異世界で悪の組織の末端構成員になった俺、ボロボロの王女や美少女冒険者を拾って好き放題に魔改造する
むね肉
第1話 末端構成員の俺、死にかけの美少女を拾う
子供の頃から悪の組織に憧れていた。
確固たる悪の美学を持った、スタイリッシュでカリスマのある悪の組織に。
でも、現実にはそんな組織はなかった。
だから異世界に転生したと分かったとき、俺は本当に嬉しかったんだ。
◆
突然だが、俺は悪の組織の末端構成員をやっている。
それも現代ではなく、異世界で。
別にやむにやまれぬ事情とかはない。自分から志願したんだ。
というのも、俺にはとびきりの野望があった。
まずヒロインを人質に取る。
拠点には数多の構成員を配置し、万全の態勢を整える。
乗り込んでくるのは、主人公たる歴戦の勇者。
勇者は傷だらけになりながらも苦難を突破し、やがて最奥の扉を開く。
そこで待ち構えるのは、当然俺だ。
「我々の理念は素晴らしいとは思わないか? 君が望むなら、幹部の席を用意しよう」
「ふざけるな! そんなことのためにリーシャを浚ったのか!」
「交渉決裂ということか。それは残念だ」
大胆不敵に笑う俺に、勇者は踏み込んでくる。
苛烈な戦いだった。
三日三晩に及ぶ激闘の果てに……ついに俺は負ける。
勇者はヒロインを取り戻し、二人は熱い口づけを交わしてハッピーエンド。
そして二人が外に出ると……守るべき祖国が滅ぼされていた。
実は、ヒロインの誘拐は単なる陽動に過ぎなかったのだ。
しかし、末端構成員である俺があまりに強敵だったために、勇者は俺を組織のボスだと思い込んでしまった。
正義感によって狭くなった視野。
そのツケは支払わなければならない。
故郷が滅ぼされ、呆然と立ち尽くす勇者とヒロインを見ながら……俺は華々しく散りたい。
そして地獄の底でせせら笑うのだ。
よかったね、ヒロイン助けられてw と。
それこそが、俺が思い描く悪の組織の物語である。
この野望を達成するには、日々の鍛練は欠かせない。
この世界はすごい。魔力があって魔法があるのだ。
魔法で身体能力を底上げしたり、炎を出したり、はたまた呪いをかけたりもできる。
生まれた頃から鍛練してたので、自分で言うのもなんだが俺は結構強い方だと思う。
そんな風に飽くなき向上心を抱きながら末端構成員をやっていた、とある雨の日。
俺は路地裏で、ボロボロになってる女の子を見つけた。
顔は大きく膨れ上がっており、容赦ない殴打を繰り返されたのがわかる。正直、髪や服装が女じゃなかったら、男と勘違いしたかもしれない。
それくらい酷いありさまだった。
見れば、呼吸もか細い。
もうじき死ぬだろう。
「介錯くらいはしてあげようかな」
俺は魔法で漆黒の剣を作り出すと、振り上げる。
そのとき。
「あの女、どこに行った!」
「この辺りのはずだ!」
「なんとしても探し出せ! 盟主様に知れたら全員首が飛ぶぞ!」
ローブをまとった人物たちの会話は、恐らくこの女の子のことだろう。
俺が下を向くと、なんとビックリ。
女の子は、這いずって逃げようとしていた。
「驚いたな。そんなボロボロなのに、君はまだ生きようとしている」
少し興味が湧いた。
その誰かも判別できないほど凄惨に殴られた顔がどんなものなのか。
貴族なんかは見せしめに人を始末しようとする。薄暗い性癖を発散したい輩は、それをショーとして催し歓喜する。
うん。なんか特大の厄介事に巻き込まれそうでワクワクするな。
この子、持って帰ろう。
というわけで、俺は女の子を自宅に運ぶ。
「さて、それじゃあやりますか」
俺は回復魔法とか、そういう真っ当な力は使えないので、膨大な魔力を流し込んでこの子の自己治癒力を高めるという方法で治療を行う。
あとついでだし、好き勝手に魔改造してもいいよな。
でも顔は元々のものを知りたいから、そこは自己治癒力くんに頑張ってもらおう。
まずは魔力を大量に注入して、それから魔族の魔力コアと竜族の筋細胞を体に埋め込むか。
とりあえず服を剥いで……うわ、顔より体の方がめちゃくちゃだな。内臓とかもかなりえげつない。
ここら辺は人間と近いハイエルフの内臓を移植しとかないと。
…………。
ふう。疲れた。
しかし、我ながら完璧な出来映えだ。
外見上は元通りになったはず。
あとは仕上げに、俺に対して逆らえないようにしておこう。
俺は呪いの魔法【シア】を使う。
これはちょっとした精神支配みたいなもので、対象が俺を攻撃しようとすると、その全身に激痛が走るのだ。
わりと鬼畜っぽいが、この子が悪・即・斬の精神の持ち主だったら危ないからな。
魔法が発動すると、闇の霧が展開されて女の子を包み込む。
俺は手応えを感じた。
どうやら、うまく効いてくれたようだ。
「いい汗かいたな。っと、そうだったそうだった。俺はこの子の顔がどんなもんか見たかったんだ」
魔改造するのに夢中になって、肝心なことを忘れていた。
俺はゆっくりと女の子の顔に視線を向ける。
そこには、美少女がいた。
「うん……。まあ、そんなもんか。これで出てきた顔が魔王とかだったら面白かったんだけどな。……ん? いや、でもこの顔、どこかで見たことあるような気がする」
わずかな引っかかりを覚えた俺が記憶を洗っていると、女の子が目を覚ます。
「ん……」
「やあ。こんばんは、お嬢さん。体の具合はどう? 意識はハッキリしてるかな? 俺はベル・アークス。君の名前は?」
俺の矢継ぎ早の問いかけに、彼女は意識を取り戻したばかりで困惑しているようだが、それでも答えてくれた。
「えっと、私はエマ。……エマ・ティアンナ・ローレライ」
「素敵な名前だね。それで何があったのか──」
話している途中で、俺は口を閉ざす。
あれ? ローレライ? その家名ってたしか……。
やがて俺は思い出す。
エマ・ティアンナ・ローレライ。
それは第三王女の名前でした。
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