ザワワザワワ
見返お吉
1 滑 舌 (か つぜつ)
今朝は、トーストとコーヒーで軽い朝食を取って新聞を読んでいると。妻が、
「じゃ、行ってきますよ。お寺さんにはおくれないようにね・・」
と言うと出て行ってしまった。そうだ、今日は呼び出しをいただいているお寺さんに行くことになっている。何を言われるかは、おおよそ見当がついているがあまり聞きたい話ではない。
車で十分ぐらい走ると、目当ての奉献時に着いた。夏の終わりに咲く百日紅の花がすべすべした幹肌から赤い花を揺らしている。境内はそれほどの広さはないが、一つ一つが丁寧に整然と整備され、背筋の伸びるような印象を受ける。中にはいると和尚が出てき対応にあたった。
「中村さん、以前から預かっていたお母様のお骨ですが、先日、内の檀家さん方の寄合がございまして、『檀家でない方のお骨を預かっているのおかしい』という話が出まして、お電話差し上げたしだいです」
「はい、いずれは母のお骨をどこかへきちんとしなきゃと考ええいるところでしたの、時期といえば、時期が来たんでしょうね。本当に今日まで母を預かっていただいただけでも感謝です。ありがとうございました」
「中村様には申し訳ございません、内で現在、預かっているお骨は三柱なのでございますが、はっきりした住所などが分かっているのは中村さんの所だけで、あとの遺骨は、一つは韓国の方と聞いていますし、もう一人はどこの方かも分からない状況です。後ほど、お手紙で移動して欲しい時期などを詳しくお知らせいたします。心づもりのほどよろしくお願いします」
「分かりました。お手紙お待ちしております」
中村は、こう言って和尚の前を去ると、母の骨が置かれている仏壇に手を合わせた。寺をでると母の骨をどうしようかと考えながら車に乗り込んだ。
吉田と待ち合わせの雑貨屋に行くと隣接するコーヒースタンドで落ち合った。
「おー吉田、なんだかお寺さんって分からないもんだな。古いしきたりの上にのっかている制度だからな、その制度も地域が違えばまた違うといことで難しいものだよな」
「なんだ藪から棒に、そうそう、お寺さんはなぁ・・なかなかすんなりとはいかないもんだよ、だから自分の代ではそのままにして、難しいことは次の世代にうちゃってしまおうと思う人も多いんだよ」
「それだけ金と時間がかかるってことか、おれよー和尚に言われたんだけどだ・だ・だーか(檀家)で無ーいーから」
中村は突然まわらなくなった呂律(ろれつ)に焦った(あれっ おかしい、檀家といっているつもりだがうまく言えない)
「あーあ檀家でないからってか・・」
吉田に補足してもらってやっと「檀家」が言えた。おれは青ざめて一時、吉田の話に相槌を打つだけにして自分の身体の異常を見守った。もしや脳梗塞にでなったのだろうかと心配になった。ゆっくりと行動し、目をしばたいて回復を試みた。吉田と今日買うべきものを買いそろえて、急いで店を後にした。
吉田と別れて中村は、胸騒ぎがした。今まで時々見てもらっているグッチー脳神経外に急いだ、病院に入ると受付で病状を言うとすぐに M R Iの撮影をすすめられた。グッチー先生の画像診断では。
「中村さん、この画像を見ると、この血管のこの部分が細くなっていることがわかるでしょう、もしこの血管が破裂すると大変なことになりますよ」
彼に言わせれば、脳梗塞の症状があり、脳の血管が今にも大爆発を起こして命に危険を及ぼす状況であり。即、県立病院に行って下さい。ということだった。
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