019 巡廻⑨/屋敷へ戻って
長い一日を経て、三人は屋敷へ戻ってきた。
夕食を終え、椅子に腰掛けるエリザベートの前にレオンが立つ。
「今日一日貴方の行動を見てきたけど、貴方はレイヴンローズ家に仕えるに相応しくないわ」
「は? どういう意味だよ」
エリザベートの言葉にレオンは声を荒げる。
「言葉通りよ、レオン。今日の貴方の行動、言葉遣い、テーブルマナー、どれをとっても貴方は最低点だったわ。加えて貴方文字の読み書きもできないでしょ?」
「それがなんなんだよ。そんなのこれからおぼえていけばいいじゃねえか」
「これからおぼえる? いい? テーブルマナーや礼儀作法、言葉遣いというのは、一朝一夕でできることじゃないわ。幼い頃から講師の厳しい指導を経て、できるものなの。今の貴方にそれができるなんて到底思わない」
レオンはわなわなと拳を握る。目の前の少女の言葉は正しい。それを否定しようとして言葉を探すも見つからない。
「貴方を初めて見た時、ボロボロの服を着て、汚れた体をしていたわね。身体も男性にしては線が細いし、顔色が悪かった。栄養が足りてない証拠よ。大方スラム街で、今まで泥水を啜って生きてきたんでしょ。父親も母親もロクでもないのでしょうね」
目の前が真っ赤になるのを感じた。気付いた時、レオンは握りしめた拳をエリザベートへむけていた。
勢いをつけた拳はパンっ! という音を部屋中に響かせ、その挙動を止める。
レオンの拳がエリザベートの柔らかな頬を捉える直前で、間に入るようにエヴァルトが立ち尽くした。レオンの拳はエヴァルトの手に包まれ、完全に止まっている。力を入れてその手を振り解こうにも老執事の手はびくりとも動かない。
「爺さん、離せよ!」
「レオン、いついかなる時も男性が女性に手を上げることは許されません」
「けどこいつはオレの母さんのことを馬鹿にしやがったんだぞ‼︎ 許せねえ!」
「レオンッ!!」
普段好々爺然としたエヴァルトの一喝に、レオンは萎縮する。
レオンが力を抜いたのを確認し、エヴァルトは彼の手を離した。
「夜が遅いですし、ここまでにしましょう。それでよろしいですね、お嬢様」
「ええ、構わないわ。レオン、今夜はもう遅いから、屋敷にいさせるけど、荷物はまとめておきなさい。私に手をあげようとした処分は明日下すから」
レオンは二人に目を合わせず、黙って自室へと戻って行った。
レオンが部屋から出ていったのを見て、エヴァルトが口を開く。
「お嬢様、言い過ぎです」
「あれぐらいで傷付くような軟弱者ならレイヴンローズ家には不要よ。それに礼儀作法と言葉遣いが悪いのは事実だし」
「お嬢様にはもう少し相手を思いやることも必要です。でないとお友達もできませんよ」
「不要よ。私は友達を作る気がないから」
「……お嬢様、友達を作る気がないなんて言葉を口に出すものではありません」
「どうして?」
「後で、悶絶するほど後悔してしまいますから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます