untitiled

@rabbit090

第1話

 めちゃめちゃ不思議だった、考えることさえやめたくなった。

 けど、

 「いまさら手をひけない。」

 「そんなこと言わないで、もういいじゃん…何人死んだと思ってるのよ。」

 「死なないと、前に進めない程の苦境なんでしょ、じゃあ、やめたら、私かあんた、そちらかが死ぬことになるって、分かってるでしょ。」

 「分かってるよ、けど。」

 ボロボロの手、どれだけ掘り進んだのだろうか。

 けど、けど逃げ出さなくては。

 私と、彼女は、今もなお、進み続けている。

 やめたら、終わりだから。


 「今度、海に行こう。」

 「いいね、でも急じゃない?みんな予定、平気?私は、大丈夫。」

 「俺も、行けるけど。」

 「僕も行く。」

 「しずくは?」

 「私は、あの、ちょっと、予定があって。」

 「そうかあ、じゃあ、男二人と海ってことになるなあ、寂しいなあ…。」

 「…行けたら、行く!」

 「よし。」

 どうしても、行けそうになかった。というより、私はすでにこのグループを抜け出したかった。

 大学生の時に、たまたま近くの席に座っていた。ただそれだけの縁なのに、私達はずいぶんと、長いこと人生を一緒に過ごしてしまっている、そんな風に、思い始めていた。

 私には、会社で知り合った、恋人がいる。

 恋人は、私がここにいることを好ましく思っていない。

 最初は、仲いい奴らがいるなんていい、って言ってたけど、それは出まかせだったのだ。

 「………。」

 頭が、ジーンとしびれてくる。

 ここにいては、ダメだ。

 だから私は、決めたのだ。

 とか言いながら、来てしまった。

 「やっぱり来ると思った。なに?仕事に調整がついたの。」

 「うん、ちょっと無理して。」

 「そう!」

 面白そうに笑いながら、彼女はそう言った。

 他の男二人も、にこやかに笑っている。

 私達は、相性がいいのだと思う。だから大学を卒業してからもずっと、一緒にいられるのだと思う。

 「あと、どれくらい、一緒にいられるのかなあ。」

 「さあね。」

 私は、現実よりも、そこから遠く逃れた何かを、いつも選んでいる。

 だって、どうしても見たくないものなんて、見ない方がいいじゃない。

 そう思って、心に蓋をした。


 「ねえしずく、あいつら、あんたのこと、好きだって。」

 「…知ってる。でも私には、彼氏がいる。」

 「それも知ってるよ。でも、いい人、って感じじゃないよね。」

 「そんなことない。」

 そんなこと、あるはずがない。だって、私はあの人と出会って初めて、恋を知った。

 恋、というものが何かを、知ったのだ。

 それが、まさかこんなことになるなんて。

 監禁された、何者かに。

 そして、私達はそこから出ないと、死ぬのだということを理解した。

 監禁しても、何もない。つまり、食事も出さないということは、殺すための監禁、そして、男二人は、死んでしまった。

 こういう時って、女の方が長く生きるんだね、なんて言い合いながら、二人で穴を掘り進めている。

 身に覚えがあるとすれば、私の彼、だろうか。

 しかし、誰も、何も、口にしなかった。

 私は多分、大事なものを見落としていたのだろう。

 本当に、大事なもの。

 ずっと、地面を掘り進め、

 「あっ…。」

 「光だ。」

 私達は、生き続けることができる。

 その時、確信したから。

 

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