南三局
南3局、男の親番が始まった。
連荘されるわけにはいかない。
どうやって男のあがりを阻止するかを考えていたが、杞憂に終わった。
下家のばあさんから早いリーチが入ったのだ。
男は、それに対しベタ降りを選択したようで、危険な牌は一切押してない。
点数状況に十分な余裕があると踏んだのだろう。
逃げ切り体制だ。
局の中盤でタカさんの手が止まった。
リーチに対し、降りる気はないのだろう。
しかし、何を切るべきか、それぞれの危険度も考えながら迷っている、というところだろうか。
タカさんは、急に男に声をかけた。
「タバコ、一本もらえる?」
タカさんは喫煙者だ。俺たちの店”きんたろう”で働いていたときは、同卓者が非喫煙者であろうとも、タバコを吸っていた。
俺はそれを何度か注意していたが、吸わないと落ち着かないのだろう。
こっちに来てからは、節制の日々だった。タバコを買う金などもちろんない。
生きるために必死で、自然と禁煙生活を送れていた。
久しぶりの麻雀、男があまりにも隣で吸うために、我慢ができなくなったのだろう。
「は?まあ構わないが」
男は急な申し出に少し驚いたようだが、すぐにタバコの箱を差し出した。
タカさんは箱から一本タバコを抜き取り、口に咥えた。
そして何も言わぬままタバコをクイクイと上下に動かした。
火が無いよ、という感じで。
厚かましいおっさんだなと思いながら、その様子を眺めていた。
「火は店に借りればいい」
男は言った。少し不機嫌そうにも見える。もしくは何かを牽制しているようにも。
「え、まあいいけど」
タカさんはカウンターの方を向き大声でいった。
「おーい。マッチもらえる?」
ライオンは読んでいた新聞を面倒くさそうに置き、マッチを一箱運んできた。
この時、ある考えが脳裏をよぎる。
男のマッチ箱を遠目で眺める。
種はこれか?
男はわざわざ自前のマッチを使っている。
もし、このマッチ箱に魔法陣を仕組んでいるとしたら......。
あり得る。
男は毎回リーチをかける直前にタバコに火をつけていた。
左の手のひらでマッチ箱を包むように持ちながら、その手で風よけをして、右手のマッチで火をつける。
これなら、自然な動作の中で、魔法陣を目前に持ってくることが可能だ。
左手で口を覆っているために、詠唱も目立たず行える。
この仮説が正しければ、自前のマッチ箱をタカさんに渡すことを拒んだことにも納得がいく。
ーーーヤツの尻尾を掴んだかもしれない。
その数巡後。
「ツモ。リーヅモイーペーコー。あ、裏1。2000-4000の1枚です」
ばあさんがあがった。
これで残すはオーラスのみだ。
ばあさんのあがりのおかげで、俺と男との点差が少し縮まった。
俺22,400 ばあさん20,600 男44,500 タカさん12,500
この持ち点でオーラスに突入する。
俺のトップ条件は三倍満ツモ。
もしくは男からの跳満直撃。
厳しいが、可能性がないわけではない。
入ってくれ、逆転手......!
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