果、数年後、教職を辞して実家に戻ることになった。
そんな挫折と苦しみを経て、篠宮綴は実家の両親が営む篠宮パソコン教室で働くことになったのだ。
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パソコン教室には、様々な事情を抱えた人々がやってくる。新たな分野や知らない世界に挑戦するのは、心理的にも経済的にも、負担の大きなことだ。
それでも、何とか努力しようと一歩踏み出した初枝が、篠宮パソコン教室を訪れてくれた。その事実を、何よりも篠宮綴は嬉しく思う。
その歩みの偉大さと、必要になる大きな勇気を、一度大きな挫折を味わった篠宮綴は知っている。
そんな篠宮綴は、初枝に向かって微笑みかけた。
「勿論、大歓迎です。この教室には、初心者の方も沢山通われているんです! 一緒に頑張りましょう!」
そう篠宮綴が声を掛けると、初枝は嬉しそうに笑顔を浮かべて、何度も何度も頷く。
「よろしくお願いいたします、篠宮先生」
初枝は深々と頭を下げて、最敬礼のお辞儀をする。
その佇まいや仕草からは、初枝の深い教養と洗練されたマナーが感じ取れた。
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【追記】5/23 23時30分 設定ミスの修正を行いました。
『夫は不慣れな私のために小説を印刷してくれようとしていたのです。私、とても楽しみにしていたのですが、』と追記いたしました。
物語が破綻するレベルのミスをしてしまっておりました。プリンターの存在を忘れていました……ありがとうございます……!🙏
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