第63話 カイザル様が救ってくださった



 ちなみにスキルセットや魔術セットを脳内にインストールするにあたってヘッドギアを使用する必要があるのだが、そのヘッドギアを使って私たちはこの帝国で最高峰と呼ばれている学園で得られる知識以上の事を得られたので、今では皆文字の読み書きやお釣りの計算もできる。


 貴族たちからすればたかが文字の読み書きやお釣りの計算ごときでと思うのかも知れないのだが、私達からすればそれこそ喉から手が出る程価値があるものであった。


 文字が書けない、読めないから騙され、お釣りを計算できないから騙され、騙されている事は理解できるがどのように騙されているのか説明できない為、できる事といえば感情で怒鳴るか暴力を振るう事しかできず、衛兵に突き出されて終わりである。


 そのとき衛兵の後ろから私を馬鹿にしたような目線を向けて来る者たちの顔を私は今でも鮮明に覚えている。


 そしてそんな目線を向けられる度に、私は大切な何かを手放して生きて来たのだ。


 その大切な何かを手放せなかった者はリンチを受けて死んでいった。


 悔しかったし見返したいと、どれほど思った事か。


 でも、それ以上に生きたいと思ったからそんな感情と共に人として大切な何かを捨てて今まで生きてきたのだ。


 まるでヘドロの中で生きていくそんな日々からカイザル様が救ってくださったのだ。


 私達が生きる為に捨てて来た様々な物を、私達にまた与えてくださったのである。


 今度は知識という武装と共に。


 そして私は思う。


 まだ大切なものを売って今を必死で生きている者達も救い上げて欲しいと……。


「あ、あの……っ! カイザル様……っ!!」

「うん? どうした?」


 普通奴隷である私が主人であるカイザル様へ声をかける事は、基本的には失礼な事であるとヘッドギアによって得た知識はあるのだが、それでも私はカイザル様にお願いしたい事があったし、その願いを叶える事ができれば私はどうなっても良いという覚悟もあった。


 しかしながら実際に声をかけてみると、身体を売る必要もなく、お腹を空かせる事もなく、温かい布団で眠ることができるという、人として当たり前の日常が幸せすぎて、それを失うのではないかと思うと恐怖で身体が硬直してしまい震えて来る。


 でも、だからこそ私はカイザル様へ私の願いを伝えなければならないと、より一層強く思う。


 ここで私がそれを言わないで生きていく事の方が嫌だと、そう思えたから……。


「あ、あの……私が集めてまいりますので……その、まだ街に残っている私の仲間たちもご主人様の奴隷にしてもらえないでしょうか……っ!!」

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