第136話 思うだけで口にするのは止めておく
「撤回するって言っているのだから黙ってそれを受け入れてわたくしと会話をしなさいよっ!!」
ここまでくると、恥ずかしさよりも苛立ちの方が大きくなってきてしまい、思わず取り繕う事も忘れて素で会話をするように言ってしまう。
「マイマスター、さすがにこれ以上は周囲の目もあるので厳しいかと……。覚悟を決めて会話をしたほうが良いと思います」
「……分かった。しかしフィリアーナ様は俺の事を嫌っていると思いますので無理はする必要は無い。これ以上は会話を続けられないと思ったのであれば直ぐにそう言ってくれてかまわない。そうすれば俺は直ぐにでも会話を止めてこの場を離れよう」
鈍感なカイザルと違い、カイザルの側仕えは察しが良いのかカイザルに対してわたくしと会話をするように促してくれ、それによってカイザルはやっとわたくしと話してくれるようだ。
後でカイザルの側仕えには褒美をやっても良いと思えるくらいにはナイスアシストと言えよう。
そして、なんだかんだ言いつつもカイザルはわたくしと他愛も無い会話をしてくれる。
その時の会話は、思っている以上に楽しくて、気が付いたらパーティーが終わる時間になってしまっている程であった。
◆
「よくやった。お主のお陰でカイザルと我の娘の間にあった溝はだいぶ埋まったようで一安心じゃの。後は若い男女、なるようになるじゃろうて」
「本当に、人使いが荒いのですから。もうこういうのはこれっきりにしてくださいよ? 周囲の貴族も予め根回しするのも大変なので……。それに未だにカイザル君に殴られた箇所がジンジンと痛むんですから。というか予め頂いた資料や広まっているような噂が流れてしまう人物と同一人物とは到底思えない程の実力を持っておりビックリしましたよ。まさかこの私が一撃を貰うとは……。これでも若い頃は高ランクダンジョンを潜っていたというのに……今年で四十歳、見た目ではまだ若いと自分では思っていたのですが、身体の方はもう若い頃のように動かなくなってきているという事なのでしょう……」
パーティーが終わった後、我はカイザルに殴られてそのまま近衛兵に連れていかれた者がいるとある部屋へ向かうと、そいつとカイザルについて話していた。
そして、お前の身体が思うように動かなくなったのは単純に太ってしまた身体が最大の原因だろうと思うのだが、思うだけで口にするのは止めておく。
男という生き物はそれが張りぼてであると自ら気付いているが真実からは視線を逸らして守っている、守る必要のなさそうな小さなプライドであろうとも傷つけられたくないものだからね。
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