4 片田舎の医療事情 下
現在旧医療従事者に仕事が回ってくるのは、賢者の治療を受ける事ができない人達の暫定的な受け皿として一応の機能を果たしているからである。
絶対的に賢者の数が人数が足りない。
それ故に順番待ちも発生し、必然的に価格も吊り上がる。
順番を速める為に金を積む者や、個人事業主としての自信の腕を安売りしない者。そうした事を踏まえて自然と出来上がり、結果的に待機時間的にも金銭的、いずれかの理由で賢者の治療を受けたくても受けられない人間は必然的に発生して、そのお零れを頂戴している訳だ。
だが過疎地の狭いコミュニティとなれば話は変わって来る。
そこに居る一人の賢者が安い価格を設定すればそれがその村における治癒魔術の治療費の相場だ。もしその一人に儲ける意欲がないのだとすれば、その安価な診察料の設定は金銭面で治療を断念する人間を無くす事に繋がる。
……そして村の人口が賢者一人でなんとか支え切れるような人数なのだとすれば。そしてその賢者が優秀なのだとすれば。そこに旧医療従事者が入り込むだけのスペースは消えて無くなる。
実際薬剤師のレインから見ても、その村での旧医療従事者の立場は、旧医療従事者にしか治せないという世間一般的に存在しないと思われている何かを患う人専門の人間だけになると思う。
故に自覚的な需要は、良くも悪くも無いに等しい。
まだそこで何かしらの旧医療を生業にしている者がいる方がおかしいのだ。
「じゃあ……兄さん達が懸念している未来のモデルケースみたいなところなんだ」
「モデルケースね。確かにそうだな」
旧医療従事者が完全に淘汰されたコミュニティ。
仮に先月のアスカの一件のような事が起きれば、まず助かる見込みがなくなってしまう状況。
「もしかしたらシエスタさんはそんな地元の様子を見て、なんとかしないといけないって思ったのかもしれないな」
「そうだね……そうかも」
そこまでの話を本人から聞いていないので、あくまで憶測でしかないのだけれど。
……シエスタがそう考えるかもしれないという考えの信憑性はかなり高いように思えた。
「……だったら今日兄さんがシエスタさん達の地元に行くのはきっと良い事だよ」
「……だといいな」
墓参りに行って遺族の方と話をしにいくだけの人間に、何か見えるものがあるのかどうかは分からないけれど。
変えるべき未来として、未来を変えようとする者として……旧医学無き村の現状を、自分の目で見ておきたかった。
それで得られるものがあるかどうかは分からないが、それでも。
と、そんなやり取りをしていた時、休診となっている診療所の扉を普通に開いて入ってくる者がいた。
という事は当然、二人の内のどちらかだ。
そうでなければ困る。
(いや……急患だったら話は別だけど)
だが急患という訳でもなく、新聞や宗教の勧誘などでもなく、本当に勘弁してほしい強盗などの類でもなく、想定通りの相手。
「おはようございます、レインさん。リカさん」
「おはようっす。晴れてくれて良かったっすね」
二人の内のどちらかというより、二人だった。
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