第26話 5人目のお客様(後編)

 放課後に、わたしの家に集まる。


 相変わらず、お母さんは目ざとく気づき、お茶とお菓子をもってきてくれる。


 そして、いかにも『ふ〜ん』と言った顔でスージーを見ると、「ごゆっくり〜」と言って出て行った。


 しばらくは、エマに魔法の基礎についての授業をしてもらう。生徒はスージーだ。


 スージーは悪態をつきながらも熱心に聞いている。


 わたしは、2人の様子を横目に、エマに報酬の魔法書を先払いしてもらって、読みふける。


 それによると「素敵な夢を見る魔法」は、精神干渉系の魔法だ。だから、正確には「素敵な夢を見せる魔法」なのだと思う。

 

 睡眠中の被術者の精神に干渉し、その者が理想とする夢を見せることができる。術者は夢の内容について、ある程度のコントロールはできるが、振れ幅には限界があるらしい。


 これって、振れ幅を大きくできれば、相手の心を壊せるんじゃ……いかんいかん、気づけばまた物騒なことを考えている。



 暖かい部屋に、人の話し声。

 そして、紅茶のいい匂い。

 

 わたしはいつの間にか寝てしまったらしい。


 夢の中のわたしは、大好きだったお爺ちゃんに頭を撫でられている。


 いつもわたしを笑顔で褒めてくれたお爺ちゃん。わたしが何かやらかしても、わたしの代わりに謝り、そして仕舞いには「お前は偉い!」とわたしの頭を撫でてくれた。



 ……。


 「だから、魔法を発動させるには〜」

 「そこ、わかんないんだけど?」


 目の前では、まだ授業が続いている。

 わたしは寝ぼけ眼を擦る。

 なんでこんな夢を見たのかな。


 2人が帰った後、夕食をとりながらお母さんと話しをした。

 

 スージーは、帰り際にキチンとお母さんにお礼を行って帰ったらしい。お母さんは、すごく礼儀正しい子だと言っていた。

 

 へぇ。

 意外だな。


 「でもね、お母さん。スージーは学校だと意地悪なんだよ」


 「そんなものよ。嫌なお客さんでも、家族といる時には、すごく良い人な場合もある。丸ごと嫌な人間なんてなかなかいないものよ」


 そんなものなのかな。



 次の日もソフィアの家に集まる。

 またお母さんがお茶を持ってきてくれた。


 たしかに、スージーはキチンとお礼を言っている。わたし達が見ていたのは、スージーの一面にすぎないのかもしれない。

 

 魔法の授業がキッカケで思いついた魔法があった。


 それは、2人の合体魔法だ。

 

 発動のトリガーは2人の平均値がとられるので、魔力の低い人がいても、もう1人が補うことができる。ただし、息は合ってないといけない。


 エマの授業がひと段落したので、わたしは合体魔法の話しをする。


 2人とも最初は半信半疑だったが、わたしが仕組みを説明すると、しぶしぶ練習に付き合ってくれることになった。


 何度か試したが、上手くできない。

 

 詠唱と魔力を高めるタイミングが完全にリンクしなければならないのだ。これは、思った以上に難しい作業かも。


 1時間くらいやってみたところで、エマは疲れてしまったらしい。


 「ねぇ。ソフィアちゃん。これ無理だと思う……」


 すると、スージーが意外なことを言った。


 「こんな中途半端なままって、嫌じゃない? もうちょっとやってみよーよ」

 

 わたしとエマは目を見合わせてしまった。

 

 『こんなところもあるんだねぇ』


 そのあと、何十回も失敗した。

 もう外は暗くなってしまい、今日は終わりにしようと思った時、それは起きた。


 「「ニつ星の春風(ツインスター•スプリングブリーズ」」


 2人の前に敷いた図面がまばゆく光る。

 そして、フワッと熱いくらいの風が吹いた。

 

 1人より確実に熱量、風量ともに強い風だった。


 スージーの瞳がキラキラする。


 エマとスージーは手を取り合って飛び跳ね、喜びを分かち合った。そして、目が合うと、パッと手を離した。


 もう時間が遅いので、お母さんの提案で、2人ともウチに泊まっていくことになった。


 スージーとエマは、お母さんの夕食の準備を手伝っている。

 エマは野菜の皮を剥き、スージーは野菜を切っている。煮込みが終わると、エマが味見をして、スージーが盛り付ける。


 なんだ。

 2人ともいい子ではないか。


 わたしより、よっぽど女子力が高いぞ。


 ……。

 わたしも何かしないといけない気持ちになり、お皿を並べてみる。


 ガシャン!!

 お皿を割っちゃった。


 慣れないことはするもんじゃないらしい。

 お母さんはニヤニヤする。


 「娘が増えたみたい。ソフィアも普段からお手伝いしてくれたらいいのにね〜?」


 「ううっ。すみません。これからは頑張ります……」


 その後は、みんなでご飯を食べた。

 なんだか、ウチで友達とご飯を食べていることが不思議で。しかもエマとスージーとだよ。


 ……とても楽しかった。

 

 夜になって、3人で寝る。

 色んな話しをした。


 2人とも思ったよりも、わたしと変わらないんだな、と思った。


 2人が寝静まった頃。

 わたしはトイレで起きる。


 すると、スージーが寝ながら涙を流していた。


 「兄様……」

 寝言かな。

 

 わたしは、その様子を横目に一旦通り過ぎた。

 ……でも、やっぱり気になって戻る。


 そして、スージーの額にキスをすると呪文を唱えた。


 「「五芒星の幻影(ペンタグラム•ファントム)」」


 良い夢見てね。


 覚えたての夢の魔法だ。

 こういう使い方。

 ほんとはいけないのかもだけれど、いいよね?



 次の日になる。

 わたしは、なんと。

 風邪を引いてしまった。


 2人は心配そうにわたしのことを何度も振り返り、そして帰って行った。

 

 スージーは昨日よりもスッキリした顔をしていたな。


 今日の発表はエマとスージーの2人に任せることにした。今の2人ならきっと大丈夫だろう。


 わたしは、家でのんびりする。

 皆んなが学校に行っている時に、1人でいる優越感。


 でも、昨日は3人でワイワイしたこの部屋には。今はわたしだけしかいない。



 今日はちょっとだけ、肌寒くて心細い。



 あ。そうそう。

 子供の頃のわたしの依頼。


 ねぇ、ねぇ。わたしの中のわたしさーん。

 聞こえてる〜?


 ちゃんと依頼は果たせたかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る