第88話 俺個人の信用の無さ
取りあえず村長が、俺がこの村に来た理由を知っているかどうかの確認を取ってみると、確かに村長であるゼフは俺が死の森の開拓をする為にこの村に来たという事を知っているのだが、何故か俺と村長との間には認識の違いというかズレがあるような気がする。
「そうか。ならば話が早い。早速わかる範囲で良いからこの森についての知っている事を全て教えてくれ。特に地理や植物系の魔物と木や草花の見分け方等を教えてくれるとありがたい」
「…………っ」
「うん? どうした?」
「い、いえ……っ。本当にカイザル様はこの死の森を開拓なさるのですか?」
あぁ、なるほど。
俺とゼフとの間にあるズレが先ほどのゼフの言葉で何となく理解できた。
恐らくゼフはここに俺が来た理由を『学園が長期休暇の間中の避暑地』または『ここで取れる利益を貪る為の口実探し』に来たと思っていたのだろう。
だからこそ『死の森の開拓』はあくまでもそれらの口実でしかないと思っているからこそ、俺とゼフとの間には認識のズレがあったように感じたというか、実際にズレがあった訳で、ゼフの娘が俺に対して敵対心を向けてくるのも何となく理解できる。
どうせゼフの娘は『自分たちの利益を搾り取ろうとしに来た、自分たちの平穏な生活を潰しに来た嫌な奴』とでも思っていたのだろう。
であればあのような目線を向けても仕方のないな……。
これに関しては、そう思ってしまう程に死の森を開拓する事の難しさと、俺個人の信用の無さが招いてしまった結果だろう。
であれば俺の身から出た錆であり、ゼフの娘の反応は俺の自業自得でもある為、猶更ゼフの娘に対して何かしら罰を与えるのはお門違いというものだろう。
むしろこの場合は過去の自分が招いた俺の人物像や印象を自分の手によって変えるべきだろう。
「あぁ、そのつもりだ。それともゼフはこの俺が死の森を開拓する事ができないと思っているのか?」
「い、いえ……そういう訳ではないのですが……死の森は死の森といわれるだけの理由がある訳でございます。今まで様々な力自慢や実力者達が死んでいったのもまた事実であり、その結果何とか馬車一台が通れる程度の道を通す事ができただけでございます……。その道を一本通すだけで何人死んでいった事か……。そしてその結果この森は死の森と呼ばれるようになったのですが、幸いなことにこちらから手を出さなければ植物系の魔獣が襲ってくる事もなくいたって平和でございます……。勿論カイザル様がお強いというのは十二分に理解しているのですが、開拓などはせずに避暑地として長期休暇を過ごされてはいかがでしょうか?」
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