第21話 汎用世界構築マシーン
次の日の朝。本日からしばらく休みと言うこともあり、リビングでアキトがエリと共にのんびり寛いでいると、アーシェが話しかけてきた。その後ろには4人の従属神たちが並んでいる。
「アキト様。ちょっと御相談があるのですが」
「うん?どうしたの、あーちゃん」
「先ずは、先日エリミナーデ様より
「ふぇ?しとねをともにって?それって・・」
「はい。2日に一度、私共を御寵愛頂けますと幸いです」
「え?え?え?」
「そして次にですが・・」
「ちょっ!ちょっと待って!」
「はい?」
「それって・・」
「簡単に言うとハーレム開始宣言です」
「っ!?」
「良かったですね。エルフ、獣人、マーメイド、ドワーフ。選り取り見取りですよ?このこのぉ」
アーシェが俺を肘でつついてくる。4人の従属神は頬を赤らめながら俺を見つめてくる。エリはにっこりと微笑んでいる。
「今更、動揺しなくてもいいですからね。じゃあ次の話ですが・・」
「ちょっと待って!俺の心を置いていかないで」
「えぇ。それは今夜ベッドの上で話し合いましょうね。それよりちょっとアキト様にやってもらわなきゃいけない重大な話があるんです」
「うぅ・・重大な話?」
「えぇ。アキト様には以前アーカイヴの使い手が中央サークル王国にいることを説明しましたよね?」
「うん」
「アーカイヴとは人間専用アカシック・レコードといった感じで、リンクした世界儀で確認された情報を知ることが出来ます」
「うんうん」
「今後、アキト様が新世界儀で測量を進めていく際に、一気に測量済みの範囲が広がり、人間達に様々な情報が渡るのはご理解頂けますよね?」
「うん。だってその為に仕事してるんだから」
「そうですね。実はその中には人間に扱わせてはいけない情報や人間に存在がバレると絶滅する可能性のある希少生物などがいるので、アーカイヴに知られる前に手をうっておきましょうと言うお話です」
「え?人間に扱わせてはいけない情報って?」
「神様がこの世界を創った時に使用したシステムです。それを人間にいじられると最悪この世界がリセットされます」
「リセット!?」
「そうです。そのシステムを使えば、大陸の形を変えたり、資源の含有量を変更したり、森や山の配置を変えたり出来ます。そんなのがあると人間が知れば必ず自分達の都合が良い様に使用するでしょう。また、これは危険だと破壊されるのも困ります。何かあった時に神様が手助け出来なくなるので」
「そんなのがあるんだ?」
「えぇ。なので、先ずこの情報自体をアーカイヴから隠す必要があります」
「確かに個人の勝手な都合で全人類リセットはやばいよね」
「その通りです。システム自体は残さなきゃいけないので、見つからない場所に移動もしくはかなり厳重に隠蔽する必要があります」
「成る程」
「じゃあ、アキト様出かけますよ。あぁ、ギルド会員証は置いていって下さいね」
「うん」
「今回は申し訳ないんですが私からアウラ様とディーヴァ様を指定しますね。付いてきて下さい」
「分かりました」
「はい~」
「まずはそのシステムの入口に向かいます。マーキングしましたのでマップを見て下さい」
「えっと?これは海の真ん中?」
「はい。強岩支柱に細工をしてシステムが置かれています」
「そんなとこに!?」
「なので移動させましょう。行きますよ~」
「は~い」
「よろしくお願いします」
アーシェの合図とともにディーヴァとアウラがまたくっついて幸せ押しくら饅頭を形成する。嬉しいし恥ずかしいけど慣れてきた。多分本当は慣れちゃいけないんだろうけど・・エリに見られてるし、さっさと飛んだ方が良いか。うん、行こう。
転移した先には強岩支柱の姿が見えた。やはり壁のよう見える。
「え~と、アキト様こっちです。付いてきて下さい」
アーシェが先行し俺達がそれに続いて強岩支柱の岩肌にそって上昇していく。すると岩肌の巣から翼竜が次から次へと現れた。俺とアウラで対処し、そのまま上昇を続けると天井近くに穴が見えた。
「え?まさかこれが入口?」
「えぇ。ささ、中に入りましょう」
「うん」
中に入ると薄暗いライトが光る通路が続いており、その先には意外と広い空間があった。その真ん中には、世界儀のような世界を摸した球体がCGの様に空間に映し出されていた。下にはコンソールパネルがある。
「何これ?」
「神が使用している汎用世界構築マシーンです」
「はぁ?」
「主神に世界の管理を言い渡された下っ端の神は、自分なりの方法で世界を作り管理していきます。ですが、やはり神とは言え世界を幾つも管理するのは大変です。なので、こういった世界構築マシーンで条件を設定し世界を繁栄させていくのです」
「・・神様も大変なのね」
「アキト様も前世では苦労されたかと思いますが、神様は寝なくても食べなくても平気なので何日どころか何年、何十年、何百年単位で仕事を続けます」
「ブラックどころじゃない!?」
「そうです。そうなると仕事を嫌がり捨てられることを覚悟で逃げ出す神も出てくる訳ですよ。なので、こういった汎用マシーンが必要になってくるのです。しばらくほっとけますし、たまに見に来れば良いだけになりますので。アキト様も主神になったら部下には優しくしてあげて下さいね?」
「う、うん」
「で、何個も世界を創った神なら通常、上空30kmに到達するには余程文明が発展、発達しないと無理である事も理解しています。なので、モンスターの巣を近くに置いておき、入口にモンスターさえ入ってこなければ大丈夫だろうって思ったんでしょうね」
「ふむ」
「おそらくこの世界を創った神は何個も世界を掛け持ちして忙しいんでしょう。正直雑な仕事です。まさか飛行能力を持つ転生者や転移能力を持つ転生者が現れるなんて事を考慮しなかったんでしょうね。もしくは強岩支柱が破壊されないと思い込んでいます」
「・・・・・・」
「なので、こうして簡単にいじられちゃう訳ですよ」
アーシェがそう言いながら汎用世界構築マシーンをアイテムボックスに入れた。周囲が真っ暗になるがアーシェが光魔法でライトを出してくれた。
「ねぇ、あーちゃん?それアイテムボックスに入れていいの?持ち運んで大丈夫なものなの?」
「えぇ、アキト様に分かりやすく言えばスマホみたいなもんです。ただ多機能ではなく世界構築にのみ使用できるスマホと言ったところでしょうか。稼働中に動かしても全然大丈夫ですよ」
「そうなんだ?」
「なので、今度はこれを人が来るには厳しい条件のところに移します」
「ふむ。どこに?」
「海底です」
「海底?」
「えぇ、この時点で飛行能力持ちは除外されます。代わりに潜水、もしくは水魔法使いが候補に入りますが、海底2万m位になると普通の潜水能力持ちや水魔法持ちでは対応できません」
「ふむふむ」
「対応出来るのは転移能力持ちだけになるんですが、部屋を大きめに作り、その中を海水で埋めとけば転移した瞬間に水圧で死んでくれるので、あとは魚とかが住み着かないようにしておけば大丈夫かと。せっかくなのでミスリード&門番代わりにリヴァイアサンを使いましょうか。丁度良い所に居ますしね」
「リヴァイアサンが門番?」
「はい。なのでその場所をマーキングしたのでマップを見て下さい。向かいますよ」
「はい~」
「了解しました」
とまた幸せ押しくら饅頭状態となる。そのままアキトが転移すると海上に出た。周囲はずっと広い海で視界には陸地が見えない。
「ここの真下がそのポイントですね」
「分かりました~行きますよ~アウラ」
「はい、合わせますね」
2人が力を合わせると海の中に大きな穴が空き始める。
「行きましょう~」
4人でその空いた穴にゆっくり降りていくと海の中の様子が見えてくる。
「へぇ~2人共すごいね。もしかして海中散歩とかも出来ちゃう?天然水族館出来ちゃう?」
「勿論ですわ~」
「アキト様が御希望であるならいつでもお任せ下さい」
「じゃあ今度、皆で海中散歩しようね」
「はい~楽しみにしてますわ~」
「万事お任せ下さい」
「きっとエリミナーデ様も喜びますね。良かったですねアキト様」
「うん。自然の綺麗さってさ、人工物では作れないものがあるからね。テレビでしか見たことはないけど、行ってみたいなっては思ってたんだ」
4人が雑談を続けながら深く降りていく。すると海水が少しずつ暗くなっていく。
「お~、深海ってなんか迫力あるね」
「全然、人の手が入らないところですからね。どんなモンスターが出てくるか楽しみですね。にひひ」
「嫌な笑い方するなぁ、あーちゃん。何か隠してるでしょう?」
「いえ?下にリヴァイアサンの巣がある程度で特には?」
「あ~、だよねぇ。全長30kmでしょ?どんだけ大きいのって」
「で、リヴァイアサンに会ったら、話が通じますからちゃんと説得して下さいね。アキト様」
「え?話通じるの?すごいじゃん!」
「えぇ、肉体言語ってやつで会話するんです。きっと分かってくれますよ」
「・・・・・・」
更に深く降りるとようやく海底についた。すると突然穴と言う空間を形作る水の壁に勢いよく泡がぶつかってくる。
「え?なにこれ。海流にぶつかった?」
「いえ、これはリヴァイアサンの攻撃ですね。多分ウォーターブレスなんでしょうけど、流石はアウラ様とディーヴァ様が作った空間です。この程度じゃびくともしませんね」
「ふふふ~ちょっとお痛がすぎるわね~。アキト様からの大事なお話があるからこっちに来て拝聴しなさい~」
アキトを攻撃されたディーヴァは静かに怒っていた。ディーヴァが力を振るうと、遠くからものすごく巨大なリヴァイアサンが近づいてくる。恐らくディーヴァが大海蛇の時のように海を操作しリヴァイアサンの動きを封じ込めているのだろう。顔を斜めにしたまま泳ぐには不自然な格好で近づいてきた。その巨大な顔は海底にいると顎しか見えず、海洋恐怖症を発症するには十分な迫力があった。
「アキト様~どうぞ~」
「あ、ありがとう。ねぇ、君。いきなりお宅訪問して申し訳ないけど、ちょっとこの近辺に重要なものを置かせて欲しいんだ。君が守ってくれると嬉しいんだけど、無理はしなくていいからね?ずっとここにいるってのも厳しいしね。でも時々でいいから気を向けてくれると嬉しいかな」
リヴァイアサンは俺の声が届いたのかどうかは分からないけど固まったままだった。すると、
「お返事も出来ないのですか~このヘビはぁ~」
「グギィィィッ!」
「本当ですね。アキト様がせっかくお声がけしたというのに、御威光に気付けない程度のヘビとは。図体ばっかり無駄に大きくなって」
「ギギィィィッ!」
「あっ、え?あの・・」
アウラとディーヴァが力をふるうとリヴァイアサンが断末魔のような声をあげる。そのうちリヴァイアサンはぴくぴくと痙攣し始めた。
「その上、根性もないとは!」
「本当ですね~貴方程度などアキト様の御意向がなければとっくにその首刎ねられていてもおかしくないのですよ~?」
「・・・・・・」
「まぁ、アキト様。リヴァイアサンは気絶しただけです。今のうちにそこの岩壁に穴あけて、家の小さいバージョン作って貰っていいですかね?」
「う、うん」
アキトはアウラとディーヴァに協力して貰いながら自宅を作った時のように岩壁に穴を掘りすすめる。そしてアーシェの指示通りに1km程掘り進め、最終地点は大きく部屋を作った。その真ん中に台座をこしらえ汎用世界構築マシーンを設置した。
「ディーヴァ様申し訳ないんですが、この部屋だけは藻や海の水棲生物が発生しないようにして貰っていいですか?入口にはアキト様に魚避け掛けてもらうので」
「分かりましたわ~」
アキト達は作った通路を戻り、入口には念入りに魚避けを掛け、更に入口を小さくした。
ふと、リヴァイアサンを見るとこっちを見ていたがその目には恐れが感じられた。
「いいですか~ここを守るのですよ~」
「その通りです。死んでも守りなさい」
その時リヴァイアサンが「キュイ」と鳴いた。
「あ~、これで大丈夫そうですね。じゃあミッションコンプリートです!帰りましょう~」
あーちゃんの嬉しそうな声とともにまた皆がくっついてくる。アキトはリヴァイアサンの涙目を見ながら心の中で「本当にごめん」と呟きながら転移した。
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