16 報告
それからシエスタの両親とはしばらく言葉を交わした。
……この二人に伝えておくべきだった事は志の事だけではない。
例えばレインは同じ志を持つ同業者としての交流が有って。
リカは偶にお茶をする同業者としての友人関係を築いていて。
そしてアスカはそれほど長い期間ではなかったものの、冒険者として同じパーティでの時間を過ごした。
生まれ育った村から離れて王都で薬剤師として活動していた彼女の人生の断片を、自分達は少しずつだけど彼女の両親に伝える事ができる。
すくなくともこれらは全部前向きな話。
……きっとシエスタの両親も、彼女がやろうとしていた事を聞くことと同じくらいか。もしかしたらそれ以上に、こういう話を聞きたかったのではないだろうか。
実際、それを聞く二人の表情は穏やかだった。
当然の事だろう。
自分の子供の話だ。
暗く辛く重たい事よりも、明るく楽しくなんでもない軽い事の方がきっと聞いていて心地が良い。
家族の人生の話位は、そんな心地よさに重きを置いたって良い。
もしも……そういう話だけを告げられた今があれば。
できれば自分達がではなく、シエスタ本人がそれを伝えられる今があれば本当に良かったのにと、そう思う。
残念ながら、どうしようもない位に……そういう風にはならなかったのだが。
◇◆◇
そして一通り話し終えた後、レイン達はシエスタの両親に連れられて、村の墓地へとやってきた。
……一ヶ月前の一件の際、シエスタの死について不幸中の幸いだった事があるとすれば、遺体を無事に回収できた事だろう。
冒険者ギルドが回収の為の冒険者を派遣しても、それがうまくいかずに終わる事はままあって。
寧ろ魔物が闊歩する人の住まわない領域で、無事にそこにある事の方が珍しくて。
それ故に遺体を回収でき、最終的に遺骨を墓地に埋葬できたという事は、きっと不幸中の幸いではあるのだ。
……不幸であった事は否定できなくても、間違いなく彼女は此処に眠っている事が分かるのだから。
何も無い空間に語り掛けるような、空虚な事をしている訳ではきっと無いと、そう思えるのだから。
本当に不幸中の幸いと言える事だとは思う。
そしてその墓前で、そこにシエスタが居るのだと、そう認識しながら……墓参りの一連の流れの中で、伝えるべき事を伝えた。
シエスタのおかげでアスカを救う事が出来た事。
自分達の志を……目標を達成する為に大きな一歩を踏み出せた事。
……シエスタが負けた事にならないように、絶対に勝つという事。
とにかくそんな風に、言いたい事を全部。
(……次に来るのが何時になるかは分からないですけど、その時は良い報告ができるように、頑張りますよ俺。だから……応援しててください)
全部伝えた。
王都から離れたこの地まで足を運び行った墓参りはこれにて終わりだ。
元々、墓地には長居する物でも無いから。
それだけ終われば……もうそれで終わり。
その呆気なさが、やはり寂しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます