第56話 物語は一つ先へ
《エイミィ視点》
いつもは酒を飲み過ぎると吸血衝動に駆られてしまうため飲酒を控えていたが、今日ばかりはほんの少しだけ葡萄酒を口にしていた。気づけば体の内側が暖かくなり、少しばかりの眠気を覚えていた。すると正面、激しい物音がしたと思い音のなる方を眺めていると横倒しになったアベリンの姿が見えた。どうして腕相撲だけであそこまでの激しさになるのか、私にはよく理解できなかった。カイレンは『活願』である以上絶対に勝つことはできないというのに、何故アベリンは毎度のごとく勝負を挑みにいくのだろうか。でも、この賑やかさが今は心地いい。レイゼも冒険者になってから性格が見違えるほど変わった。以前までは赤龍の一件もあってかわずかな悲壮感のようなものをレイゼから感じていたが、今ではその悲しさが和らいだのか出会った時以上に笑顔でいる時間が多くなっている。それでも、時々物思いに耽るように宿の窓から魔願樹を眺めているときがある。
私の祖先に当たる吸血族は、このディザトリー近辺の海に近い場所でかつて繁栄を遂げていたと文献に記されていた。千年ほど前まではそうだったのだろうが、一晩で吸血族の大半はレイゼの手によって殺された。私の故郷トーステル王国は、逃げ延びたその生き残りが南の方へと拠点を移し、その子孫が現地の人々と交わったことで独自の繁栄を遂げた国だ。そんなトーステル王国は、私のような半人半魔の人々が人口の大半を占めている。しかし長い年月の間、他国の人々は私たち吸血族の末裔の存在を恐れたのか国交を結ぼうとする動きがみられなかった。ようやく周辺諸国が動き出したのは、国土内に魔願樹が誕生した二百年ほど前のことだった。もちろん私は生まれていないし、祖父母の世代の話だ。今でこそトーステル王国はその特徴的な青と白の海辺の街並みが観光資源となって多くの人々が訪れているが、それもつい最近のこと。いつか、皆にもその街並みを見せてあげたい。
そんなことを思っていると、背後から肩を叩かれた。振り向いてみると、急に宿へと向かっていったエディを見送っていたカイレンがいた。
「ねぇ、エイミィ。ちょっといいかな」
ほんの一瞬だけ、カイレンの瞳が変化していた。それが合図となり、私も今――思い出した。
「わかった。――そういうことだね」
二人して目で合図を送り合うと、カイレンだった少女は皆の方を振り向きもせずその場を後にしていった。
「あれ、カイレンどうしたの?」
アベリンだけがカイレンの行方を気にしているようにそう口を開いた。
「飲み過ぎたからちょっと涼みに行くらしいよ。あ、そうだ。エディが帰ってきたら私たちは外にいるって伝えておいて」
「ん-、わかった。いってらっしゃーい」
アベリンの見送りを最後に、私はカイレンが消えていった出入り口の方へと向かっていく。既に空は完全な夜となり、辺りには涼しい風が吹いていた。
カイレンはどこに行ったのかと見渡していると、すぐにその声が直上から聞こえてきた。
「おーい、こっちだよ」
声のする方へと視線を向けると、ライカは協会本部の建物の外壁に座っていた。そのまま私も短い詠唱を済ませてカイレンのもとへと飛び立った。
「久しぶりだね、ライカ」
「うん、久しぶり。みんな変わらず元気そうでよかったよ。まぁ、エディが来てから数か月しか経っていないから当然か」
最後に私たちが話をしたのはエディと出会った日のことだった。あの時の私はその出会いにさぞかし心を躍らせていたはず。一方でエディとなる存在が来ることも、エディゼートという名前であることも、事前にこの私は知っていた。全てライカの計画通り。
「それで、こっちの世界の影響はどんな感じなの?」
「えーとね、アズが来てくれたおかげでエディの分の影響を押さえられているから安定してるよ。だからしばらくは大丈夫なはず」
以前より、対界からの来訪者であり対界の創造に携わったライカからこの世界の状態について聞かされていた。何でも、ライカは私にメッセンジャーとしての役割を果たしてほしいのだという。しかるべき時のために、自分が存在していたこと、伝えられなかったことを言うために。そのために私はライカと別れる際に記憶を一時的に消すことになっている。
「この前のグラシアの一件はエディがこの世界に来たから起きたようなものだからね。一方でアズはエディを影とした場合の光に当たる存在、そういうことだったよね?」
「うん。だからしばらくの間は地脈異常は少なくなるはず。でも、光の要素が多くなるとその分影の要素も次第に大きくなるから、それまでにアズには強くなってもらわないと」
そのための力として、そしてエディの分の影を打ち消すためとして、アズには『見願』と『破願』、そして『活願』の力が与えられていた。今は記憶がない状態で目覚めたが、次第に体に刻まれたその感覚を思い出すことのだろう。カイレンをも凌ぐ、絶大なる魔剣士の才を。
「今頃、アズは私の後輩と何をしているのかな」
「多分、いろんな魔法を試してるんじゃないのかな。エディとは違った本当の『見願』なんだもの、詠唱無しに理外れな私たちの魔法を願力から発現しているはず」
歴代の見願も、エディが使う魔法を願力によって再現させていたらしい。これは歴代の見願が行使した魔法を聞いたエディによる推測に過ぎないが、どこか信憑性の高い仮説のようにも思えた。
「その理外れな存在のせいで、世界中に魔願術師協会があるんだけれどね」
「あはは......。まぁ、この世界の人からしてみればいい迷惑だよね。でもその文句はこの世界に複雑な概念を持ち込んだ創作者に言って欲しいな。私はその点に関して関係はないもん」
ライカの話からは時々今言ったような創作者といった超常的存在が登場してくる。しかしライカもその存在について詳しく知ることはなく、それが存在しているということだけ認知しているらしい。
「ふふ、ライカは頑張ってて偉いね。それにしても、その創作者はどうしてこの世界を創ったのだろうね」
「さぁ、私もずっと思い出せそうで思い出せずにいるからもやもやしてるんだ。まぁ、いずれわかることかもしれないから、今はこの世界を保全することを第一に頑張っていくしかないね」
世界の保全。魔願樹は地脈異常による世界の崩壊を防ぐ生物装置と表現しても過言ではない。しかしその存在も概念で表現すると光となり、その影として願魔獣が存在している。本来この世界になかったはずの存在が存在するための代償とも言えるだろう。
「ねぇ、ライカ。前から気になっていたのだけれど、どうして私をメッセンジャーとして選んだの?」
するとライカは私の質問を聞くと何かを思い出すように夜空を仰いだ。
「えーとね、その人の顔をよく覚えていないんだけれどさ、誰かの面影をエイミィから感じたんだ。別にそんな深い意味はないよ。ただ、直感的にね」
「......そうなんだ」
そうなると、少なくとも私もライカと関係の深い存在であることがわかる。私はライカを見ても何も思い出すことはないのだが。きっと、ライカの存在は光側で、私は影側なのだろう。光無くして影はできず。光はその存在と照らす対象があるだけで影を生み出すことができるが、影は光を認識しようとしてもできない。何故なら光に照らされてしまうからだ。そんな理屈で、私はライカを見ても何も面影を感じないのだろう。今、ライカは影であるカイレンを器とすることでこの世界に存在している。そのため私はライカを認識することができている。
「あ、そうだ。アズに対してエディとカイレンはどんな反応を示してた?面影を感じたとか、そんな感じのことを言ってた?」
「あぁ、そのことについてなんだけど、少しだけ不思議なことが起きたんだよね」
「不思議なこと?」
私がそう尋ねるとライカは指先に一つの光のオーラと二つの闇のオーラを灯した。
「まず、基本的に対界から召喚された存在はこの世界では影になるじゃん。だからエディとアズは確定で影側」
ライカはそう言って闇のオーラを二つ宙に浮かべた。
「そしてカイレンは光側。でもさ、これだと変だなって思わない?」
「確かに。カイレンとエディは互いに覚えがあるのは少し変かも」
「そして付け加えると、エディとアズは互いに覚えはあるけど、カイレンはアズに覚えがないらしいんだ。アズはカイレンに覚えがあるって言ってたけど」
そう言ってライカは相関関係を示すようにオーラ同士に細長いオーラの線を結んだ。言葉だけでは整理がつかなかったが、視覚化されると少しだけわかりやすくなった。
「これは私の仮説なんだけれどさ、対界からこの世界にやってきた人は全員光の概念も持ち合わせていると思うんだよね。それもかなり強い」
ライカはエディとアズを示す二つの闇のオーラを強い光のオーラへと変貌させた。
「でもこうなると全員が光の概念に属するから、カイレンとアズが互いに覚えがないのはおかしくない?」
「そう。だけどもよく考えてみて。エディはこの世界では理外れな異端者、つまり影の要素が強い。一方でアズの体はこの世界の人のデザインになっている。つまり、この三者のなかで一番光の概念が強い存在になる。ここまで言えばわかるはず」
ライカの言葉を聞いて理解した。エディとカイレンは概念のバランスを考えるとほとんど同格であるため覚えがある。そしてエディとアズは互いに対界から召喚されたこともあって完全に同格ではないものの何らかの理由で覚えがある。だがカイレンとアズでは光の概念の強さに差があるためカイレンはアズに覚えがない。確かにこれならこの関係にも説明がつく。
「それにしても、ライカはよくこんなことを考え着いたね」
「へへ、ずっと暇だったからね」
ライカは以前この世界を常に視認しているわけではないと言っていた。だがこの世界で起きたことを対界の残滓から感覚的に察知しているらしい。
「まぁ、難しい話はここまで。こういうことを話してると頭がぐちゃぐちゃになっちゃいそう」
「ふふっ、私はまだまだ聞いてみたいことがたくさんあるんだけどね」
とは言っても、ライカ私にすべてを話してくれない。所詮私はメッセンジャー、必要なこと以上の話はしてくれないのだ。
「それもまぁ、今は時間切れということで」
「あぁ、そういうことね」
ライカは宿の方を見ていた。そこはエディが向かっていった場所だった。
「それじゃあ引き続き世界の保全を頑張ってね」
「うん。ライカも、うっかりエディに思い出されないように」
するとライカは私の頭に手をかざした。
「その時は、そのままにしておくのも面白いかもしれないね。ふふっ、冗談だけど。それじゃあ――『
――こうして、普段の私じゃない私はライカの存在と共に消え去っていった。
――――――
《エディゼート視点》
急いで宿に向かったものの、そこにアズラートの姿はなかった。逆に、明日には帰ると置手紙が用意されていた。無駄足のようにも思えたが、騒がしい場から抜け出したおかげか少しばかり気分がすっきりとした。
――それにしても、アイラとアズラートは余程気が合うのだろうか
アイラは強さが好きだというようなことを口にしていた。そしてアズラートは魔法こそ使えない者の『見願』で『破願』の願力特性を兼ね備えている。師弟のような関係でもできたのだろうか。
そんなことを考えて一人とぼとぼと歩いて協会本部へと向かっていると、上部の建物の外壁から聞き馴染のある誰かの話し声が聞こえてきた。視線を向けると、そこにはカイレンとエイミィが二人して座って談笑をしていた。
「おーい!」
僕が二人に向けて手を振ると、こちらに気づいたように二人は僕の方に目を向けた。
「あっ、おーい!」
手を振るカイレンのそばまで飛行魔法を展開して近づいていった。
「二人とも、こんなところで何をしてるんだ?」
「えーと、それがわからないままここで話してた」
「......酔っ払ってるのか?」
しかしカイレンとエイミィの顔は至って平常通りの様子だった。むしろ酒を飲んだ後に回復魔法をかけていなかった僕の方が体調的にも気分的にも酔っ払っている気がする。
「えへへ、私もカイレンも気づいたら二人して変な場所で目を覚ますことがよくあったんだ。最近はあまりなかったのだけれど」
「そうなのか?まぁ、エイミィがそう言うのならそうなのだろうけど」
そんなことよりも、と思って僕は二人にアズラートが明日まで帰らないということを伝えた。すると二人はアズラートとアイラが二人で何をしているのかについて、あれこれとそれぞれの予想を語り始めた。
「まさか二人で駆け落ちしたとか!?」
「そうじゃなくて、単純にアイラがアズラートに興味が湧いただけでしょ。あ、でもそれがきっかけでってこともあり得るね」
年頃の少女が二人、その会話の様子はなんとも楽しそうなものだった。
「まぁ、その話は明日本人から直接聞けばいいだろうな」
「うん。はぁ、どんなことをしてるんだろうね。私は駆け落ちに一票」
「私は......いや、私もカイレンと一緒で駆け落ちかな」
そんなことを言い合いながら、僕らは宴のことを忘れたように外壁に座って話に花を咲かせた。これまでのこと、これからのこと、目標や展望を語り合っていると気づけば時間はあっという間に過ぎ去っていった。
――――――
「......ん」
目が覚めると、そこはいつもの場所だった。いつもというか、例の場所というか。とにかく、やけに清々しいあの草原だ。最近になってはあまりこの場所の夢を見ることがなかったので久しぶりだ。
「......」
確か宴を途中で切り上げて、カイレンと宿の一室で大きめの一つのベッドで横になったはずだった。今でもカイレンは隣で寝ているのだろうか。それとも、
「......なんだこれ」
だがそんないつもの場所にも少しだけ変化があった。昼間のように明るかった空は所々不自然に夕暮れ色を滲ませて、草原の一部は硝子のように透明を帯びていた。清々しさはあるものの、どこか不気味な静けさというものも感じた。
「......誰か。......いないか」
今僕が身に着けているのは可変制服。あの赤い刺繍が入ったローブではなかった。今、この場にいるのはエディゼート、そういうことなのだろう。――だが、そんな僕の考えは一瞬にして打ち砕かれることになった。
「......え」
「よぉ」
――目の前には、黒いローブを着た僕がいた。見た目も声も瓜二つ。だが、どこか仕草が違うようにも思えた。受け入れ難いことばかりの状況が起こるこの場は、肌寒さを覚えるほど冷たく乾いた春風が吹き抜けていた。
「なに間抜け面を晒してるんだ」
「あぁ、いや。誰だって目覚めていきなり自分が目の前にいたら驚くだろ」
当たり前のように自分と会話しているこの感覚に違和感を覚えるばかりだった。すると目の前の僕は僕の隣へと腰を掛けた。
「立ってないでお前も座れ」
「......わかった」
言われるがまま腰を下ろす。隣の僕は座った切りこちらを見ることなく話を続けた。
「それで、そっちの世界はどうだ?」
「どうだって言われても......。まぁ、楽しくやってるって感じだな。僕は人の優しさに恵まれてるからな」
運も実力の内ならば、僕はかなりの実力者だ。今のところ、気味が悪いほどことがうまく進んでいる。いつかそれが崩壊した時を想像すると恐ろしく感じるほどに。
「......そっか。俺も、恵まれていたはずなんだがな。世界がそれを許してくれなかった」
「あまり僕を置いてきぼりにして独り語りをしないでくれ。言葉の意味が気になって仕方ないんだ」
そうは言ったものの、僕に何か伝えたい事があって隣の僕はここに僕を呼んでいると考えた。おそらく、いや、確実に隣にいる僕は僕と対を成す存在。つまり対界の僕だ。今まで何度か不思議な出来事が起きてその度記憶が曖昧になっていたが、この場を以ってそれらが対界の存在によるものであることが確定した。
「まぁ、俺が言いたい事はただ一つなんだ」
「......なんだよ」
すると隣の僕は立ち上がって僕を見た。まるで、僕を訝しむような眼差しで。
「――どうしてお前は、俺の姿のままなんだ?」
「......え?」
言葉の意味が理解できないまま、互いに見つめ合う虚無な時間が、風そよぐ草原の音と共に流れ去っていた。
「......まぁいいや。だからお前は理外れ何だろうけど。でもよかったな。あいつがお前の影の部分を帳消しにしてくれる存在で」
「......そのあいつって、アズラートのことか?」
「あぁ。やっぱり、俺だから賢いんだな。へへ」
当てずっぽうで言ったことが見事に的中したが、僕が影と言われている理由がわからないままだった。
「なぁ、どうして僕がお前の姿のままじゃおかしいんだ?」
「ん?だって、俺とお前、対を成すどころか同格じゃねぇか」
「......」
ようやく、目の前の僕が言っていることの意味がわかった。――対の関係であるはずなのに、僕らは存在において同格のままだった。明らかに、不自然極まりない要素だった。
「なぁ。これって、なにかまずかったりするのか?」
「ん?そうだな。まず、お前があっちの世界で目覚めて何が起きた?」
何が起きたのか、それはもうあの一件以外思いつくものがなかった。
「グラシアで大規模な地脈異常が発生して、魔願樹ができた」
「そうだ。あの世界にお前という異分子が介入したせいで、光と影が触発されるように湧き立った。まぁでも、カイレンがいてよかったな。お前は光側でもあるが、同時に強大な影側の存在でもある。もしカイレンがいなかったら今頃世界中は半分崩壊していただろうな」
先ほどから、目の前の僕は僕が光と影という謎の概念を理解している前提で話を進めているような気がした。
「なぁ、さっきから言っているその光と影って一体なんなんだ?」
「ん?あぁ、これは勝手に俺らが概念として使っているようなものだ。別に深い意味はないが、影は光よりも上位の存在と位置付けられているとでも思ってくれ。概念的には対を成していて同格なのだがな」
言っていることの意味がわかるようでわからない、とにかく光の概念は影の概念より格上であることはわかった。
「なるほど。それで、どうして僕が影なんだ?」
「それはお前がいる世界を基準にしてみれば、理外れなお前の存在は影に当たるからだ。だが対界を基準にしてみれば、後からできたお前がいる世界は影の存在となる。だがお前は俺と同格の存在、つまり光側だ」
目の前の僕は難解なことを言っていたが、とりあえず僕には光と影の二面性があることだけはわかった。そんな理外れな僕がこの世界に来てしまったことでグラシアの一件が発生した。それがこの出来事の真相なのだろう。
「まぁ、俺もこう言ったものの考えると頭が痛くなりそうな概念だ。別にお前が深く考える必要はない」
「本当に、頭がこんがらがりそうだ」
話を整理してわかったことがいくつかあった。まず、僕の存在は世界に影響を及ぼすほど異端で、カイレンやアズラート、そして魔願樹などはそんな僕の存在を打ち消すような光の概念をもっているということ。そしてそんな僕であるが、光と影の概念の両者を持ち合わせているということ。少しずつ、僕という存在がどういったものであるかわかってきたが、未だに僕がこの世界にやってきた理由が不明のままだった。
「なぁ、一つ聞きたいんだが......」
「――お、そろそろ時間か」
僕がそう言いかけた途端、地平線の彼方から世界が少しずつひび割れて崩壊を始める様子が見て取れた。なんとももどかしいタイミングだ。
「まぁ、俺に聞きたい事があればこの世界という物語をまた進めてきてくれ」
「物語?まぁ、わかった」
すると崩壊は勢いを更に増してこちら側へと加速していった。
「それじゃあまたな、
目の前の僕が僕に手を振るのを最後に、僕の意識は無を象徴する闇の中へと吸い込まれていった。
――――――
「――い、起きてくださーい」
誰かが僕の肩を揺さぶっている。何かに座っている状態で僕は目を覚ました。ひどく肩が凝っている。
「......あれ、僕は一体」
目を見開くと、机の上には大量の書面が散らばっていた。
「もう、
「あぁ。ありがとう、リトナ。――さて、もうひと頑張りするか」
「頑張ってください。では、失礼します」
リトナが一礼して部屋を出て行くのを見守って、僕はぬるくなったハーブティーを一気に飲み干した。
――グラシアの魔願樹誕生から十一か月。グラシア・アカデミアの局長として、想像を絶する激務を前にどうやら僕は居眠りをしてしまっていたらしい。
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