異世界

ここはアルティマニアーーー。


という名前の街らしい。


木や土を主体にした建物が並び、石畳の道が伸びている。


通りの往来は激しく、人で溢れている。


訂正する。人だけではない。


正確には、人と、ケモノぽいのと、エルフぽいのと、ドラゴンぽいのと、あとなんかよくわからん見た目の連中で溢れている。


露店には見たことがない食べ物が並び、商人たちの呼びかけの大声があちこちから


響いている。


これはこの街の日常であり、ここにあって当然の景色なのだ。


我々、もとい俺とタカさんは、初めはこの光景に戸惑ったが、今ではそれを受け入れ、順応しようとしている。


生きるため、そうするしかなかったからだ。


こちらに来てからしばらくは、元の世界へ変える方法を探していたが、現在その方法は見つかっていない。


しかしこれまでに何の糸口も見つけられなかったわけではない。


街の人々にあれやこれやと聞き込みをしていた時に、この街には我々と同じように他世界から来た人々も多くいるという話を聞いた。


彼らのほとんどはこの街に溶け込み、新生活を送っているそうだ。




「山本くん、飯できたよ~」


カウンターの中からタカさんの声が聞こえる。


俺は手を止めて、声の方に首だけ振り返る。


「今日はなんすか?飯。」


「マンドラゴラの素揚げ」


「またっすか…。」


「仕方ねーよ、金無いんだし」


この会話も今日で4回目だ。


俺とタカさんは俺たちの店”マージャンきんたろう”を拠点にしながら、日々日雇いの仕事で食いつないでいる。


食卓代わりにしている麻雀卓にタカさんが料理を運んでくる。


「なんで素揚げなんすか。見た目エグすぎますよ。」


木製の皿の上には、断末魔を上げた状態で命を絶たれたマンドラゴラが、カリカリになって横たわっている。


「料理なんてしたことねぇもん」


「それにしても…。」


「食えるだけいいじゃん。食おうぜ」


タカさんがマンドラゴラにフォークをぶっ刺してかぶりつく。


俺も同じように食べ始めようとしたとき、またタカさんが口を開いた。


「山本くん、俺見つけたんよ」


タカさんは大きく垂れた目を見開き、俺を真っ直ぐ見つめている。


この顔は真剣な話をするときにしか見られない。


「何をですか?」


持ち上げていたフォークを一旦下ろし、聞き返した。


「麻雀屋。雀荘だよ、こっちの世界の」


「そんな、まさか。」


俺は肩をすくめてみせたが、タカさんの表情は変わらない。


「今日、作業場に馬車で向かうまでに看板を見つけたんだ。店の名前は読めなかったけど、でっかい麻雀牌が描かれた看板だった。ここからそう遠くない場所だ。明日見に行ってみないか?」


少し間を置いて考えてみる。


この世界には俺たち同様に他世界から来た人々が多くいるらしい。もしもその中の誰かが、麻雀という文化をこの世界に持ち込み、それで商いをしようとしていたら。


可能性はある。タカさんの見間違いだと、話を否定することはできない。


「行ってみましょう。明日。何か情報が得られるかもしれない。それと、麻雀も打てるかも。」


タカさんが目を細めつつ、抑揚を強めた口調で応えた。


「おう。やっぱりお前もうずうずしてたか。もう、最後に打ってから一月は経つもんな」


「俺はタカさんほど麻雀好きじゃないっすよ。情報収集が目的です。」


「あいよ」


小馬鹿にするようなタカさんの態度に少しひかかったが、気にしない。


明日は俺もタカさんも夕方まで仕事をするつもりだ。


その後に落ち合うことを決め、食事を終えた。




こっちの世界に来てからは生きることに必死だった。


住処はあるが食べ物がない。食べ物を買う金もない。金を稼ぎたいが、どうすればいいかわからない。


困り果てていた時に、宗教勧誘のババアが店を訪ねてきた。街中に突如現れたこの店に興味をもったらしい。ババアは始め自分の宗教の話ばかりしていたが、事情を伝えると教会を案内してくれた。


そこでは食事を出してくれた。どれも見たことのないものばかりだったが、3日ぶりの飯を俺たちは勢いよくかきこんだ。


神父は、教会が運営している職業案内所を教えてくれた。


神父曰く、俺たちのように他世界から来た人間はとりあえず日雇いの肉体労働から始め、自分の生活を整えるパターンが多いそうだ。


俺たちもそれに倣うことにした。


しかし、なかなか金が貯まらない。


毎日朝早くから送迎の馬車に乗り込み、作業場へと送られる。


日が落ちる頃に再び馬車に乗り込み、帰路に着く。


これだけ働いているのに何故、生活に余裕ができないのだろう。


教会が日雇い労働者から、かなりの中抜きをしていたことを知るのは、ずいぶん後の話だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る