前世ルーレットの罠

維 黎

賭ケル

 カラカラカラ。

 カラカラカラ。

 巡る。

 巡る。

 廻る。

 廻る。


 回転盤ホイールを飛び跳ねるは魂魄の白球。

 其は巡り廻る流転のことわり。

 前世へ転じて生を得る。


 それを手にした男は良運たる悪運の持ち主か。

 それとも悪運たる悪運の持ち主か。

 超文明オーパーツと呼ばれるもの。

 魔導具アーティファクトが一つ。

 名を"ウルディアンルーレット"。


 前世かこ現世げんざい来世みらい

 三世の女神が一柱、前世を司る神ウルドの名を冠するその魔導具アーティファクトは前世へと転生させる運命の遊戯具フェイトフルデバイス


 これの使用者は生を終える瞬間、36種の前世の中からランダムで一つだけを選び出し転生することが出来る。

 己が魂魄たましい白球ひとだまとして36種の前世が並ぶ回転盤ホイールへと投じる。


 ある者は莫大な富を。

 ある者は大いなる名声を。

 ある者は絶大なる権力を。

 ある者はささやかながらも満ち足りた幸福を。


 現世を憂い、呪い、疎い、絶望した者が希望に満ちた前世にすがって廻す音に聞こえし願望機。


 男は現世を憂いていない。呪っていない。疎んでいない。絶望もしていない。されど遊戯具ルーレットを廻す。

 男は現世で満足していなかった。

 足りない。

 足りない。

 足りない。

 

――コロシタリナイ。


 しくも男が殺したのは老若男女合わせて36人。

 お尋ね者ウォンテッドとなった男は賞金稼ぎバウンティーハンターに追われ、今、現世での生を終えた。


 どこからともなく、どこにということもなく回転盤が現れ、白球と化した男が回転盤を飛び跳ねる。

 

 カラカラカラ。

 カラカラカラ。

 巡る。

 巡る。

 廻る。

 廻る。


 カラ――ン。


 男は入った先がどんな前世だろうとまた殺すと決めていた。

 白球から元の姿へと戻る。


「――何だ?」


 前世へと転生を果たしたならば赤子として生まれ変わると聞いていたのに。

 男は足元を見る。

 闇よりも昏い闇――虚無ゼロ

 

 ズズッ。

 ズズズ。


 「うぉぉぉぉぎゃぃぃぃやぁぁぁぁぁっぁ!!!」


 足先から沈むたびに現世このよでは味わうことのない恐怖と苦痛が男を襲う。

 その身が生身ならばショック死という救済により苦痛から逃れることが出来ただろう――が、男はすでに死んでいる。

 

"ベルダンドポーカー"。

"スクルダイス"。

 数ある運命の遊戯具フェイトフルデバイスのどれをとっても必ず死神どうもとが得をするようになっている。功名に隠されたトラップのように。

‶ウルディアンルーレット″では37種目の虚無のポケット――死神の回収ハウスエッジ


 男の魂魄は転生することも、生まれ変わることも、消滅することもなく未来永劫虚無ゼロに止まったまま。




――Would you bet?




――了――

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前世ルーレットの罠 維 黎 @yuirei

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