主人公の濃厚な体液を貪りたいヒロインたちは魑魅魍魎の力を宿してる、ヤンデレ、ハーレム、和風ファンタジー

三流木青二斎無一門

第1話


此処では無い何処か。

極東の位置。

矮小な島国・中ツ籠の国には、魔物が出現する。

人はそれを、魑魅魍魎もののけと言う。


「クソ、なんだ、この魑魅魍魎もののけはッ!」


夜。

魑魅魍魎が活発とする時間。

任務に強制参加された『武人』達は狼狽していた。

魑魅魍魎、その情報よりも、量が多い。

当初、十体程だと聞いていた。

だから、二十名の武士が派遣されたのだが。


「数が多い、捌き切れない!!」


闇の中で蠢く影。

赤い瞳が八つ、武人を睨み牙を剥く。

蜘蛛型の魑魅魍魎が、軽く見積もって百体居た。

刀を振るい、武士たちは魑魅魍魎と戦闘をしていく。

数の多さでは、圧倒的不利。


「ぐああッ!!」

「く、食うな、俺、俺のからッぎゃああッ」

「ち、畜生、倒せ…倒すんだァ!!」


数の暴力により、二十名の武人は簡単に彼らの餌となる。

当然だろう、武人とは寄せ集めの若人衆。

単体では最小の魑魅魍魎にすら手古摺る雑魚なのだ。

それを、その場にいる全員は理解している。


「(数が多過ぎる、…階級の低い『武人』じゃ無理だ)」


彼も…影明かげあきらも同じ様に理解していた。

複数の武人の中、一人だけ魑魅魍魎から狙われていない。

背を向けた魑魅魍魎に向けて、致命傷になる部分に刃を押し通す。

存在すら知覚されない、影の薄い青年は仲間が喰われていく様を見ていた。


「(『武士』級…いや、『武将』級の位じゃないと…)」


青年の所属する組織。

魑魅魍魎もののけを討伐する武闘派集団猛能之武もののふ

最低階級の武人から始まり、武士、武将、武神を以て最高階級とする。

蜘蛛型の魑魅魍魎は弱いが、数の多さから武将級で無ければ対処は難しいだろう。

戦力が一つ、また一つと減っていく。

それに応じて士気は下がっていく。

自らの身体の熱が冷めていく感覚。

仲間が喰われる音、その絶叫。

闘争の意思は削がれ、武人としての誇りはカタチも無く崩れ去る。


「もう…もう嫌だ…死にたくないィ!」


刀を投げ捨て、逃げ出そうとする。

その一人の武人の行動を嗜める声が挙がる。


「待て、逃げるな…逃げたら、ダメだ!!」


逃げた武人の前。

其処には先回りした蜘蛛型の魑魅魍魎が蠢いていた。

彼を喰らおうと口を開いた時。

瞬間、上空から落ちる射出物によって、蜘蛛型の魑魅魍魎の胴体を貫いた。

それは、敵を屠る一撃であり、仲間に向けられたものでは無かった。


「な、なんだ?」

「み、味方…か?」

「味方、だと?別の武人衆が派遣されたのかッ!」


一人の武人が確信して叫んだ。

この時、一時的ではあるが、彼らの士気は僅かばかり上がった。

味方が来たと言う事は、それだけで生存する確率が跳ね上がる為だ。


「じゃ、じゃあ…助かった…のか?」

「俺達は、生き残っ…あ」


生き残れる。

そう喜ぼうとした最中。

彼らの表情は、森林の奥から悠然と歩く彼女の姿を見て凍り付く。


「あ、あぁぁ…」


優雅に華麗に、高価な着物を纏う彼女は銀色の髪を靡かせる。

精巧な人形の様に整った容姿を持つ彼女の微笑みは誰が見ても魅了されてしまう。


「まあ、皆様方」


上品な口調で彼女は、此方を向く武人たちに声を掛けた。

それは即ち、魑魅魍魎が居ない方向への移動。

つまりは、逃亡を意味する行為だ。


「敵を目の前にして逃げるとはどういう教育をしているのかしら?」


言葉には似合わない笑み。

それを受けた者は背筋が凍り顔を強張らせる。


「ひ、ひッ!!」


言葉すら口に出来ない。

彼女の美しい容貌には、曰くが付いているからだ。

流し目をしながら、別の武人に顔を向ける。

この状況を誰でも良いから説明して欲しいらしいが…。


「簡潔に、お話して下さる方はいらっしゃいますの?」


彼女の言葉によって恐れが優ると刀を投げ捨て地面に頭を押し付ける。

詫びを入れる為に、その武人は土下座をした。

逃げると言う行為が、重罪である事は承知の上だったからだ。


「ひぃいい!!」

「たすけて下さい!!」

「お願い、致します」

「どうか、どうか…!!」


彼女は…話を聞く姿勢はあった。

だが、余りにも彼らの姿が癪に障った。

だから、彼女は声を作る事と敬語を止めた。


「だから…あぁ、もう良いわ」


尾骶骨より上の部分。

其処に一振りの刀を差している。

その刀を彼女は引き抜いた。

実戦に使用する刀にしては丁寧に拭き取られた刀身だ。

いや、その輝きは宝石の類に近い。

武器では無く、儀式に使う様な刀にも見える。

それを彼女は引き抜き、逆手で持つ。


「人語が理解出来ないのなら、テメェらなんざ要らねぇよ…『弓啼天鴉きゅうていあまがらす』」


刀の銘を口にすると共に。


「ん…あっ、くっぅ」


彼女の体内に一振りの刀が下腹部に挿入する。

切腹の様に見える行為だが、しかし彼女に苦悶の表情は無い。

むしろ、恍惚とした表情すら浮かべている。


夜であると言うのに、彼女の肉体が輝き出した。

まるで星が大地へと落ちたかの様だ。

そして、彼女の腰元から白銀の翼が生え出す。

銀色の鋼、刃の様な鋭い切っ先を尖らせた羽根が生えた翼だ。


「い、ひ…ひひッ」


歪に艶美に彼女は恍惚と笑う。

艶めかしい表情は欲情を誘うものがある。

だが。

彼らには別の脅威としか認識出来ない。

怖れを覚える彼らは、彼女を魑魅魍魎バケモノ同様に恐れた。


「に、逃げろッ」

「何処に、逃げ場なんてッ」


逃走しようと体が動く武人たち。

だが…その行動は処罰の対象として認識される。

風を切ると共に、白銀羽根が武人の腹部を貫いた。


「ぎ、あッ!!」


彼女の翼が開かれる。

数多の白銀羽根の切っ先が、魑魅魍魎と、武人たちに向けられた。


「根性の無い雑魚オス共がよォ…」


舌を鳴らす。

それと共に白銀羽根が射出される。

白銀羽根が飛び出すと線が細くなる。

杭の様に、鏃の無い先端が尖った矢の様に変わる。

そして、そのまま無差別に矢の雨が射線に存在する者たちに向かって突き刺さる。


「やめで、ぐヴぇァ!!」


体を串刺しにされる。

蜘蛛型の魑魅魍魎は奇声を上げ、赤黒い血を撒き散らしながら蠢く。


「うっぜーんだよ!!」


白銀の矢の威力は凄まじい。

森林地帯、木々が生える空間。

軒並みに生えた樹木が射線を遮る。

だが、その威力は、樹木を貫通して肉体を貫く。

弾丸よりも強力な一撃を秘めた白銀羽根。

それを、彼女は大した労力を掛けずに決行が可能だった。


「バケモンもオスも、ぜんぶ、ぶッんじまえッ!!」


頬を吊り上げる。

邪悪な笑みを浮かべる。


「きゃはははッ!」


両手を開き、跳ねる血の飛沫から花を連想させた。


「やっぱりぃ、この私には、黒と赤の花が良く栄えるッ!!ドス黒い汚ねェ体液ブチ撒けて死ねやクズ共ォ!!きゃーはっはッ!!」


弾丸の雨。

絶え間なく射出され続ける。

そして…彼女が認識出来る限り。

その周囲には、敵味方の全てが殲滅された事を確認出来た。

彼一人を除いて。


「(敵味方構わず、己の妖術で殺し尽くす)」


彼女…武将級の背後。

樹木の影に隠れている…影明。

彼は彼女の攻撃を避ける事が出来た。

いや、その言い方は適切では無い。

乱雑な矢の乱打。

しかし、その殆どは敵と味方に集中されていた。

邪魔な木々を撃ち、破壊する事も加味すれば、彼女の攻撃は無差別に見えながら正確とも言えるだろう。

だから…影明は、敵と味方、視界の邪魔となる木々に向けられた矢だけを注意して、射線から外れる事が出来たのだ。

声を漏らす事無く、呼吸を整えながら彼女の背中を見る。


「(『残虐姫』、射累々いるる天呼てんこ…戦場なら、絶対に逢いたくない人、鏡刃を持つ者)」


鏡刃ウツシタチ

それが彼女の力と異名の根源だ。

魑魅魍魎は人を喰らい、人を呪う為に存在する。

そんな魑魅魍魎を討伐し続ければ、穢れが討伐者に巡る。

それは呪いであり、肉体を穢すもの。

しかし、その呪いを避ける方法がある。

それが鏡刃。

この刀が写すのは使用者自身。

所謂、写し身であり、刀が傷つけば身も傷つく。

だが、その分、使用者に積る穢れを刀が肩代わりする。

一度契約すれば、使用者は鏡刃であり、鏡刃は使用者である。

同一として扱われるが故…刀自体と混じる事が可能。

鏡刃と混じり、呪いを我が身に写す事で、魑魅魍魎の力を我が物として混ざるのだ。

その領域に至る事が出来れば、武将級として認定される。

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